日本が手助けする理由

「ここで報酬の話をするか?」


 強い決意を示したのに、ダイナに支払いの話を聞かされて御代は萎えた。


「そりゃ、今の私は個人事業主ですからね。サビ残、やりがい搾取は厳禁ですよ。それにタダでやろうなんておこがましい。上に立つ者の役目、義務は、下が働ける環境を作ること、食わせられること、そして妥当な報酬を提供出来ることですよ。出来ない奴は無能です」

「つまらんことをいうな」

「戦争中、司令部の馬鹿共が援軍も物資も寄越さず、死守を命じたとき隊長が言っていた言葉ですよ」

「……つまらない事を覚えているな、碌な人間にならねえぞ」

「おかげで除隊後は碌な人間に会わずに済んでいます」


 我慢が美徳だ、というが現実は違う。

 当座の我慢は必要だが、苛立ちや困難の原因を取り除くことが人間の本質であり、文明の発展だ。

 精神論で終わらせるのは退化と言って良い。

 それ以前に何ら見返りを与えられない、碌でなしと付き合う必要などない。


「分かったよ。払ってやるよ。規定額で。三日以内に片付ければ、倍額を出す」

「とりあえず期間は置いておいて、なにか情報はありますか? 確定した情報からください」


 御代は、手元にあるだけ情報を渡し始めた。


「簡単に言うとゴブリンの数が増えて、周辺国で被害が増えている。周辺国から救援要請が出ているし、ここまで被害が出て看過出来なくなったので自衛隊が出ることになった」


 日本領域の外は現地の王国や勢力の領域だ。

 こことは友好関係を保っている。

 こうすることでこれらの国と外交関係を結び友好関係を保つことで緩衝国家にしている。

 圧倒的な戦力、攻撃力を持つ自衛隊だが、維持する為のコストも馬鹿にならない。

 最小限の安全保障領域として得た領域を守るだけでも何万もの隊員が必要となる。

 この上、周辺国と戦争をやろうものなら、数倍はかかる。

 中世か近世レベルの国家と言っても不用意に攻め込めばロシアの二の舞だ。

 国力、技術レベルでは遙かに低いアフガニスタンに米ソが攻め込んで泣く泣く撤退していった歴史を見れば、不要な戦争を仕掛ける事がいかに不毛か理解出来る。

 今の領域さえ広すぎるという議論があるくらいだ。

 だから、周辺国、出来れば友好的な勢力と仲良くする。そして支配下の領民達の支持を得ているのなら言うことはない。

 彼らを援助して豊かになって貰えば日本の貿易相手としても好ましい話だ。

 勿論、様々な権益と引き換えにする緩やかな間接統治だ。

 直接統治するのが愚かなことは、戦前の日本で割に合わない――世界的に見てあまりにも手厚すぎる政策を行ったため、投資額を回収する前に敗戦で失ってしまった事を考えれば当然のことだった。


「辺境から出てきていて、既にいくつかの村で被害が出ており、ゴブリンの支配下に入っている。ホブゴブリンを中心に三〇ほどの集団が最低六つは確認された。騎士クラス、貴族クラスも複数確認されていることから、ゴブリン王がいると考えられる。友好国の疲弊を最小限に抑えるためにも出来ればここで食い止めたい」


 間接統治でも周辺国が安定しなければ日本の領域が危ない。

 周辺国が倒れれば、次は日本の領域が攻め込まれる。そして撃退しても、崩壊した友好国の再建には時間が掛かるだろうし、権力の空白域が新たな戦争の火種になる事は中東のイラクでイスラム国が広がったことなどで実証済みだ。

 国会などは自衛隊による侵略だと野党が大声を上げているが、後々の事を考えれば、救援を出すことは必要だった。 長期駐留など駐留経費が掛かるのでやらない。


「このところ戦費が嵩んでいるからな。できる限り早く終えたいから。短時間で済ませたい」


 現地の政府に思いやり予算を出させようにも、中世か近世レベルの国家に支払えるわけがなかった。

 結局、やる事を終えたら戻るのが一番良いのだ。


「司令部の分析官の分析では辺境にゴブリン王がいるということだ。その周辺を中心に探している」

「その分析官の肩書きを持つ間抜け、とっととクビにするべきです」

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