第四話 盗賊団退治

御代三佐

 門あるいはゲートと呼ばれている異世界への通路は自衛隊によって厳重に管理されている。

 異世界との最初の接触、不幸な戦争によって大きな悲劇を招いたからだ。

 徐々に交流は進んでいるが、不用意に新たな火種を発生させないよう通行を制限、管理されている。

 普段は自衛隊とその関係者、外交官、学術関係者、そして許可された一部の商人や貿易担当者だけが異世界国家との外交交渉、防衛、調査研究、貿易のために通行を許される。

 ダイナは、今回呼び出されたこともあり、門を通り抜けた。

 ゲートには道路の他に鉄道の線路が敷設されている。

 自動車よりも大量に物資を輸送出来るからだ。

 特別編成の列車に乗り込み、門の向こう側、異世界へ行く。


「相変わらず、通ると変な気分になるな」


 門を、異世界へ通じるゲートを抜けたダイナは呟く。

 時空をねじげて異次元へ移動する通路。

 外側は物理法則が通用しないのに内部は通常空間という現代の物理学では改名出来ない場所だ。

 通行には支障ないので使われているが、通るとき平衡感覚が狂うので通りたくない。車両に乗って移動するだけでも気分が悪い。


「何度通ってもなれないし、足取りが重いな」


 まして異世界へ行くのは戦争時代を思い出して嫌だ。

 ダイナは新門戦争の際、巻き込まれた。

 異世界の魔王の軍勢は強く自衛隊は後退し、周囲から分断された。

 そのため、ダイナも銃を取り隊員として参加した。

 終戦時には三尉にまで昇進し、異世界との戦闘経験、その他を見込まれ残留を望まれるが、拘束や命令されるのを嫌い予備自衛官へ編入を願い許可された。

 自衛隊の悪い面を嫌っているが、助けられたのも事実であり、協力関係を結んでいる。

 そのため依頼があれば出来るだけこなす。

 絶対に会いたくない人物からの依頼でもだ。


「相変わらず空が気持ち良いな」


 異世界の風景はヨーロッパの平原と言ったところだ。

 日本のようにすぐに山があるわけでは無く地平線に低い丘が見える程度だ。

 一応日本の建物が建築されているが人口は少なく低層階ばかりで高層ビルもないので空を広く感じる。

 その中の一つ、自衛隊の司令部として使われている建物に入り、指定された部屋に向かった。


「よお、久々だなダイナ」


 最近統合部隊となった新門方面隊専用の野戦服に身を包んだ悪人面の二十代半ばの三佐が笑いながら話しかけた。

 一応、服装規定に則っているが所々着崩している。

 悪ぶりたいのではなく忙しくで身だしなみを整える時間が無いのだ。

 顔が悪いのは仕事の忙しさもあるが、半分は生まれつきだった。

 戦争時代からなのでダイナモ理解していた。


「命令により出頭いたしました隊長いえ三佐。昇進祝いが遅れて済みません」


 出頭したダイナは敬礼して答える。

 戦争時代の隊長なのだ。当時は二尉だったが昇進して三佐になっていた。

 そして、毛の生えた素人であるダイナへ訓練を施した人物だ。


「お前だって残っていれば二尉か一尉くらいには昇進しているぞ」

「まさか、三尉なんて予備自衛官へ移るときの退職金代わりでしょう」


 太平洋戦争終結後、軍隊が無くなり一般人になる軍人達、下級将校以下を全員一階級昇進させ、少しでも退役後の年金が増額するよう、箔が付くようにした。

 所謂ポツダム昇進というやつで平時でも、退役の前日か数日前に昇進させてせめてもの手向け、定員という壁によりポストを与えられず、昇進させられなかった詫びにしていた。

 ただこのような処置も学校現場で退職間近の教頭を校長にするなどの慣例を問題視した勢力によって次々と廃止された。

 新門戦争後も財務省の官僚が野党に告げ口して潰そうとしたが、身を挺して守り切った彼らを蔑ろにしすぎると現場部隊と上層部が珍しく猛反発して撤回させた。

 ダイナもその一部のおこぼれを頂戴したと考えていた。


「冒険者として中々よくやっているんだろう。十分資格はあるしやっていける。引き留められるほどの条件を出せなかったのが悔やまれる」

「どうも」


 はぐらかすようにダイナは答えた。自衛隊に残るとき一番嫌だったのが隊長の下に残ることだったからだ。

 生き残る事は出来たとはいえ自衛隊を離れたら生活の糧が無くなるのは困る。が、もうすこし生きやすい、少なくとも御代三佐の無茶ぶりのない生活を営みたかった。

 丸一日、営舎に暮らすか、演習や出撃で数日も歩かされるのは嫌だった。

 その点、冒険者なら一日の内、僅かな時間、ダンジョンに潜りモンスター相手をすれば良い。

 当たり外れが大きく実入りが無いときもあるが、好きなときに休める冒険者の方が、今のダイナには合っていた。


「冒険者としてやっていけるのは隊長の訓練のお陰ですよ」


 社交辞令では無く本気でダイナは言った。

 山登りが得意でフィールドでの活動が得意だったし思春期男子特有のミリタリーへの憧れから武器などにも詳しかったダイナは緒戦の混乱でも武器を取って戦えた。

 だが所詮、素人に毛が生えた程度。

 その程度のアドバンテージなど、戦場で生き残るには足りない。

 生き残れるよう教育を施したのが当時の隊長であった御代であり、訓練してくれたことには感謝している。

 それがレンジャークラスの訓練だったとしても。


「基本知識はあるし戦争処女切ったんだ。新兵教育を速攻で終わらせてレンジャー行こうか」


 と言った御代は実行した。

 初日に銃の扱いや基本動作を確認したあと、翌日いや、当夜からレンジャー訓練開始。

 フル装備で夜中中歩き回らされたあと、近接格闘戦、銃剣術を叩きこまれた。


「弾が切れたり、武器が故障しても、新たな武器が手に入るまで身一つで切り抜けられるようにしろ」


 隊長自ら相手にされて文字通り血反吐吐くまでやらされた。

 気絶して丸一日休んだあと、座学で狙撃にブービートラップ、戦術学を叩き込まれ、すぐさま偵察行動をやらされ、先で再び格闘戦。

 気絶して休んだあと狙撃訓練とパラシュート降下、翌日奥地から降下に次いで長距離移動、狙撃終えたあと、再び格闘戦。

 そうやって二週間ほどみっちり仕込まれたあと最終試験として、実戦任務を行い、魔物を殲滅して合格を勝ち取った。

 ハッキリ言って今でも思い出して腹が立つが、この訓練で生き残れたのも事実であり隊長への感情は愛憎半ばと言ったところだ。

 依頼を断らなかったのは恩義を感じているため、と断ったら何をされるか、首に縄を付けて引きずり出されることが明らかだからだ。

 ギルドのメンバーが手を引いたのも当然。

 その悪辣さと粗暴を身を以て知っているからだ。

 某漫画の登場人物になぞらえ「バットカル○」などという渾名が付けられたのも仕方ない。


「で? 私に何をやらせるんです?」

「異世界側の日本国領域で盗賊団が出た」


  

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