撤退戦

 田村二尉が放った一発は見事に杖を持った人間に命中し倒れる。


「ちっ」


 小さく舌打ちするとダイナも狙撃する。

 やはり命中させる事に成功し、杖を持った人間は地面に倒れた。

 だが次の瞬間後ろにいた盗賊の仲間がメイジスタッフ、小さな杖を取り出してダイナ達に杖先を向けてきた。


「やはり囮か」


 これ見よがしに目立つ囮の魔術師に狙撃させて待ち伏せた連中を引きずり出し、本物は盗賊に偽装。発動体は小さくして懐に隠しておく。

 敵が囮に引っかかったら、狙撃した方向へ射撃する。

 見事な作戦であり、引っかかってしまった。

 杖を構え、呪文を唱えている。

 素早くダイナは狙いを定めて引き金を引いたが、もう一人の魔術師がプロテクションを唱えたため、シールドに阻まれ弾が弾かれる。

 新門戦争の時は銃弾を弾かれて結構苦戦した。

 だから魔術師は最初に仕留めておきたかった。

 だが、最早無理だ。

 プロテクションで守られている上に、こちらに杖を向け、狙いを定めている。


「二尉! 伏せて!」


 狙撃を逃れた魔術師がファイアーボールをダイナ達に向かって放つ。

 伏せて避けたが、至近距離で爆発し、爆煙が二人を炙る。


「くっ」


 ダイナは牽制で小銃を連射する。

 だが盗賊団は分散した上に魔術師がプロテクション、防御の魔法をかけたため、銃弾が弾かれる。


「撤退してください! 援護します!」


 ダイナが叫ぶと田村二尉は素直に後ろに向かって駆け出した。

 下手に義侠心を出して留まるよりありがたい。

 ダイナは近くの木に実を隠して牽制射撃を行う。

 プロテクションの範囲から飛び出した馬鹿一人の足を狙い命中させ、離脱させる。

 なるべく殺さないよう追撃出来ない足を狙う。手当のために人手を割かせるためだ。追っ手は出来るだけ少ない方が良い。

 だが、プロテクションもあって盗賊団の損害は少なく、徐々に接近してくる。

 その時、後ろから銃声が響いた。

 田村二尉の射撃だ。後ろから援護してくれている。

 一人置いて逃げ出すと思ったが、中々肝が据わりやる気がある人のようだ。

 ダイナは盗賊団が牽制されている隙に後方へ撤退した。

 途中田村二尉を追い抜き、更に後方へ走る。

 一〇〇メートル程離れたところで、マガジンを交換し射撃の構えをする。


「田村二尉殿、下がってください。援護します」


 ダイナは引き金を引き狙撃する。

 相変わらずプロテクションで守られているため、わずかな損害しか与えられなかったが、牽制、足止めにはなった。

 それにプロテクションを使っている間、魔術師が攻撃魔法を使えない。

 魔術師は様々な魔法が使えて便利だが発動出来るのは一つの魔法のみが殆ど。一つの魔法を使っている間は他の魔法が使えない。攻撃を続ける意味はある。

 ダイナが牽制している間に田村二尉が離脱し、こちらに駆け寄ってくる。勿論、ダイナの射線に被らないようにだ。

 レンジャー持ちは伊達ではないようだ。

 後方に下がったのを確認して援護を続ける。

 盗賊団はダイナ達を追いかけてきている。

 ここは予定通りだった。

 人質を連れたまま、このスピードで追いかけることなど不可能。分断することに成功したはずだ。

 盗賊団としてはダイナなど追いかけたくないだろうが、攻撃され続けるより、ここで仕留めるべきだと判断したようだ。お陰で目論見通りだが、魔術師を倒せなかったので苦戦している。

 やがて後方に下がった田村二尉が援護を始めたのでダイナは再び下がる。


「ハヤブサ! 敵の状況、配置はどうか! 知らせ!」


 後ろに向かって駆け抜けながらダイアナは上空偵察中の偵察ヘリに尋ねる。


『此方ハヤブサ。ダイナの方へ三十名ほど向かっている。その後方二〇〇から三〇〇に十名ほどの集団が残っている』

「後方は捕まった村人とその見張りだ。捕まった一般人は助けたいから見落とさないでくれ」

『了解した。援護は必要じゃ無いか?』

「今のところ大丈夫だ。俺たちに引き寄せるためにも今は監視するだけで、攻撃しないでくれ。人質の監視を優先して頼む」


 解放するために攻撃を仕掛けたのに見失っては意味がない。

 ただ、そろそろ追いかけられるのも限界だ。

 ダイナは大丈夫だが、田村二尉はレンジャー持ちとはいえ、初の実戦で緊張し疲れやすくなっている。これ以上引き回すのは止めたい。

 それに、これだけの逸材、使える人間を戦死させるのは惜しい。

 まだ、未熟だが十分な技能と体力、知能、そして気概を持っている。磨けば化けるだろう。良い部隊指揮官となり活躍してくれそうだ。

 というか成長して貰わないとダイナにまで余計な仕事が、隊長の無茶ぶりが回ってきてしまう。

 ここは生き残って活躍して貰いたかった。

 その時通信が入った。


『ダイナへ、こちらバットカル○。生きているか?』

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