ゴーレム退治
『緊急! こちらオオワシ3!』
悲鳴のような切迫した声がダイナ達の通信機から流れてきた。
コールサインから、人質のいる集団に向かった中隊からの通信だ。
『人質の周辺にゴーレム出現! 人質を掴んで暴れている! 至急増援をこう!』
「そんなものまで用意していたのかよ」
通信の内容にダイナは戦慄する。
ゴーレムは文字通り魔術で動く人形だ。
簡単な命令しか聞けないが、素材自体が動くため以外と耐久性がある上一部を壊しても動き続ける、意外と厄介な奴だ。
急いでダイナと隊長、アイリ、田村二尉は確認された場所へ向かう。
「いやあああっっっ」
少女が人の三倍はあろうかという巨大ゴーレムに掴まれていた。
「放しやがれ!」
暴れるゴーレムを前に隊員達が罵声を浴びせている。だがゴーレムは無視して暴れ、隊員達を振り払う。
「ストーンゴーレムか」
素材からして石で作られたゴーレムだ。
力と重量があるため接近戦だと潰されてしまう。
だが距離を取れば固いだけでロケットランチャー程度で潰せる相手だ。
しかし、今は人質がいるので使えない。
下手に攻撃すると爆発の影響で人質まで被害を受けてしまう。
「厄介だな」
普通ならスタングレネードを使用して怯ませるが人間の目も耳も持たないゴーレム相手には無力だ。
「術者は?」
ゴーレムを作った魔術師なら止められるはずだ。
それに魔術師でも人間であるため、使える手は色々ある。
「攻撃してきたため、やむを得ず射殺しました」
「術者がいなくなったのかよ。それで奴は死ぬ前になんて命令を下していた?」
「人質を握り、近づく者を攻撃しろです」
「下手に近寄れないな」
命令を下す人間がいなくなったら内部の魔力が尽きるまで、ゴーレムは最後の命令を実行し続ける。
人質を助けようと近づいたら、巨体に攻撃される。
「うわあっ」
人質を助けようとゴーレムの背後から不用意に近づいた隊員に向かってゴーレムが腕を振る。
モーションが遅いため間一髪で避けたが、ゴーレムの腕が木にあたり、砕け散った。
大人が両腕でようやく抱えられるくらいの大きさの木が粉砕されるのを見て全員が改めて恐怖を感じる。
「ヘリにファストロープを落とすように言ってください」
ダイナが隊長に言った。
「もう誰も乗っていないぞ」
「ファストロープでゴーレムの手足を引っ張り押さえつけ人質を助けましょう」
「それしかなさそうだな」
新門戦争中、対戦車ミサイルの数が足りないとき、ダイナ達は創意工夫でゴーレムに対応した。
ロープなどで手足を拘束するのもその一つだ。
「すぐやらせる」
隊長の指示で上空に残っていたヘリからファストロープが下ろされる。
ダイナ達はロープを掴むとそれぞれに輪を作る。
「こいつを木に引っかけて引っ張り上げろ! 手足を拘束するんだ!」
隊長が命じると、バネのように隊員たちが動き周囲に分かれる。
「おらこっちだ」
ダイナは前に出てゴーレムに向かって射撃を行う。
自分に注意を向けさせ、動かすためだ。
射線上に人質と味方がいない場所を見定め上手く位置取りし、頭部に向かって射撃を加える。
攻撃を加えられてゴーレムはダイナに素早く近づく。
しかし、その途中横から銃撃を受ける。
「こっちよ!」
援護と目標分散の為にアイリが射撃したのだ。
同時に二つの目標が出てきたためゴーレムの動きが一瞬止まった。そこへ、後ろから足に向かってロープが投げられ、足に引っかかる。そして隊員達がロープを引っ張りゴーレムの行動が抑えられる。
更に人質のいる腕、反対側の腕と次々とロープを引っかけられ、ゴーレムの動きを抑えた。
「よし」
ゴーレムを動けない状態にしたダイナはゴーレムに近づく。
「ゴーレムの肩の付け根を狙って撃て!」
ダイナが指示するとゴーレムの肩に向かって射撃を行った。
小銃弾が次々に命中し、脆弱な関節部を少しずつ削っていく。
あと少し、と思った時、ゴーレムも危険を感じ腕を無理矢理動かした。
「うわっ」
引っ張られロープを掴んでいた隊員達が吹っ飛ばされ、ゴーレムの腕が解放された。
「畜生、あと少しだったのに!」
もう少しでゴーレムの腕を落とせそうだったところで、ゴーレムが動き出したため、ダイナは悪態を吐く。
腕の一本が自由になったゴーレムは、更に暴れ回り、むしろ拘束された箇所を支点にして無理矢理ロープを引っ張り、振りほどいて自由になった。
「もう一回拘束するぞ!」
もう一度、やり直そうとゴーレムの注意を引き寄せようと小銃を撃つ。
ゴーレムはダイナにパンチを繰り出すが、ダイナは軽々と避けた。
しかし、腕に付いていたロープが鞭のようにしなり、ダイナの身体に直撃した。
「ぐはっ」
「ダイナ!」
ダイナの苦痛に耐える声とアイリの悲鳴が交差する。
命は無事だったが、痛みでその場で動けなくなるダイナ。
そこへゴーレムが近づく。
「離れろ!」
アイリはダイナに近づくゴーレムに小銃を放つ。だがゴーレムは、振り返ることなく、一番近いダイナに向かっており、アイリに振り向こうともしない。
ゴーレムは、そのまま腕を振り上げダイナに下ろした。
誰もがダイナは終わりだと思った。
「フフン、ゴーレム相手にも苦戦するんだね」
ゴーレムの腕がダイナに当たったと思った瞬間、場違いなほど明るい声が響き渡った。
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