ダイナの目論見
「此方に追い込むのか?」
「ええ」
ダイナの通信を聞いていた田村二尉が尋ねてきて、ダイナは肯定した。
偵察のヘリを上空に飛ばしてダイナ達の方向へ追い立て、ダイナ達が接触。
以後は接触を続け、河原に降りた二個中隊、二〇〇名ほどと連絡を密にしつつ彼らの元へ誘導し、圧倒的な火力で制圧するのがダイナの狙いだ。
「だが、普通科が乗るヘリの音に盗賊団が気がつかないか?」
「偵察ヘリを連中の上空に飛ばしていますし、風下なので音は聞き取りにくいでしょう」
風の強さにもよるが風の方向によって音が届く範囲は変わる。
風下ならヘリの集団でも聞こえにくいと判断しての事だ。
だから風向きを気にしてヘリに指示を出したのだ。
「連中が進路を変えるようならどうする?」
想定外が起きた場合の事を尋ねてきた。田村二尉の事をダイナは少し見直し、答えた。
「その時は連中の鼻面に特科の砲撃をお見舞いします」
軽量の新型一五五ミリ榴弾砲なら空輸した上、余裕で連中を射程内に収められる。
ど真ん中に命中させて混乱させたあと、進路上に弾幕を張って通行不能にして二個中隊が待ち構える方向へ誘導すれば良い。
偵察ヘリや輸送に使ったヘリにも機銃が装備されているはず。
輸送ヘリを護衛した攻撃ヘリに攻撃させる手もある。
十分すぎる火力なはずだ。
「……初めからこのような事を作戦を考えていたのか?」
「ええ」
盗賊団は身軽であり一度発見してもすぐに次の村へ移動してしまう可能性がある。
早急に潰す必要があるので、見つけ次第潰そうと決めていた。
「接触してそれで終わりにしようとは思わなかったのか? 特別報酬目当てか」
「特別報酬が目当てですが、そもそもの目的が盗賊団の殲滅ですからね。殲滅出来るよう現地の情報なども考慮して作戦を立案し提案するのも偵察の役目ですから」
「監視して報告するだけではないのか?」
「偵察のみ、敵情報告のみならそれも良いでしょう。ですが今回は攻撃のための偵察です。参加部隊の先鋒になるくらいの覚悟は必要です。敵情に一番詳しいのはわれわれです。作戦立案、攻めて提案が出来るくらいはやりませんと」
「やり過ぎとは言われないか?」
「むしろこれくらいやれ、というのが隊長の要求ですね。やらなかったら殴られますよ」
さすがにダイナが民間人になった今はやらないだろうが、戦争中は、手を抜くと御代にぼろくそに言われたし殴られた。
「この程度がお前の限界じゃないだろう」
偵察と同時に作戦立案もやらされた。
失敗する事もあったが、許容範囲、勇み足なら許してくれたし、リカバリーもしてくれた。
むしろ躊躇したら怒られた。
そもそも、理想的な作戦案でも実行できない事が多い。失敗しても仕方ない、むしろどうリカバリーするかが腕の見せ所だ。
まあ、ありがたい上司だ。
酒屑で乱暴でスケベでどうしようもない奴だが、戦術眼が優れているのは認めざるを得ない。
「そろそろですね」
話していると前方からヘリのローター音が聞こえてきた。
接触中の偵察ヘリだろう。
あの下か、手前に盗賊団がいるはずだ。
ダイナは照準器を熱探知モードに切り替えて周囲を探る。
「ビンゴ、見つけました」
十数人の盗賊団が現れた。
ボロボロだが甲冑を身につけ手に斧や剣を持っている。
さらに後ろにも盗賊団の仲間がいるようだ。
ヘリから逃れようと此方に向かってくる。
「本部へ目標と接触した。位置は予想通りの場所。二個中隊が降下した場所へ向かっている。展開して前進しつつ待ち伏せするように伝えてくれ。特科の準備は?」
『こちらバットカ○マ。現在、部隊展開中。前進を開始した。特科も空輸中で五分以内に射撃可能だ』
出たのはアイリではなく隊長だった。
自ら自分への悪態をコールサインにしていう、ひねくれ者など隊長以外にいない。
「遅かったですね」
『済まん。ダイナの仕事の手際が思ったより早かった。おかげでこっちの仕事も片づいた。作戦展開に感謝する。ダイナの指示は全て追認する。敵の位置を報告し続けろ。支援が必要なら連絡しろ。あと追加報酬決定だ。上手く誘導したら更に出すぞ。以上だ』
「了解」
ダイナは情報交換を終えると監視に専念した。
部隊の指揮も行わなければならなかった先ほどまでと比べると断然やりやすい。
まったく有能な上官というのはありがたい。
ずっと下に付いていたくないが。
「少し脇に左に逸れましょう」
盗賊団の全体を見るためダイナは盗賊団の左方向へ移動する。
側衛がいないか心配だったが、見通しの悪い森の中に側面に見張りを置いてはいなかった。
はぐれやすいし、奇襲を受けやすいので配置したくないのだろう。
ダイナは絶好の位置に移動すると、発見される危険も無く盗賊団の全体を見渡す。
「総数はヘリの報告と変わらずおよそ四〇以上。装備は剣に斧、槍、弓矢。魔術師が一人、いや二人か」
規模と同じだが盗賊にしては装備が良いように思えた。
だが観察を進めて盗賊団の後ろを見ると荷物を背負わされ縄で繋がれた青年と女性数人が目に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます