デート編アフターストーリー2

「どういうことなのダイナ」


 ギルド内で一番怒っている人物、アイリが静かに尋ねた。

 先日、ダンジョンに入ったとき差就けたので面識はある。

 あのときはタダの同級生だと言っていて特に関係はないように説明していた。

 なのにこんなにも親密にしているのが気に食わなかった。


「いや、来る途中で見つかって、勝手に付いてきて……って、怒っている?」


 ようやくギルド内の不穏な空気を、自分への憎悪を理解したダイナは居ような状況に言葉を募らせる。

 これより最悪の状況を戦争で経験したことがあるが、今ほど恐怖を感じたことは無かった。


「あ、こんにちは、麻衣です。ダイナに色々教わりたくて付いてきました」


 状況を読まない麻衣が明るく言う。

 本人はダイナのダンジョン探索に加えて欲しくて言っていた。だが、省略が多すぎてギルドのメンバーには交際宣言にしか聞こえず、憎悪が更に高まる。

 憎悪が殺意に高まったのを感じたダイナは麻衣を担ぎ上げると逃げ出した。


「あっ、待て!」


 逃げ出したダイナをギルドの全員が追いかけた。




「本当に同級生のようだな」

「だからそう言っただろう」


 ぐるぐる巻きに縛りあげられカウンターの回転椅子に座らされたダナイを前にエイブルは言う。

 あの後逃げるダイナをギルド全員が追いかけて捕まえたのだ。

 戦争中彼らは同じ連隊にいたがダイナは最年少ながら連隊一と言われるほど強い。

 かつて乱闘があったとき最後まで立っていたのはダイナだけだったことがあり、誰もが一目置いていた。

 普段なら束になっても捕まえられない。しかし、女子を一人担ぎ上げていては逃げることは不可能だ。

 本気になった全員、しかもダイナに次いで戦闘力があるとされるアイリが加わっていたら尚更だ。

 銃器まで使った追跡劇は五分で終わり、ダイナはギルドへ引き戻された。

 警察が発砲事件と聞いて駆けつけてきたが、エイブルが丸め込み、アイリが特殊作戦と言って監視カメラのシステムを処理したため大事にはならなかった。

 混乱する麻衣を家に帰したあと、ダイナをぎるどへ連れ戻し、取り調べを行った。


「わかったなら離してくれよ」

「まだだ。聞きたいことがある」


 誤解が解けたと思っているダイナに対してエイブルは本題を切り出した。


「なあ、ダイナ」

「なに?」

「アイリの事どう思っている?」

「……別に」

「そんな思春期特有のひねくれたツンデレなどするな」


 目を背けるダイナにエイブルは尋ねた。


「好きか嫌いかどっちだ」

「そりゃ好きだよ、仲間だから」

「ライクではなくラブかどうか聞いているんだ」

「銃口突きつけて聞くことか」


 先ほどからエイブルはダイナに愛銃を突きつけていた。


「重要な事なんだ」

「……脅迫して聞くことか」

「本気で聞いているんだ」


 ダイナが抗議するとエイブルは拳銃のハンマーを引き上げた。


「……好きだよ。愛しているよ。けど、怖いんだよ」

「何が」

「嫌われることが」

「大丈夫だ。アイリも好いている」

「けど、僕のようなのが気に入られるなんて」

(ああ、根底のところで自己肯定感が低いんだよな)


 ダイナが戦争前に受けた虐めやら不登校で自己肯定感が低い事を知っている。

 多感な思春期に暴言や虐待を受ければ人間不信と自己評価が低くなるは当然だし、哀れに思う。

 だがダイナ自身にもアイリの為にもよくない。

 エイブルは言った。


「いいか、ダイナ。確かに戦争前はそうだったかもしれない。だが、あの戦争を生き残り、今も冒険者としてダンジョンに入り成果を上げているんだ。大概の奴よりお前は凄いよ」

「そうかな」

「ああ、十分にアイリに釣り合うよ」

「釣り合うって……」

「兎に角だ。アイリと一緒になることに何ら問題ない。行ってこい」

「でも」


 なお拒絶しようとするダイナの頭にメンバーが銃を突きつけた。


「……なに」

「ヘタレの廉で即決軍法会議だ。判決は速実行される。さて、行くのか行かないのか?」

「本当に撃つ気かよ」


 ダイナが尋ねると、全員がハンマーを上げた。

 5.1チャンネルサラウンドなどに再現出来ない重い金属音、それも殺意の籠もった衝撃的な音が響いた。


「行くよ」

「よし、じゃあ、やろうか」


 そう言ってエイブルは銃口を下に向け縄を撃ち抜いた。


「さっさと行け」


 解放されたダイナの身体を椅子ごと入り口の方へ向けた。


「あ、アイリ」


丁度麻衣に事情を説明し終えて帰らせたアイリが戻ってきたところだった。


「どこから聞いていたの?」

「ライクかラブか」


 ダイナは顔を赤くした。


「なら、分かっているだろう」

「……面と向かって言って欲しい」


 アイリは恥ずかしそうに言う。


「……」


 暫し無言で二人は見つめ合う。

 ダイナが意を決して、口を開いた瞬間、ダイナのスマホからワルキューレの騎行がなり出した。

 ダイナは顔をしかめるとスマホを取り出す。


「あとで良いだろう」


 エイブルが呆れながら言う。


「そうもいかない。この着信音は隊長からのコールなんだ」


 ダイナが答えると全員が、顔面を蒼白にした。

 

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