御代ブートキャンプ

 ブートキャンプに誘われてダイナは拒否した。

 確かに御代の訓練は実戦的で仲間内からは、レンジャー課程修了者より、御代ブートキャンプ修了者の方が使えるという評価がある。

 しかし、その実態は連日限界まで身体を動かした上での近接格闘戦だ。


「歩兵の商売は歩いた後、戦う事だ。長時間歩けなきゃ意味がない。そして異世界の連中相手だ。銃で仕留められれば良いが失敗すれば待ち伏せ鞍って接近戦になる。危険回避のスキルは教えるが、習得するには失敗を含む場数が必要だ。だから失敗したときのリカバリーとして徹底的に近接格闘戦を仕込むからな」


 というのがブートキャンプの方針だった。

 厳しくて何度隊長を殺そうと考えたか分からなかったが、徹底的に鍛え上げられたお陰でダイナは戦争を生き残れた。

 自衛隊上層部も注目しており、正式な訓練課程にしようかと話もあるそうだ。

 馬鹿げた話だとダイナは思っている。

 特に初回受講者のダイナは、初めてだったこともあり訓練メニューがまともに出来ていなかった。

 隊長が思いつき、好きなアニメや映画のトレーニングシーンや好きなシーンを組み込んだために冗談みたいな内容になってしまった。

 しかもファンタジーな連中を相手にしたため役に立ったのだが、剛腹だ。

 ダイナ達の意見もあり二回目からは多少洗練されたが、それでもキツいことには変わらない。

 レンジャー持ちでも脱落する事が普通の課程だ。

 アメリカの特殊部隊のように選ばれただけでもかなりの素質があるが、合格できるかどうかはまた別問題だ。

 そんなキャンプに再び参加するなどダイナはまっぴらごめんだ。


「ああ、訓練生としてじゃない。教官として参加するんだ」

「えー」


 ダイナは不平を言った。

 レンジャー持ちもいるような訓練生の相手を一週間から二週間毎日なんて嫌だ。


「報酬は出すぞ。月収は保証するぞ」

「うーん」


 報酬と聞いてダイナは考えた。

 何時までも冒険者稼業は出来ない。何時失敗して身体障害者になるか分からない。

 それに当たり外れが大きい。ダンジョンを見つけたときはウハウハだが、見つからなければ収入なしだ。

 今のところはダンジョンの数が多いので稼ぎは多いが、何時までもつか分からない。

 明日にでも失職する可能性はある。

 定期的に支払われる収入は魅力的だ。


「受けようかな」

「止めなさい」


 意思がグラついたダイナに隊長と一緒にへりでやってきたアイリがツッコミを入れた。


「評価Sクラスの、あなたが教官やったら、とんでもないことになるでしょう」


 ブートキャンプ終了後、合格者には成績に応じてSからCまでランクが与えられる。

 因みにDは落第だ。

 Cは、合格点。まあ資格が与えられる、と言ったところだ。

 それでも十分以上に実戦で活躍できるレベルだしレンジャーの上位成績者に匹敵する。

 Bランクは平均点。そこそこ良い。通常部隊なら隊長は務められる。

 Aランクは平均点以上、そして何らかの優れた点が一点以上ある。この辺りからモンスター相手に単独で戦えるレベルだ。

 そしてSランク。

 平均以上かつ何らかの優れた点が複数ある者に与えられる評価だ。

 単独で複数のモンスターとやり合えるレベルだ。長期間の独立単独行動さえ可能。

 因みにダイナに与えられたランクはSランクだ。

 膨大な知識からもたらされる広範囲かつ卓越した観察力。そこから生まれる動物じみた危険察知能力。山登りで鍛えられ、訓練で磨き上げられた野外での行動能力およびサバイバル能力。そして危機的状況におけるあらゆる制約さえ無視して生存に全力を尽くす行動力、いわゆる火事場の馬鹿力だ。

 ピンチな状況に陥っても幾度も戦局をひっくり返したことから与えられたのだ。

 そして状況に応じた適応能力。

 必要ならば演技さえこなす。

 特にブートキャンプの教官職は凄まじかった。

 長距離行軍訓練時訓練生に次々と課題を課し追い詰めていくのは、御代さえ下を巻くほどの芸術だった。

 山登りが趣味でダイナ当人が幾度か遭難したこともあり、遭難する、へばっている時がどんな心理状況か熟知しているだけに追い詰め方がえげつない。

 やり過ぎて訓練生に恐れられるほどだ。

 ダイナが自衛隊に残らなかった理由の一つが、教官時代訓練生相手に絞りすぎた為だった。

 同じくSランクで教官をやって間近で見ていたアイリは止めさせなければならないと危機感を抱いたほどだ。

 因みにアイリがSランクを獲得した理由は、的確な状況判断能力とコミュニケーション能力、そして追い詰められたときの戦闘能力だ。

 怒らせると怖い。

 窮鼠猫を噛む、に近いが、噛むのはネズミではなく変身したドラゴンだ、というのが仲間内の評価だ。

 だからダイナを含めた仲間内では、アイリは絶対に怒らせるな、という共通認識が出来上がっている。

 こうした会話を聞いて田村二尉の顔色はどんどん悪くなっている。

 とんでもない訓練にかり出されようとしていることを思い知らされたからだ。

 その時、無線に緊急報告が入った。

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