交戦開始
「奴ら捕らえた村人に荷物を背負わせているのか」
移動速度が遅いと思ったが、裏人を連れていたのなら納得だ。
それに女性もいる。
他国で売るつもりだろう。日本領域では許していないが周辺には奴隷制度のある国もある。
他国に売りつけて小遣い稼ぎをしようというのだ。
人間を人間とお思わない卑劣な連中。
他に売り物が無くてやむにやまれず、と言う事情もあるが、連中の場合、金を得たいがためだけだ。
自分の利益のために他人を売るなど反吐を吐き付けたい連中だ。
出来る事なら、今すぐ連中の脳天を全て銃弾で撃ち抜きたいとダイナは思った。
だが、今は接触中。味方に盗賊団尾一を知らせないといけない。
それに多勢に無勢。
近代兵器があっても囲まれたらお終いだ。
「三尉、捕まっている人達を助けよう」
田村二尉が言った。
予想外の事にダイナは目を見開く。
「多勢に無勢ですよ」
「何か出来ることはあるだろう」
「日本国国民じゃありませんよ」
「だが、ここは日本の領域だ。日本の中で好きかってさせられるか」
正義感が強い人だ。不利なのに役目を果たそうとしている。全く、将来出世しないな、とダイナは思った。
だが嫌いではない。
ダイナは二尉の評価を改めた。
そして口端を引き上げて笑いながらいう。
「そうしましょう」
願ってもないことだった。
使えないとはいえ、お守りがあるため二尉を置いていくことは出来ない。
だがやる気を見せてくれるのなら、手が無いわけではない。
ダイナは素早く作戦を立てる。
「魔法を使って火力を増してくる魔術師を仕留めて、連中を我々に引き寄せましょう」
「自分で言っておいてなんが、多勢に無勢だぞ。作戦はあるのか?」
同感だったが、助けようという気概があるのだ。
その思いに手を貸したくなる。
何よりダイナ自身がやりたい。
「ええ、ですから連中は私たちを仕留めようとやってくるはず。そのまま味方の二個中隊が展開する河原近くまでおびき寄せ包囲殲滅しましょう。ヘリや特科の支援もあります。余程拙い状況にならなければ対応可能です」
今は二人しかいないが支援をいつでも要請出来る。
そのために火力支援の特科とヘリが展開しているのだ。
「それに連中少数の私たちを追いかけるために足の遅い人質は少数の護衛を残していくはず。残った連中は村に着陸した中隊に救出させるもよし、殲滅したあと、包囲するも良しです。それに追いかけてくるなら分断出来ます。纏まった盗賊団を相手にするより人質の救出は楽になるはずです」
「よし、それでいこう」
二尉はダイナの提案にのり行動を始める。
ダイナ達は回り込むように動いて盗賊団を先回りして待ち伏せる。
「連中やってくるぞ」
木の根元に伏せて射撃姿勢をとっていた二尉がいった。
「此方も捉えました」
ダイナも相手を捉えた。
足場が悪いため一列になってやってくる。
クレイモアで一網打尽にしたいが、人質の位置が変わる可能性もあり、今回は仕掛けなかった。
それに派手に攻撃して数が減りすぎると萎縮して追いかけてこない可能性もある。
「魔術師を狙ってください」
この場で一番脅威なのは魔術師だ。
攻撃でも防御でも支援でも魔法でありとあらゆる状況に対応出来る。
新門戦争の時、かなり梃子面された。
真っ先に排除する必要がある。
更に厄介なのはヒーラーだが、聖職者で倫理観が高く、邪神の神官は別として盗賊などのアウトローにはいないことが多い。
幸い、神官はいない。
「わかった。杖を持っている奴だな。左は俺がやるから右を頼む」
田村二尉がダイナの言うことを素直に聞いた。
階級ではなく有益な事を学ぼうとしている。
良い兆候だ。根は素直な人間なのだろう。
本人は未だ未だ未熟だが、周りから色々教わり良い幹部になるのではないかとダイナは思った。
そして魔術師を狙うべく狙いを定める。
だが、スコープごしに魔術師を見てダイナは違和感を感じた。
大きな杖を持っているが、その材質と扱いが雑に思えた。
杖は魔術を発動させる媒体であり魔術師の重要なアイテムだ。材質によって魔法の威力も消費魔力も違うので高価なオークなどを使うし、乾燥させたり表面に塗料を厚塗りするなどして保護する。。
どう見ても安い木材だし、加工もチープだ。
そして杖に体重をかけている。
疲れているからかもしれないが、折れかねない扱いはなるべく避けたいはず。
囮の可能性があるとダイナは判断した。
「二尉、魔術師ですがあれは」
ダイナが言おうとした瞬間、田村二尉が引き金を引いた。
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