ダイナの分析
「相変わらず辛辣な評価だな」
防衛省の分析官の報告を無表情で一刀両断したダイナに、御代は苦笑、いや同意するように口角を吊り上げて昏い笑みを浮かべた。
その表情を見てダイナは、前から思って口にしていたことを再び述べる。
「教科書を読んだだけで、ゲーム知識も無く、何にも知らない馬鹿を雇い、現実と乖離した報告を出すだけの人間を雇うなど税金の無駄です」
東大卒とか、ハーバード大卒の肩書き、博士号、修士号の学歴を持っていても、現場を知らなければ、正確な情報を送っても、まともな分析がでいるわけがない。
町中の生活しか知らない人間が野生の動物の行動を語るに等しい。高級スーツを着て、高度な学術用語を使っても、せいぜい、新橋のガード下のサラリーマン談義にすぎない。
幾ら論拠として実例を上げても、見当違いな論拠を上げても、現実離れした結論が出てくるだけだ。
彼らが下す結論などワイドショーのコメンテーターレベルの話であり、そんなのは読むに値しない。
「能なしの馬鹿げた分析を元に作戦を立てるなんて死人が出るだけです」
ダイナは吐き捨てるように言った。
自分の生死が関わっている状況で自慢話程度の字数と修飾語だ多いだけの情報を元に命を預ける気にはなれない。
戦争中、彼らの自信過剰、見当違いの情報を元に作戦が行われ、ひどい目に会い続けただけにダイナも御代も不信を募らせている。
ダイナの見方は戦争が終わってからも変わらない。
むしろ、単独でダンジョンに潜っている分、更に確固たる信念になりつつあった。
「何故そんな風に言い切れる」
御代は尋ねた。
根拠無く言うのは無能な分析官共と同類だからだ。
しっかりとした根拠が無ければダイナも意見など聞くに値しない。
それとダイナの論拠を御代も聞きたいからだ。
「単純に、食えないからですよ」
ダイナは説明を始めた。
「単純計算で人間でも一日一キロくらいの食料が必要です。ゴブリンは身体が小さいので八分の一か四分の一程度で済むでしょう。それでも人数がいると食料を賄う必要が出てきます。数が多いので食べる量は集団では多いものです」
ゴブリンの集団が人里を襲撃する理由は、集団だからだ。
集団を維持するには食料が必要で在りゴブリンは生産手段を持たない。
森や山の中だと食料は限られるため、人里を襲うしか他に方法はない。
食料が得られなければ身内の中で食料を巡って争いを起こすことになる。
仲間割れとは呆れるが、食料が無ければ、極限状態になれば生き残るために食料を巡って殺し合いが始まる。
ゴブリンもそんな状況など御免被りたいので、同族でない人間の集落を襲う。
まして集団が複数発生したなら必要とする食料は更に多い。
人里に出なければ、集団が維持出来ないので、人里に出てきて襲うしかないのだ。
「しかもゴブリンロードがいて、それがどれくらい食うか分かりません。ですが、身体は大きいですし、結構な量を食うでしょう。それにロードの周囲に多数の取り巻きがいるはず。ロードほどではないにしても、匹敵する量を食べるはず。食うために山奥ではなく食料の豊富な人里に降りてきていると考えるべきでしょう」
山は食料に乏しい。
ある事はあるが、見つけにくいし数も少ない。
幾ら小食のゴブリンでも、少人数ならともかく、大勢が集まるなら、食べさせる為に食糧が豊富な平野、村落などにやってきていると考えるべきだ。
「山奥の本拠に奪って運んでいる可能性は」
「あり得なくもないですが、低いでしょう」
勿論、御代が言うとおり奪って本拠地に運ぶという事も考えられるがダイナは無いと判断した。
大荷物を運ぶというの、特に輸送手段を持たないゴブリンが選ぶとは思えない。
運んだとしても、担ぎ手によって背負っている食糧が減っていくことになる。
ならば食糧が豊富な村落に本拠地を移動していると考えるべきだ。
「進出して間もないなら、山間の近く、占領された中で食糧が豊富な場所を探すべきです」
「さすがだな」
淀みない自信のある経験に裏打ちされた結論。
聞いている御代も納得の上に心地よかった。
「それで、お前ならどんな作戦を展開する?」
「ゴブリンが進出してきた地域を無人にします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます