ダイナとライリー
「ま、待て! ライリー! うおっ」
「久しぶりーっお兄ちゃんっ! ライリーだよ!」
勇者ライリーは、ダイナの胸に飛び込むと子犬のように顔をこすりつける。
先ほどのゴーレムによる痛みなど吹き飛ぶほど、ダイナは戸惑い狼狽える。
「待てって」
「お兄ちゃーん」
ダイナは嫌がるが、胸の中で嬉しそうな笑みを浮かべ声を上げるライリーを振りほどくことなど出来なかった。
「お兄ちゃん?」
「ああ、違う」
ライリーの言葉に戸惑いを浮かべる田村二尉に、御代が説明する。
「本当の兄弟じゃない。ダイナが一つ年上で、ライリーが慕っているからお兄ちゃんと呼んでいるだけだ」
「ああ、なるほど」
新門戦争で活躍したのだから勇者と接点があっても不思議ではないと田村は納得した。
それに、二人の装備を意外を見れば小さい少女が年上の兄に、じゃれつくような微笑ましい光景だ。
しかし、嬉しそうなライリーに対してダイナの方は戸惑いの表情を浮かべている。
どうもダイナはライリーに苦手意識を持っているようだ。
だが徐々に幼い少女特有の柔らかい感触と甘い香りに、嫌悪感が溶かされてゆき仕方ないという思いがだいな募る。
勇者と言っても一五歳の少女であり幼さが残る可愛らしい少女、いや仔犬のようだ。
愛嬌もかわいげもあり、つい構いたくなる。
ダイナはついつい手を出し、ライナーの頭をなで始める。
「うーんんんっっ! お兄ちゃんだ! ライリー嬉しいっ!」
頭をなでられたライリーは嫌がるどころが心地よいとばかりに犬のような鳴き声を上げる。それが少し嬉しくて余計にダイナは構う。
「ライリー、ダイナが困っているわよ」
そこへアイリが話しかける。
笑顔だが、強パっており額の隅がピクピクを痙攣している。
ダイナの事は好きだがあそこまでやることは出来ない。ましてアイリは年上であり、甘えるなど無理だ。
だがライリーはお構いなしにやっている。
その嫉妬もあった。
「あ、アイリだ! アイリーっ」
しかもライリーはアイリに気が付くとダイナの元を飛び出し、今度はアイリに胸に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと、ライリー」
「アイリっ」
成長したアイリの豊満な胸の中に顔を埋めライリーは、嬉しそうに言う。
「……もう、仕方ないわね」
幼く愛らしい少女が自分を慕って抱き付いてくれることにアイリは母性本能を刺激され両腕で優しく抱きしめる。
「えへへへっ」
抱きしめられたライリーは嬉しそうな声を上げて喜ぶ。
その声の要旨と響きが耳と胸からアイリの身体に響き、先ほどまでの怒りもほだされてしまう。
「ちぇっ」
その姿を見てダイナは珍しく声を出して不満を漏らす。
先ほどまで自分にじゃれついていたのに、アイリを見つけるとすっ飛んでいった。
可愛がっていた仔犬を取られた気分で取っていたアイリにジェラシーを感じる。
しかもライリーは自分が出来ない事を、アイリの胸に飛び込むなどいくら何でも自分には無理な事を平然とライリーは行っている。
羨ましくてライリーにも嫉妬してしまいそうだ。
「それで、どうしてライリーがここにいるんです? 勇者なんて冒険者より人気商売で、何処でも引っ張りだこでしょう」
強大なモンスターや魔物でも一人で倒せる勇者は文字通り異世界の救世主だ。
手こずったとはいえストーンゴーレム程度相手に出てくるような人物ではない。
「済まん、ダイナが来ていると俺が言ってしまったら飛び出してきた」
「そうでしたか」
何故かダイナはライリーに懐かれており、戦争中は一緒に行動する事が多かった。
ダイナは苦手なのだが、ライリーの方からことあるごとにやってきて抱き付いてくる。
アイリにも懐いており、三人で行動する事も多かった。
しかも今みたいに甘えてくる。
作戦行動中でもこうなので非常にやりにくい。
しかもこの状態でも、ライリーの技能は逸品で不意打ちを仕掛けたモンスターを倒している。
まったくもってやりにくい、とダイナは感じていた。
「魔王軍の残党がいたとか聞きましたけど、その討伐をしていたんじゃ?」
「ああ、多少手こずっていたが、お前が来ていると知ると一撃で倒して、そのまま俺のヘリに飛び乗ってここに来たんだ」
「さようで」
自分が来たというだけで力がわき一撃で倒すなんて恐ろしい話だったが、それなら仕方ない。
しかし、隊長も人が悪い。
残党退治の作戦行動中に人に盗賊団の捜索をやらせやがったのだ。
まあ、作戦行動中、もう一方の作戦の準備を行うなど普通だ。
人手不足な自衛隊では尚更である。
だが、ライリーを引っ張り込むために意図的に自分やアイリの事を漏らした可能性がある。
となれば、この後も碌でも無い依頼、いや任務が、あるのだろう。
「それで、この後、何があるんですか?」
ダイナは観念して尋ねた。
隊長は意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「ゴブリン王の討伐だ」
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