偵察の結果と分析判断

「ダイナ、無人偵察機のオペレーターから連絡があったわ。七番目の村に反応ありよ」


 アイリに言われたダイナは起き上がると、端末を確認し送られてきたムービー、中継映像を確認する。


「見つけた」


 村、というか集落の様子、数棟の建物と畑が映るだけの映像だった。


「これの何処が問題なのだ」


 怒鳴り疲れて黙っていた二尉はふてくされながら尋ねてくる。

 ダイナは今度は黙り込まず、証拠がもたらされたので、一番目の村の映像を見せて説明を行う。


「ご覧ください二尉殿。これは最初の村です何か気になる点はありますか?」


 ダイナに言われ記録ムービーに映る一番目と七番目の村を比較する。


「七番目は人が居ないな」

「ええ、人が居ません」

「空を飛ぶ物体を恐れて隠れているんじゃないのか?」

「可能性はあります。ですが、好奇心旺盛な子供が飛行機を見に外にいないのはおかしいですよ。一人残らず家の中にいるのは変です」

「そうなのか? 何か村総出でやっているんじゃないか?」

「それにしては炊事の煙が多いですね。人はいるのに外に出ないなんておかしいですよ。それに建物に比べて炊事の煙が多いです。こんなには使いませんよ」


 薪の確保は大変だ。

 確かに薪は何処にでもあり近くの森に入れば集められる。

 だが薪を使う為には割ったり乾燥させたりと準備が必要で使うまでの苦労がある。

 そうして丹精込めて作った薪は大事に使う。自分の家で使わず、余らせれば街に売りに行き金に換えることも出来る。

 だから薪は、できる限り節約しようと考えるのが普通だ。

 最近は日本の援助によって扱いやすいプロパンガスとコンロが普及し始めている。だが都市部が中心で辺境の農村までは供給体制が整っていないため、送られていない。

 炊事の煙が上り続けるのは不可解だった。


「ここに盗賊団がいると?」

「はい、建物に隠れていると思われます」


 自衛隊が航空機を使って偵察や監視をしていることは異世界でも周知の事実だ。

 そのため、航空機から、空を飛ぶものに警戒感を持っている。特に自衛隊と敵対している、自衛隊が守っている領域で盗賊を行うならなおのことだ。

 勿論、村人が無人偵察機を怖がっている可能性もある。

 しかし、他の村には外に人が居たのにこの村だけいないのは不可解だ。


「この程度で分かるのか」

「ええ、十中八九は、結構使える手ですよ。あえて飛行機を飛ばして村の反応をみるのは」

「だが人がいないだけで答えになるか?」

「先ほどの問題の答え分かりましたか?」

「六だろう」

「いいえ零です」

「何故だ」

「銃声を聞いて池に留まるようなカモなんていませんよ。訓練されているか慣れていない限り」


 引き算のつもりでも、銃を撃つという行為で結果は全く違うことになる。

 飛行機を飛ばすだけでも、村人と盗賊では反応が違ってくる。

 戦争時代にダイナ達がよく使った手だった。

 元は朝鮮戦争時代、仁川に上陸され後方を遮断された北朝鮮軍が崩壊し、ゲリラ化して韓国の農村に隠れたとき連合軍がゲリラが潜伏しているか判定するために使った手だ。

 いつも当たったわけではないが、使える手だ。


「直接、調べてみる価値はあります。アイリ、無人機には他の村の偵察を継続するように指示を。この村と同じような反応があれば伝えて。無ければ、戻ってきて、この村の監視をお願いして」


 たまたま外に出ていない事も考慮してダイナは指示を出すと、偵察装備を担いでヘリに向かう。


「おい! 三尉! 何処に行くんだ!」

「盗賊団探しです。この村にいるか直接目視で確認します。ヘリで降りた後、歩いて接近するので大変ですが行きますか?」

「馬鹿にするな。これでもレンジャーを終えているんだ」


 ダイヤモンドと月桂冠をあしらった記章を田村二尉は見せつけた。


「そうですか」


 ダイナは素っ気なく答えた。

 勿論、レンジャー修了者が陸上自衛隊で重きを置かれているのは知っている。

 訓練が過酷だと言うことも。

 だが、だからといって実戦に役に立つかどうか知らない。

 レンジャーを貶すわけではない。レンジャー持ちの人間と何度も戦争では共同戦線を張った。

 しかし、彼らは耐えることを強いられ戦場で生き残る事を考えようとしていない。

 部隊によって訓練のやり方は変わっているようだが、レンジャー持ちは勇敢あるいは耐えることになれすぎているため、真っ先に激戦地へ飛び込み、耐え抜いて死んでいくように見えた。


「馬鹿にしているのか」


 ダイナが冷めた目でレンジャー徽章を見ているのを見て見下されていると思った田村は声を荒らげた。


「いいえ、それより、行きますか、行きませんか? お相手は出来ませんが」

「馬鹿にするな。俺もいくぞ」


 そう言って偵察装備を担いでいく。


「アイリはここで調整を頼む。無線の周波数はフジサン――チャンネル二二三で。すぐに出撃出来る中隊の数は?」

「一個中隊が常に即応待機状態よ。もう一個中隊が二時間以内に投入可能。残りと特科は四時間以内。けどヘリの数が足りなく同時に動かせるのは二個中隊だけよ」

「全中隊に招集かけて。二個中隊ずつ投入する。特科も準備。それと三佐に連絡して、潜伏先候補を見つけたと伝えて。指揮の準備と追加報酬の用意をするようにもね」

「了解」


 アイリの返事を聞くとダイナは飛び出し田村二尉も続いた。

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