捜索計画

「さてと、仕事にかかりますか」


 サインを終えたダイナは早速仕事に取りかかった。

 三佐は仕事があると言って出て行き、ダイナ、アイリ、そして田村二尉の三人が残った。

 とりあえずは、この三人、実質ダイナとアイリの二人で仕事を進める。

 だが、やるのは一番の難題、盗賊団の発見だ。

 殆ど手がかりのない状況から、盗賊団を見つけなければならないのだ。


「まずは目標地域を確認したい」


 手っ取り早く、潜伏しているとされる地域をダイナは把握しようとした。


「周辺写真はある? 航空写真でも衛星写真でもいいけど」


 異世界だが幸いにも地球と同じような球体だったため、人工衛星を打ち上げられる――平らな地面では、永遠に落ち続ける衛星など打ち上げられない。地上に落ちてこないのは落下と同じスピードで前進しているためで、球体に沿って落ち続けると共に進むので天体――この場合は異世界の星の周辺を回っていられる。

 戦争中、偵察のため日本からイプシロンロケット――小型のため分解せず門を通過出来る上、特別な施設が不要な固体ロケットだったので選ばれた――を持ち込み、使い捨て承知で急遽設計された偵察衛星を打ち上げた。

 この衛星のお陰で、この異世界の大まかな地形と衛星写真は手に入っている。

 通信衛星も打ち上げられているので――イリジウムのような低軌道ではなく静止衛星軌道のため特別高出力な機材が必要だが衛星電話も使える。

 最近はミチビキの技術を応用してゲート周辺のみだが――それでも異世界の四分の一程の面積でGPSも使えるようになっている。

 周辺国からICBMの増産だと非難されたにも関わらず打ち上げてくれたお陰で戦争後半から使えるようになり、ありがたく使わせて貰っている。


「ここにあるわ」


 そう言ってアイリが端末に送ってくれた。

 受け取った画面をダイナは指で使って拡大したり縮小したりして見てみる。


「村の数は?」

「人のいる集落の数は一六よ」

「ヘリで一つ一つ訪れて確認するか?」


 田村二尉がダイナに尋ねた。確かにその方法が真っ先に浮かぶ。


「ダメです」


 だがダイナは真っ先に却下した。


「時間がありません。下手に接触どころか接近すれば、連中に気付かれ村を捨てて逃げるでしょう」


 異世界はファンタジー小説に出てくるような近世くらいの文化レベル、それも都市部での話で、農村部は中世のレベルだ。

 自衛隊の装備が多少目につくになっているが、警戒心の強い盗賊は見た瞬間、いやエンジン音を聞いただけで逃げ出すだろう。


「周辺の村を偵察するだけでも、頭が良ければ連中の出した斥候に気付かれるでしょう」


 無頼者の盗賊団とはいえ次の獲物を見つけるために配下を周囲の村に送り出して監視していると見るべきだ。

 四〇人という数字は多分襲撃に参加した本隊のみで、他に偵察や見張りを行う要員がいるはず。

 これまで尻尾を掴ませなかった慎重な連中だ。周辺の村々に斥候を送っているぐらいの事はしているだろう。

 だから下手に周囲への偵察も出すべきではない。


「車を使わなければ良いのではないか」

「範囲が広すぎます。変装しても歩いて回るのは時間がかかりますし装備も偽装して持って行く必要があります」


 それに徒歩での移動は疲労を伴い、盗賊団と接触――視界の中に収め続けることが難しくなる。判断ミスして相手に見つかり追い回される危険がある。

 だから徒歩で回るなど出来ない。


「では、どうするのだ」


 苛立つ田村二尉に対してダイナは思案を巡らす。歩かず、素早く、出来れば目立たずに行える方法。


(いや、時間が無い、というより短時間で終わる、連中が他へ拠点を移す前に捕捉出来るなら目立ってもいいか)


 考えが纏まるとダイナはアイリに尋ねる。


「アイリ、偵察機出せる? 無人機で良いけど」

「ドローンならすぐに出せるわよ。車付きで」


 無人偵察ドローンと運用出来る車両を用意しているのだろう。

 ドローンは小型でプロペラも小さいため余程近距離でないかぎり見つかることはない。

 そして搭載しているカメラは一キロ先の人物も捕らえることの出来る高性能のカメラであり、気付かれないよう偵察することも可能だ。


「いや、隠密性は必要ない。少し大きめの無人偵察機がいい。プレデタークラス、地上から五〇〇メートルぐらいを飛行出来て、地上から見える奴がいい。最悪落とされる可能性があるけど」


 弓矢でも油断出来ないし異世界には魔法使いもいる。

 対空迎撃も考慮に入れるべきだった。だから撃墜されても大丈夫な無人機を頼んだ。


「だったら監視用の<フクロウ>が使えるわ」


 <フクロウ>とは異世界と戦争するようになってから自衛隊に配備された監視偵察用の無人機だ。

 元々洋上監視用に計画、開発されていたが異世界との戦争で急遽正式採用が進められた機体だ。

 速度は遅いが大型で燃料給油なく丸一日上空を飛べる上、遠隔操作での飛行、運用が可能。

 人手不足の自衛隊にはありがたい機体だ。


「最悪撃墜されるけどいい?」

「許可は下りているわ」

「なら飛ばして。多分、大丈夫だと思うけど。できる限り低空で人目に付くよう飛ぶように念を押して頼む。見られやすいよう出来れば一つの村につき最低でも二周、出来れば三周以上するよう頼んで」

「わかったわ」


 アイリは端末を使って偵察要請を出した。

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