異世界領日本と治安戦
新門戦争でゲートを確保した日本はその先の異世界を、門を中心に半径一五〇キロ程の領域を安全保障のため、異世界の勢力が再びゲートを通じて日本に攻め込まれないよう、緩衝地帯として確保した。
魔王が領有していた領域のため、モンスターの襲撃で荒廃した土地だったため異世界の国々の反発は最小限に抑えられた。
領域内にはいくつもの町村があり、少数ながら――日本に比べての話で総人口は十万を超える現地の人々が暮らしている。
安全保障上の占領とは言え日本の領域に組み込まれたので、彼らの安全を確保する必要が義務が日本政府には出来た。
独裁国家や帝国主義国家なら放置、最悪搾取するだろうが、良くも悪くも民主的、悪く言えばお人好しなところのある日本に彼らを見捨てることなど出来なかった。
元々の生活水準が低いこともあり日本国政府の援助によって、彼らの生活水準は上がった。
同時に彼らを狙う盗賊が現れた。
日本の配給品、百年先の技術で作られた製品は小物でも異世界では高い金額で取引されていた。
そのため大規模な盗賊団が度々侵入していた。
「対応する自衛隊部隊はどうしたんですか?」
不安定な状況のため警察ではなく自衛隊が治安維持を担っている。
当然専門の部隊も編成されていた。
「魔王軍残存の出現が確認され討伐のために主力が引き抜かれた。その隙を突かれた」
強大だった魔王の元にあった軍は壊滅したが残党が各地に残って悪さをしている。
それを討伐するのも自衛隊の任務の一つだった。
まあ、それは仕方ない。
魔王軍残党が出ているとき、唐突に盗賊団が現れた事に作為を感じられる。だが今のダイナには関係なく、隊長の依頼を受けるだけだ。
「で、私にどうしろと?」
「盗賊団を見つけ出してくれ」
ここ数日、境界ラインの日本側、安全の為の緩衝地帯でキャラバンが襲われているそうだ。
数十人規模の大きな盗賊団とされている。
「今後の異世界との交易に差し障りがあるので早急に対処して欲しいとのことだ」
「捕捉していないんですか?」
「言っただろう。魔王軍の残存がいて、そいつらを撃破するのに忙しい。偵察に十分な人と機材を投入出来なかった」
御代が言うと切れて溜息を吐きつつ尋ねる。
「どのあたりにいるんですか? 推定で良いので教えてください」
「この二〇キロ平方メートルの範囲だ。この何処かの村にいると判断される」
「広すぎて無理ですよ。それに見つけたところで単独では何も出来ません」
人の脚で探すには範囲が広いし、単独では数十人相手にするのは厳しい。
結構困難な依頼にダイナは顔をしかめた。
その表情を読み取った隊長は言う。
「大丈夫だ。今回は本腰を入れて捜索する。偵察機材も使えるし、発見したとき投入される兵力も用意されている」
「どれくらいです?」
「偵察に使えるのはドローン部隊と偵察機部隊だ。発見したあとの攻撃にはヘリボーン機動の一個空中機動大隊が投入される。指揮下には完全武装の四個中隊合計五〇〇名と特科中隊がいて投入可能だ」
四〇名ほどの盗賊団に五〇〇名以上を投入というのはやり過ぎと思えるかもしれないが、ゲリラ討伐には包囲したり逃走を防ぐ為警戒線を張るため相手の二〇から三〇倍の兵力が必要とされる。
ゲリラ掃討には人手が何より必要なのだ。
剣と槍ぐらいしか保たない盗賊相手でもをれは変わらない。
むしろ少ないくらいだが万年人手不足の自衛隊では仕方ない。
これだけの兵力を準備しただけでも大した物だった。
「出世しましたね」
「戦隊指揮官だけどな」
戦隊とは大隊以下の規模の舞台を指揮するために設けられた単位だ。
指揮官とその幕僚は固定されており普段は作戦計画を練ったりする。そして作戦時に他の部隊が配属され指揮する。そして作戦が終了すれば指揮下の部隊は元の部隊や他の部隊へ移って行く。
兵力が足りないため臨時編成の部隊を多数作った戦争時代の名残だ。
それでも、三佐の身でかつてなら連隊規模、一佐クラスが指揮する規模だった四個中隊、それもヘリボーン部隊を指揮出来るとは、それだけ御代三佐が上に期待されているという証しだ。
その分こき使われる人間も増えるということであり、素直に喜べないが。
「残念ながら配下の幕僚に手透きがいなくて、助けがいる。俺も他にやる事があって手が回らん」
「仕事の手際が悪いですね」
「なら、お前がやるか? 魔王軍残党の討伐で、勇者と共に進軍するんだが」
「結構です」
戦争の時勇者と一寸した事があり、あまり会いたくなかった。
勇者と会うくらいなら盗賊退治の方が良い
「というわけで、盗賊退治にお前が必要だ。連絡役としてアイリを付ける」
司令部所属のアイリが助けてくれるのなら心強い。
「それと、一人新任の二尉を付ける」
そして、ダイナにお荷物を押しつけてきた。
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