田村二尉の評価とその結果
「何とかなったな」
後ろから普通科隊員が追いついてきたのでダイナは生き残った盗賊の拘束を彼らに任せると一息吐いた。
これで任務は終了。
上々の出来だ。
「なあダイナ」
「何でしょう二尉殿」
「よせ、助けられてばかりだ。君の方が腕は上だ。戦争中はあんな感じだったのか」
「ええ、ラープ――長距離挺身偵察はよく行いましたので、そのまま砲撃指示や爆撃を指示したり、空中機動部隊に敵位置を知らせたり、降下地点を指示したりは日常茶飯事でした」
「そうか」
自分とダイナとの大きすぎる違いに田村二尉は嘆息した。
「どうも自分は実戦は向かないようだな」
「そんな事ありませんよ。慣れればすぐに活躍できますよ」
「気休めはよしてくれ。君の方が遙かに上手くやった。今回は君の手柄だ」
「たまたま上手くいきました。まあ上手くいくよう考えましたけど、この程度なら誰でもすぐに出来るようになりますよ」
話していると上空にヘリの大群が現れた。
ファストロープを下ろし、木の間を降下し、次々と隊員が降り立ち、盗賊団を吊り上げて連行する。
その中の一人がやけに俊敏な上、底意地の悪そうな雰囲気を出しながら歩いてくる。
「よお、ダイナ、上手くやったな」
バットカ○マ、いや隊長だった。
「盗賊団を捕捉制圧したんです。追加報酬をお願いします」
「おう、ボーナスを含めて規定額の四倍を支払うぜ」
嬉しい話だが、底意地の悪い笑みを浮かべながら話してくるとどうしても素直に喜べない。
「ありがとうございます」
だが金を貰うので礼だけは言っておく。
冒険者とはいえ商売人だ。支払いの良い上客、取引相手は大切にしなければならないのだ。
ただ働き、安い下請けなどまっぴらごめんだ。
「で? 田村は使えそうか?」
ついでのように尋ねてくる。
本人を前にして気にすることなく尋ねてくる。
それが隊長なのだ。
「まあ、未熟なところはありますね」
そしてダイナは嘘を吐くことが苦手、社交辞令さえ抵抗のある人間だ。
本人を前にしても正直に話す。
「ですが、やる気と技能は一級品です。経験を積めば第一線の指揮官として十分に活躍出来るでしょう。問題はありません」
「ダイナが言うなら間違いないな」
人見知りが激しく、あまり喋らない上、いじめに遭遇してきたダイナだ。
嫌な相手から逃れるため人を見る目はかなりある。
ダイナが良いと思った人物は、大概良く外れることは少ない。
「ありがとう、ダイナ」
褒められた田村二尉がダイナに礼を言う。
「止してくださいよ」
ダイナは言った。
「このあとひどい目に遭うでしょうから、今のうちに謝っておきます」
「? どういうことだ?」
ダイナの謝罪を聞いて疑問符を浮かべていると、田村二尉の肩に隊長の手が置かれた。
「田村、お前見所があるそうじゃないか」
笑みを、獲物を見つけた肉食獣が浮かべるような獰猛な笑みを舌なめずりしながら隊長は浮かべた。
「は、はい」
田村二尉は顔を引きつらせた。
肩に置かれた手の指が、肩の肉に食い込んで痛い。
上官なので無理に振り放そうとはしなかったが、痛みに負けて下がろうとした。
だが、肩は万力に挟まれたように微動だにしなかった。
「ウチの隊では新人研修のブートキャンプを用意しているんだ。ある程度新人入ったら開講するんだ。参加しろや」
「め、命令ですか」
「勿論🖤」
気色の悪い声色を放つのは悪辣なこと――隊長本人にとっては良いことを企んでいるときだ。
田村はダイナのご愁傷様という表情を見て最悪の事態に気が付き、逃げようとするが、決して逃がさないという意思が肩に食い込んだ指から伝わり、自分が罠にはまったことを理解した。
「もう少し、見所のある奴を入れてから始めるんで暫く先だがな」
一、二週間ぶっ続けで行う上、通常任務も消化する必要があるので多少人数が集まらないと開催しない。
つまり田村の他にも運の悪い連中が生まれるということだ。
「ダイナ、お前もどうだ?」
「結構です」
反射的にダイナは拒絶した。
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