田村二尉の苛立ちと偵察

「勝手に行動するな」


 だが自分抜きに進めるダイナとアイリを田村二尉が怒りながら止めに入った。


「連中に見つからないように行動するんじゃなかったのか?」


 ダイナが言った先ほどの方針と違う指示を田村は指摘する


「ええ、しかし、時と場合によりけりです」

「どういうことか説明しろ」


 説明を要求してきた田村二尉を見てダイナはアイリを見た。

 アイリは無言で首を横に振る。


 ――隊長から何も教わっていないのか?

 ――全然教わっていない。


 アイコンタクトで内容を理解した。

 田村二尉は優秀な人なのだろう。防大や幹候で優秀な成績を収めたエリート、言われたことはこなす人、つまり応用が利かない人なのだろう。

 戦争の時の戦訓は伝わっているはずだが、二尉に昇進して暫く経っているようだ。

 二尉になるとき術科学校に入り教育を受けるはずだが、卒業直後に戦争が始まり、戦争の間は後方勤務で実戦経験はなし。戦争後に配属されたようだ。

 勿論他の方面も大事だ。戦争の混乱でロシア、中国、韓国が日本を狙ってくるとも限らないのでその方面の守りは必要だし、守りがあったからこそダイナ達が戦えたので感謝はしている。

 しかし、門周辺と異世界では地球のやり方と違う。

 隊長、御代三佐は見込みがあるなら丁寧に――時に暴力的に徹底して教えただろう。

 だが見込みのない奴は放置だ。

 可哀想に、田村二尉は隊長に見込みなしと判断されて何も教わっていないようだ。

 だが、見込みありと判断されたら、ダイナのように徹底して殴ってでも教え込んだだろう。

 どちらが幸せかは、ダイナには判断が付かなかった。


「どうした三尉」

「突然ですが二尉」

「殿を付けろ」

「申し訳ありません、一つ問題を、池に七羽のカモがいました、一羽を狙って銃で撃ちました池にいる残りは何羽ですか?」

「七引く一で六だろう。それとも銃が下手で外して七だと言いたいのか」

「いいえ」

「おちょくっているのか」

「申し訳ありませんでした田村二尉。兎に角、要請の飛行許可を」

「理由を説明しろ」

「済みませんが、刻一刻を争います」


 説明しても理解出来ないだろうとダイナは判断した。そして説明している時間が惜しかったので言わない。

 そんな事だから、人に嫌われるとアイリは思ったが、そんな器用な人間なら自衛隊に残っているはずだし、ソロで冒険者なんてやっていない、と思い出して黙ってやりとりを聞いていた。


「だめだ説明して納得出来なければ許可出来ない」

「アイリ、僕の権限はどうなっている?」

「三佐の代理としてその作戦に関しては権限が与えられているわ」

「じゃあ、その権限を使って偵察飛行を要請してくれ。それと見つかったときの為に偵察ヘリを、一人か二人搭乗出来るよう用意しておいて」

「分かったわ」

「おい! 、三尉! 聞いているのか!」

「良いですか? 二尉」


 ダイナは田村二尉に言った。


「時間は貴重です。迅速に行わなければ好機を逸します。それに私の上にいるのは、あなたではなく御代三佐です」

「三佐殿の威を借りるのか」

「そうです」


 すんなり認めるダイナに二尉は更に怒りをます。


「兎に角、見ていてください。すぐに結果は出るでしょう」


 ダイナは怒る二尉を無視して作戦を進めた。

 短期間で済ませることで追加報酬があるし、短ければ短いほど時給も上がる。

 固定報酬なので、実働時間が短いほど時給が高い。

 何も理解出来ない二尉に教えている時間など無いのだ。どうせこの二尉は聞く耳も持たないだろう。

 追加報酬も出ない教育に時間を費やしたくない。

 ダイナの推理が証明出来るものも、今は手元に無いのだから理解してくれないだろう。

 こういうところが二人とも、ダイナと隊長のダメな点であり気が合うのだろうとアイリは思ったが言わないでおいた。


「おい、説明しろ三尉」

「休んでいた方が良いですよ二尉。このあと偵察付いていくなら。いかないのなら、怒鳴って休憩の邪魔をするのは止めてください」


 そう言って偵察装備の準備を終えるとダイナは横になった。

 二尉の怒鳴り声など完全に無視だ。

 味方の砲撃を音が響く中、待機中に眠れるスキルを身につけたダイナにとって二尉の怒鳴り声など大したことではなかった。

  

 ダイナの要請によって無人偵察機<フクロウ>は発進した。

 念を入れて低空飛行を要請したため、彼らは撃墜を承知で低空、二〇〇メートル程を飛ぶ。

 撃墜されても人的被害が出ない無人機ならではの使い方だ。

 もし撃墜されたとすれば攻撃者、敵がいるという格好の証拠になる。

 偵察機一機が失われるが、敵の有無を判断するならばその程度の費用、量産効果によって三億円ほどに抑えられている。

 一人が死ぬと十億円ほどの損失――生涯収入のほか周囲への波及効果を含めた金額になると計算されており、隊員一人を失うより遙かにコストとしてはよい。

 それ以上に、作戦上の障害、敵の有無、発見が出来るなら、そのあとの作戦展開が容易になる。

 無人偵察機一機と引き換えに得られる効果を考えれば格安だ。

 戦争を生き残った無人偵察機の運用者達はその程度の計算は出来るし、そのような考え方の持ち主だ。彼らはダイナの望み通りに飛行させた。

 そして、一つの村につき、二周以上し、同時に望みの結果が出ると、すぐに次の村へ移動する。

 それをいくつか続けるとダイナの予測した動きをする村を発見し通報した。

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