依頼内容
「田村二尉、入ってこい」
ドアの向こうに御代三佐が声をかけると若い幹部が入って来た。
「田村二尉、参りました」
キビキビとした動作にパリッとした陸自の制服。新品の幹部だ。
多分、実戦経験は無いだろう。見当違いの命令を下さないかダイナは心配だった。
戦争の時、戦死した最初の上官の代わりに送られてきたのが、幹部候補生学校を卒業したばかりの三尉だったのを思い出したからだ。。
その三尉は初めての戦場で右も左も分からず、幹部として、戦場で生き残った実績のあるダイナ達に見下されないように、声を張り上げるだけの幹部。いや、虚勢を張り上げるだけの中身スカスカな人間だった。
まあ、ロシアや中国相手にする想定、いやそもそも戦わない想定で存在していた自衛隊なのに、いきなり異世界、それもモンスター相手に戦えと言われたら誰だって狂う。
互いに不幸だったが、指揮される側はたまったものではない。
命令という半狂乱の叫びをあげ、右へ左へ動かされたあげく、部隊は窮地に陥り、その三尉は真っ先にモンスターに殺されてダイナ達は激戦地に取り残された。
その事を思い返せば、ピンチに陥らせるような人物が上に付くなどダイナはまっぴらごめんだった。
それもダイナが自衛隊を去った理由だ。
「表向きは上官だが、好きに使え、出来れば、指導してやってくれ」
ダイナの心を読んだわけではないが、御代が遠慮会釈なく言い、田村の表情を強ばらせた。
「どこまでやって良いんですか?」
ご愁傷様、と田村二尉を哀れみながらも確認の為にダイナは御代三佐に尋ねる。
田村二尉は睨み付けるがダイナは無視する。この手のプライドの高いだけの人間と話しても無駄なことは、十数年という短い人生でも、よくダイナは理解していた。
ならば、真の上官である御代三佐の意見を確認しておく。
その方が何倍も有意義だ。
この手のことが嫌なので戦争終了と同時に自衛隊からダイナは離れたのだ。
今後、何かあっても田村と組むことはないだろうし、嫌なら離れれば良いだけ。冒険者は非常に気軽だ。
「お前が必要だと思うだけやれ。見所があれば教えてやれ」
返事を聞いて随分優しい指揮官になったものだとダイナは思った。
戦争中、御代三佐は見所があれば技能を叩き込むため遠慮会釈無く格闘戦を挑んで来やがったし、無茶苦茶な命令を下してきたものだし、必要とあらば鉄拳制裁さえ躊躇無くやる。
こうやって言葉で伝えるだけマシになった。
ただ、階級だけの能なし扱いをするのはプライドの高い人間にとっては鉄拳制裁より怒りやすい。
実際、田村二尉は黙り込んだままだ。短い間とはいえ、このあとの仕事の進め方が問題になるだろう。
「授業料は報酬に加えてくれますか?」
「がめついな」
「冒険者なんで。今回も再入隊して仕事するわけではありませんし」
「規定額を払う。仕事の質が良ければ追加もする」
「仕事の内容を確認したいのですが? 仕上げは? どこまで行えば契約完了ですか?」
「盗賊団の位置を特定しろ。できるだけ早くだ。盗賊団がいる証拠を見つけ送信しておわり。出来れば出撃した空中機動部隊が盗賊団と接触するまでやってくれ。時間は三日、今から七二時間以内。期日より短くしたり、上手く作戦部隊を誘導したら規定額と同額の特別褒賞を出す」
「期日と誘導は二つ合わせて同額ですか?」
「別枠だ。それぞれ同額の特別報酬を出す」
基本報酬に加え、期日までに仕上げたら同額のボーナス、さらに誘導に成功したらさらに同額のボーナス。
上手くやれば三倍の報酬だ。
「大盤振る舞いですね」
「部隊の待機時間を短く出来るし、損害が少なく済むなら安い金額だ。ヘリボーンの費用が幾ら掛かると思う、人手も足りないんだ」
異世界に行ける、ということで自衛隊への志願者は多くなっているが使える人間は少ない。
転職組、とくに農林水産業や建築、土木、製造業は前職の技能が、中世から近世の生活レベルの異世界で役に立つ事が多い。なので民生支援などで重宝している。
だが、何もスキルを持ってない防大を含む新卒の連中は一から訓練する必要がある。
そして普通科――歩兵の素質、空中機動に必要な技能、ヘリで移動出来る分、激戦地に投入されやすいため素質が求められる。
特に盗賊退治やモンスターの初期対応を求められるので異世界では特に使える歩兵が求められている。
引く手あまたの彼らを何時までも盗賊退治に待機させておけるほど余裕はない。
追加報酬で規定額の三倍ダイナへ渡すことになっても、参加部隊の隊員らの日給分、基本給に加えて、空中機動部隊勤務の加俸――役職手当と戦地手当で手取りが高くなった六百名の隊員とパイロットの合計額より安いはず。
パイロットは特殊技能職で元々高いし、待機中のヘリの整備費用も高い。
すぐに片付くなら、三日以内で終わるなら安い報酬なのだろう。
「分かりました契約書にサインをしたら早速仕事をします」
ダイナが了承すると既に作成された契約書が持ってこられた。
好条件のため、筆先のスピードが速く、短時間でサインを終えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます