デート編アフターストーリー1

「聞いたぞ。ダイナをデートに誘ったって」


 デートの翌日久方ぶりにギルドを訪れたアイリはニヤニヤ笑うエイブルに言われた。

 二人とも新門戦争の戦友であり、アイリとダイナの関係を知ってる。

 戦争が終わって、嘱託として自衛隊に残ったアイリだが、ギルドへの依頼や調整で訪れる事もあるし時折こうして昔の馴染みとして入ることもある。

 その時は私的に会話をする事が多い。


「しかも途中で逃げられたって」


 店内から笑い声が響いた。

 今日はギルド全体の会合があるためメンバーが多数集まっている。

 皆戦争時代の知り合いであり、アイリとダイナの事も良く知っており、やっかみもあってからかいの対象になっていた。


「ちょっとやり過ぎちゃった。でも昨日のことなのによく知っているわね」

「デートのあとダイナが来たんだ。そして起こったことを話したんだ」

「もおダイナったら」


 アイリは怒った顔をした。

 二人きりのデートの話をその日の内に話すなど、台無しだ。


「攻めすぎたようだな」

「まあ、そう思うけど」


 アイリもやり過ぎたとは思っている。

 ダイナが選んでくれた服を着て喜んで貰えるのが嬉しかった。

 それに、徐々に狼狽していくダイナの表情を見るのが面白くて、ついやり過ぎてしまった。

 今思うと自分でもどんだけ大胆にしてしまったのか、後悔する。反省はしないが。


「一寸狼狽するところを見るのが可愛いのよね」

「確かにな」


 エイブルは同意した。

 戦争中に会った時は中悪性だがやたらと武器に詳しく、戦場を駆け抜けるスキル、破片が飛び散り、各所に穴が空くなど足場が悪い中、走れるダイナの活躍はピカイチだった。

 しかも時折、見せる冴えた攻撃は幾度も助けられた。

 まさに冷静で優秀な戦士といえるだろう。

 だが、本人はまだティーンエイジャー。

 しかも幼さが残っており、時折見せるその部分が愛らしい。

 色々と、いたずらしたくなる悪い大人心をくすぐるのだ。

 だからエイブルも、いじめやハラスメントにならない範囲でじゃれている。


「しかし、ランジェリーショップに誘うなんて大胆だな」

「それくらいやんないとあの唐変木は振り向かないもの」

「違いない!」


 エイブルも他のメンバーも同意した。

 ランジェリーショップに誘うなど下手をすれば痴女の一歩手前だ。

 だが、基本引っ込み思案なダイナを意識させるにはそれくらいの思い切りが必要な事もメンバーは知っている。

 むしろよくそこまでやったと、アイリの努力に共感する。

 だが、自分たちのアイドルであるアイリにそこまでさせるダイナへの苛立ちが募った。


「ちょっとダイナには話が必要だな」


 エイブルが言うとメンバーは黙って頷いた。

 幸い今日は会合があり、ダイナもやってくる。

 その時、ギルドの扉が開き、隙間からダイナが入ってきた。

 席に着いたとき捕らえようと全員待ち構えた。


「ダイナ! ここどんな場所なの」


 だが、予想外に明るい声がダイナの脇から響いてきてアイリとエイブルを含むメンバーを戸惑わせた。


「わあ、ここがギルド? 秘密のアジトみたいで格好いい」


 ギルドの中を見た麻衣はダイナに無理矢理腕を組みながら興奮しつつ言う。

 ダイナへの好意を持っているのは明らかだ。


「なっ……」


 入ってきた二人の様子を見て全員、絶句した。

 ダイナは本気で嫌がっているのだが照れ隠しに見える。

 それより明らかに垢抜けた陽キャの同級生に陰キャのダイナが言い寄られるのはあり得ない。

 アイリとも不釣り合いだが、戦争中の活躍や二人の心情を考えればまあ納得出来る。

 自分たちのアイドルであるアイリを奪った事に苛立ちはする者の、当のアイリが喜んでいるのなら、見送ってやるのが仲間としての義務だ。

 それなのに、他の女を侍らせるなどダイナの行為は背信行為だ。

 全員の憎悪が募った。


「私も入れて」

「ダメだよ、ここは一般人立ち入り禁止だ」


 それがダイナと同い年くらいの明るい髪と褐色の肌をもつ女子高生という事を知ると空気が凍り付いた。


「というかなんで来ているんだよ麻衣さん」

「麻衣でいいよ。同級生なんだから。私もダイナと一緒にダンジョンに入ろうと思って」

「危険だよ」

「単独ではいる方が危険でしょう。手伝ってあげる」


 先日のダンジョンでダイナに救出された事に感動して一緒に入ると言ってきたのだ。

当然ダイナは断っていたが麻衣は強引に付いてきてこのような事になって仕舞った。

 麻衣は真剣でダイナは本気で断っているため当人達は真剣だ。

 それが余計に真摯に話しているようで周囲を苛立たせる。

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