第五話 少女勇者とダイナ

少女勇者 ライリー

「いつもならストーンゴーレムなんて簡単に倒せるのに」


 嬉しそうな少女の声がするとゴーレムの腕に閃光が走り、ダイナに向かっていた腕が切り落とされた。

 ついでとばかりに人質を掴んでいた腕も切断され地面に落ちる。


「まあ人質がいたら仕方ないか」


 そして人質は助けた本人、十代前半くらいの小さな少女に抱きかかえられていた。

 痩せているとはいえ、人質は二十代近い女性だ。

 とても幼さの残る少女が抱えられるような体重では無かった。

 しかし、少女は、身体にフィットした上、袖のない装束のため細いことが丸わかりの両腕で人質を抱き上げていた。


「もう大丈夫だよ」


 少女は解放した人質に笑みを浮かべて落ち着かせる。

 ゴーレムが新たな敵を、それも最も脅威の高い目標と判断し、攻撃を仕掛ける。

 両腕を切断されていたため、体当たりを決めようと突進していく。


「無駄だよ」


 少女は人質を抱えたままジャンプすると軽々と空中に舞い、ゴーレムより高い場所まで飛び去り突進を見下ろし避けた。

 肩透かしを食らったゴーレムは急に止まれず木の付け根に当たりようやく止まった。


「あははっ、やっぱりゴーレムはトロいし頭が悪いな」


 地面でジタバタする様子を楽しそうに無邪気な声を出しながら少女は、ゆっくりと地上に着地する。

 そして田村のところまで駆け寄り、人質を渡す。


「この人を頼みます」

「あ、ああ」


 人質であった女性を屈託ない笑みを浮かべる少女から田村は戸惑いながらも受け取る。

 そして受け取った田村女性の身体を、かかる重さを感じて改めて異常なことに、あんな少女が、人を一人抱えて飛び跳ねたことに驚く。


「さあ、かたずけようか」


 少女はゴーレムの方へ向き直り、背中の剣を、彼女の身の丈ほどもある巨大な剣を引き抜き、ようやく立ち上がったゴーレムに向かって構える。

 不敵に構える少女に周りの隊員は息をのんだ。

 既に人質はおらず、彼らの持っている火力、グレネードランチャーやロケットランチャーで攻撃する事は可能だった。

 だが少女の戦い方を見たいという思いが強く、誰もが少女とゴーレムの戦いに見入っていた。

 ゴーレムが先に動き出した再び少女に向かって行く。

 少女は動かない。

 このままでは少女がゴーレムに吹き飛ばされると誰もが思った。

 だが、ゴーレムの身体が当たりそうになった瞬間、少女が消えた。

 吹き飛ばされたわけではない。ゴーレムに触れる直前に身体が消えたのだ。

 全員、少女の姿を探した。


「ふふん」


 楽しそうな声が、ゴーレムの背後から響き、そこに剣を振り抜いた少女の姿があった。


「いっちょ上がり」


 少女が言った瞬間、ゴーレムの身体に無数の閃光が走った。

 さいの目切りにされたゴーレムは身体がバラバラになり、崩れ落ちていく。

 幾ら魔法で動いているといってもあそこまでバラバラにされたらゴーレムとしての機能はなくなり崩れ去ってタダの石塊になった。


「しゅーりょー」


 間延びした幼い少女特有の明るい声が響く。

 だが、本人の姿とは全く異なる戦いぶりと結果に誰もが唖然として黙り込んでいた。


「……何なんですか」


 ようやく田村が一言尋ねた。


「こっちの人間だよ」

「あれがですか」


 異世界の人間は技術の後れがあるとは言え、地球の人類と変わらないとされている。

 あんな動きをする事など不可能なハズだ。


「そうだ。人間だ。まあ彼女は所謂、勇者という人間だ」

「アレが勇者ですか」


 異世界では、モンスターや魔族が跋扈するためか、ごく希に常人より卓越した身体能力、戦闘能力を持つ人間が現れる。

 巨大な剣を振り回し、様々な魔法を操って、あらゆるモンスターを単身で倒し、時に一個中隊でさえ一人で壊滅状態する。

 新門戦争の時、魔王討伐を果たした英雄。

 それが、勇者だ。

 話には聞いていたが田村が見るのは初めてだった。


「あんな小さな女の子がですか?」

「ああ、それが勇者の恐ろしいところだ。さっきの動きを見ただろう」


 信じられなかったが自分たちが手こずっていたゴーレムを驚異的な身体能力を使い切り刻み、人質を助けたところを見てしまっては信じるしかなかった。


「彼女の名前はライリー。十歳に頃に才能がわかり、以来勇者として活躍している十五歳の少女だ。それぐらい生まれつきの素質が他と卓越している」


 その圧倒的な能力は、場合、状況によっては自衛隊の能力さえ今のように上回る。


「イヒヒヒッ」


 隊員達の注目を浴びながら勇者ライリーは背中に剣を仕舞うと嬉しそうな、年齢相応の笑みを浮かべて振り返る。

 視線を感じたダイナは、ゴーレムに受けた痛みも忘れるほど背筋にゾクリとした冷たい感覚が走る。

 そして屈託のない声でライリーは叫んだ。


「久しぶりだね! お兄ちゃん!」


 と喜びの声を上げると勇者ライリーはダイナの胸に向かって飛び込むように走り出した。

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