外伝 デート編

外伝 デート編1

 穏やかな日差しの休日。

 ダイナは私服姿で新門市のターミナル駅前にある広場に来ていた。

 暗色系の服装ばかりで全体的に黒っぽい。

 しかも小刻みに身体を動かしているので、挙動不審な人物に見える。


「緊張するな」


 今日、ダイナが広場にやって来ていたのは、アイリとの約束を果たすためだ。

 突如変更してダンジョンに潜ってしまったため、埋め合わせに改めて買い物に付き合うよう言われてしまったからだ。

 アイリとは戦争からの付き合いだし何度もコンビを組んだ間柄だ。

 だが、まだ高校生とはいえアイリは二歳も年上で明るい性格の良い美人。人付き合いも良く誰からも頼られる陽キャ。

 対してダンジョンやモンスター退治以外何の取り柄もないダイナ。しかもコミュニケーション能力が低く、ソロで活動している。

 コンビを組んで互いに命の責任を持ち合う事が怖いこともあるが、人と話すのが意思疎通が苦手なのだ。

 アイリとなら何とか連携できるが他のメンバーだとどうもギクシャクしてしまう、ダイナの方が緊張してしまうのだ。

 だからお互い理解しているアイリは数少ない知り合いであり出来るだけ仲良くしたい。

 まあ、別の思いもあるが、変に押しつけるのは良くないとダイナは思っていた。

 以上の理由からアイリはダイナにとって大事な人だ。

 だから余計に緊張、関係を悪化させたくなくて、怒らせるような事はしていないかとダイナは不安になった。

 いっそ逃げ出したい衝動に駆られたが、時期を逸した。


「お待たせダイナ」


 Tシャツにジーパン、そしてクリーム色のベストを身につけたアイリがやってきた。

 ラフな格好だが、ジーパンは、パツパツで細く長いアイリの足のラインを余すことなく見せつけてくれる。

 Tシャツの裾は短かくアイリの腕の長さと白さを露わにしてくれる。

 しかも胸の部分が盛り上がっていてダイナの男の部分を意識させる。ベストを羽織っているので見えにくいが、ひらひらと裾がめくれてチラチラ見える。


「待った?」

「……いいや」


 恥ずかしくなってダイナは目をそらした。

 ダイナの予想通りの反応を見てアイリはにんまりと笑うと話しかける。


「埋め合わせに何でも奢ってくれるの?」

「ああ」


 ハッキリとした声でダイナは答えた。

 一応貯金はダンジョンに潜っているおかげで八桁はいっているのでよほどの事が無い限り、買えない物はない。

 大概の物は買えるしイベントも出来る。その気になればホテルのディナーに部屋だって取れる。

 だが、何故か言ってしまったことにダイナは恐怖を感じている。

 にんまりと笑ってくるアイリの表情が怖いのだ。

 金額以外の危険が迫っているとダイナの勘が告げる。だが既に約束しているので逃げられない。


「じゃあ、お気に入りの服屋さんで貰おうかな」

「……女性用のファッション服?」

「勿論」


 笑顔を張り付かせたままのアイリに言われてダイナは非常に困惑した。

 ダンジョンの中で動くための服なら現役の冒険者であるダイナは一家言持っており女性物でもアドバイスは出来る。


「選べないよ」


 だが、完全なファッション、似合っている服を選ぶなど考えたことのないダイナには無理だ。

 情けないことだが正直に答える。

 嘘を吐くより遙かにマシだ。


「どっちが良いか、見て決めてくれるだけで良いわよ」

「いや、でも……」


 ダイナは他人の事を選ぶのが苦手だ。

 昔からあれこれ強制されてきたため、人の事を選択したり、評価するのは嫌いだ。

 生死を賭けなければならない戦闘なら、命がかかっているため明確だ。

 だが、それ以外、人の評価などに関わる、命ほどではないが、他からの評価を受ける部門、特にルールのないファッションなど無理だ。


「そっか、無理か、しょうが無い」


 一寸悲しそうにアイリは言う。

 アイリが理解してくれて選ばずに済み、ホットするダイナ。だが約束を破った罪悪感を感じる。


「なら、ランジェリーショップで可愛い下着を選んで貰おうかな」

「服を選びに行こう!」


 同じ身につけるのでもランジェリーショップなんて入ったら、恥ずかしさのあまり、顔を赤くしてそのまま自爆してしまう。

 服の方がまだマシだ。


「じゃあ、服屋さんに行こう」

「う、うん」


 明るい声で言うアイリに引かれダイナは服屋に向かう。

 ランジェリーショップよりマシなはずだったが、なにか選択を誤ったような、戦争中、敵の罠に嵌められて窮地に陥っている時のような気がしてならなかった。


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