盗賊団包囲

「ダイナです」


 自ら自分への悪態をコールサインにする隊長にダイナは返事をした。


『もう二〇〇走れるか?』

「なんとか」


 田村二尉を見てダイナは答える。疲れている田村二尉だが、それくらいは走れると算段を付けた。


『特科が位置に付いた。支援射撃を行う』

「普通科の配置は大丈夫ですか?」


 射線上に展開していると希に流れ弾が降り注ぎ被害が出る。

 一パーセントくらいだが、数百発を打つことがあるので、できる限り射線の下に部隊を置くのは避けたい。


『大丈夫だ、普通科は射線上には展開していない』


 グラスディスプレイで情報を確認する。

 確かに射線上を中心に一個中隊ずつ左右に展開し、射線上にはいなかった。

 隊長が上手く誘導したのだろう。射線上の一箇所にマークが付く


『予定位置を送った。映像で見えるな。そこまで敵を引き寄せて砲撃しろ。弾着観測は出来るな』

「はい」


 偵察ついでに砲撃や爆撃を誘導したことなど戦争中に幾度もあった。

 そのやり方はまだ忘れていない。


『ダイナ、砲撃指示を行え。相手のコールサインはヤハタだ』

「了解!」


 ダイナは後ろの下がり田村二尉に伝える。


「二尉殿。砲撃します。合図したら後方に下がり、私の隣で援護をお願いします」

「分かった!」


 銃で撃ち返しながら返事をする。

 ダイナは更に後方へ走るとクレイモアを取り出して木の根元に置く。

 そしてコードを引きながら更に下がり、隠れた。


「二尉殿、準備完了です。下がってください」

『分かった』


 援護しつつ二尉が下がってくると見張と援護を交代し砲撃指示を始める。


「ヤハタ、ヤハタ、こちらダイナ、聞こえているか? 送れ!」

『こちらヤハタ、感度良好だ。送れ!』

「設定している砲撃目標の座標はマーカーの位置か」

『そうだ。こちらは砲撃準備完了。いつでも送れる』

「今すぐ撃ってくれ」

『了解。撃て!』


 右後方から発砲音が聞こえた。


『今試射を送った。弾着まで五秒! 四、三、二、弾ちゃーく、今!』


 声と共に盗賊団の左後方に弾が落ちて爆発した。


「遠すぎた。二〇〇下げて撃ってくれ」

『了解!』


 すぐに第二弾がやってくる。

 今度は盗賊団の右に落ちた。


「夾叉した! 五〇程上げて射撃開始! 弾幕を作ってくれ!」

『了解! 中隊射撃開始!』


 先ほどより激しい砲撃が連続して後方から響いた。

 数秒後、盗賊団の後ろに砲撃が雨あられと降る。


「命中! 命中! 砲撃を続行せよ!」

『了解! 効力射を開始する!』


 景気よく連続音が後方から響いてくる。

 同時に目の前で火柱が林立する。

 特科の砲撃で盗賊団は混乱した。着弾で起きる爆炎の壁で後方へ下がれなくなる。

 仕方なく盗賊団は破れかぶれにダイナ達の方へ突撃して来た。


「盗賊団が来るぞ! どうする三尉!」


 田村二尉がマガジンを交換しながら言う。


「クレイモアを使います」


 ダイナは手元に置いた発火装置をコードに取り付けると、数回握り、クレイモアを作動させた。

 前方に仕掛けていたクレイモアが爆発し六〇〇個のボールベアリングを飛ばし盗賊団に降り注ぐ。

 十数名の盗賊がボールベアリングの雨に捕らえられ倒れた。

 だが、砲撃の恐怖の前に盗賊団はダイナ達への突撃を止めない。

 そこへ、横殴りの銃撃が降りかかる。


「普通科部隊だ。追いついたんだ」


 河原に降下した二個中隊の一つだ。

 横隊に展開した彼らは射線上に飛び出してきた盗賊団に小銃の一斉射撃を浴びせた。

 射撃を受けた盗賊団は次々と倒れて行く。


「凄い」


 初めて間近で見る砲撃と射撃戦に田村二尉は感嘆の声を上げた。

 強烈な光が現れたと思ったら、爆炎をあげ黒い煙をまき散らす。巨木だろうが地面だろうが穿ち破壊する場面に、魅入った。


「だが、砲撃して分断しそこへ小銃の集中射撃とは」

『そうだ。ようはリンチだ』


 無線が繋がりっぱなしだったため田村二尉の呟きは隊長に届いた。


『分断して砲撃で足止めして殲滅するのは基本だからな』

「悪い顔をしていますね」


 嬉々として話す隊長の声からダイナは隊長の顔を想像して呟いた。勿論回線はオープンだ。


『済まんな。面が悪いのは生まれつきだ』


 隊長に聞こえていたが気にせず、むしろ嬉々として返す。

 戦争の時から知っているが、こういう人間なんだよな、とダイナは改めて呆れる。

 くだらない会話している間にも、射撃から逃れようと盗賊団は、中隊の反対側へ向かうが、隊長は逃がさない。


『ヤハタ、砲撃中止。ハヤブサ、逃げる奴の前に銃撃を加えろ』


 隊長の指示で特科の砲撃が止み、砲弾が来なくなった空域へハヤブサが侵入。逃げる盗賊に対して先回りする。サーモグラフィーで森の中の盗賊を見つけ、機銃射撃を浴びせる。

 警告射撃で盗賊の脚が止まった。

 ダイナは飛び出し、彼らの手前に銃撃を浴びせる。


「ナクゴウ!」


 異世界の言葉で盗賊を制止する。

 何度も空から飛来されたのと砲撃を食らって虚脱状態になった盗賊達は逃走する気力もなくなり、手を上げて降伏した。

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