索敵の重要性
人間に卓越した能力を生まれながらにして持つ勇者が現れるように魔族にも卓越した能力を持つ魔王が現れる。
人間の場合は人間のみ、ドワーフやエルフなどからは生まれないのに対して、魔族側はドラキュラやオークなどからも生まれる。
今回はゴブリンの中に突然変異種が生まれ、魔王になろうとしていた。
「すでに上位種が生まれているのも確認した。悠長にしていられない事態だ。大半の部隊は警戒態勢に入った」
「じゃあ盗賊団の討伐は?」
「後方の安全確保だ。ゴブリン討伐しているときに襲撃されたら対処仕切れない」
確かに、テロ組織やゲリラが暴れている中で戦争するのはまっぴらゴメンだ。
身体の中に毒を飲みながら戦っているようなもので対処しにくい。
「じゃあ、隊長の部隊は」
「ああ、主力はゴブリン王の捜索だ。連中の居場所を探している」
隊長の部隊、戦隊の中核にいるのは偵察中隊だ。
偵察と言っても長距離潜入が主な上、威力偵察や時に特殊作戦もやる。
簡単に言うと戦場の便利屋だ。
大概の事に対処できるので簡単に投入、それも激戦地に投入される。
一応他の部隊の支援も受けやすく、一時的に大部隊を指揮下に置いたり砲撃支援や航空支援を受けたりした。
そのため戦闘の焦点に投入される事が多いので、損害も酷かった。
次から次に下ってくる無茶な戦闘に疲れたのもダイナが部隊を離れた理由だ。
まあ、隊長の性格の悪さよりはマシだが。
「自分から探しに行っているんでしょう」
そして隊長の性格上、そうした強敵を見つけようと進んで行くことが多い上、激戦に巻き込まれる。
そうした不利な戦闘に従事されるのもダイナは嫌だった。
「依頼は終わったんで帰らせて貰いますよ」
「えーっ! 帰っちゃうのっ!」
ダイナが帰るというとライリーが声を上げて嫌がった。
「嫌だよおっ! お兄ちゃんも一緒に来てっ!」
アイリからとびっだしダイナの腰につかみかかってきた。
「俺がついて行っても足手まといだろう」
「そんな事ないよ。お兄ちゃんが一緒にいてくれないと不安だよ」
「でも……」
断ろうとするダイナをライリーは上目遣いで目を潤ませながら、無言で訴える。
勇者とはいえ、一五の少女、ダイナの一つ下だ。
しかも見た目より幼く、こんな顔をされたら断りづらい。
「……分かったよ。残るよ。けど、ゴブリン王との戦いに加わるのは絶対に無理だからな」
「大丈夫! ゴブリン王なんてライリーがやっつけちゃうんだから! ライリーは勇者だから!」
腰に手を当てて薄い胸を張り上げながら鼻息荒くライリーは言う。
先ほどまで泣き顔だったとは思えないくらい元気だ。
「……で、連中の居場所は? この後の作戦はどうなっているんです」
嵌められた恨みもあって、ダイナは一瞬殺意の乗った視線を隊長に送ると作戦を尋ねた。
御代は、カモを見つけたヤクザ者のような笑みを浮かべると話し始めた。
「この先の北のエリアに連中がいる。捜索して撃滅する」
「まだ見つかっていないと」
「ああ、発見次第、急行し撃滅する」
「行き当たりばったりですね」
「スポーツじゃないんだ。会場に行けば相手がいる試合ではない。敵を見つけ出すことから始めるのが戦争だ」
隊長の言う通りだった。
双方、相手を見つけられなくて戦闘にならなかった例は多い。
21世紀でもアメリカにある神奈川県ほどの面積を持つ演習場で二〇〇〇名規模の部隊が互いに見えないところから演習を開始。 数日間演習場を動き回ったが最終日まで互いを捕捉出来なかったという記録がある。
部隊の装備のみという制約があったとはいえ、現代でも戦う以前に敵を見つけるという段階が難しい。
中世ヨーロッパで互いに決闘状の如く場所と期日を決めたのもお互い動き回って相手を見る蹴られないという事態を防ぐためだったそうだ。
そして、敵は見つからないという事を、見つかったら即座に攻撃される事を知っており、徹底的に隠れている。
敵を見つけるというのが、ただでさえ困難なのだ。
「なんとしても見つけ出すぞ」
御代は力強く言った。
見つけなければ、敵の反撃を喰らう。
索敵の失敗で油断し奇襲を受け大敗北して戦局が大きく変わったミッドウェー海戦の例もあり、手を抜くことは出来ない。
油断と慢心の精霊は御代の心から排除されている。
だから、ダイナが呼び出されたのだ。
「分かりましたよ」
断れないと分かってダイナは渋々受け入れた。
「で、どれくらい支払ってくれます」
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