救出

「いやあああ! やめてええっ! あうっ!」


 掠われたショックで半狂乱となり泣き叫んでいる少女。

 ダイナ達の前に現れたのは連れ去られた麻衣の友達である沙紀だった。

 正確に言えばゴブリンによって引きずり出され、前に押し出されたのだ。

 ショーカットの黒髪の元気な子だが、ゴブリンに暴行されたため傷つき、所々アザが出来ていた。


「ま、麻衣、逃げて! あうっ」


 麻衣に叫ぼうとしたが途中で阻まれた。

 首にかけられた縄をゴブリンが引っ張ったのだ。


「沙紀!」

「よせ!」


 前に行こうとする麻衣をダイナはひい戻した。

 直後、麻衣がいた空間をゴブリンの放った矢が飛び抜ける。


「ぎゃはははっっ」


 ダイナが手も足も出ないのを見てゴブリン達が見下すような笑い声を上げる。


「今出て言っても矢にやられる」

「で、でも、沙紀が」

「分かっている」


 その場に留まるよう麻衣に言いつけるとダイナは飛び出した。

 ゴブリンの矢が放たれるが、左腕のプロテクターで矢を弾く。

 番えている時間はなくなった。

 一気に距離を詰め沙紀を繋いでいるゴブリンに銃剣を突き刺し発砲する。

 射殺したゴブリンの死体を左手で持ち上げ盾にすると奥のゴブリンに小銃を向けた。

 引き金を引き射殺する。

 ようやく矢を番えたゴブリンが矢を放ってくるが、ゴブリンの肉壁で受け止め防ぐ。


「さて、仕留めるか」


 人質を奪回したダイナに障害はなく最早躊躇はなかった。

 奥の巣穴にいるゴブリンに向かってピート、白燐焼夷手榴弾を投げて燃やした。

 白い炎と煙を煙幕代わりにしてゴブリンから視界を奪うと、沙紀を担ぎ上げ、麻衣の元へ行く。


「さ、沙紀!」

「麻衣」


 二人は再会を喜び抱き合った。


「ゴブリンが来るかもしれないから一度戻るよ」


 人質がいるし負傷者もいる。このまま留まり続けるのは負担だ。

 ぶっちゃけお荷物を抱え込んでいる余裕はダイナにはない。

 ここは一旦後退だ。


「先にこの子を連れて行って。僕は彼を」

「は、はい」


 麻衣は先を連れて水たまりの中へ入っていった。ダイナも後方を警戒しつつ草鹿を引っ張り水たまりの中へ入り戻っていった。


「大丈夫ダイナ?」


 水たまりから上がると、アイリが迎えた。


「何とか、そっちは?」

「大丈夫。ゴメン一人飛び出しちゃって」

「仕方ないよ」


 アイリ一人で周囲を警戒していたのだ。

 一人を制止できなかったのは仕方ない。残りの生存者二人の安全を確保する方が大切だ。


「増援も来援したわ。もう大丈夫よ」


 見ると完全武装の自衛隊員がいた。


「助かったな」




 ダイナは増援に助けた三人を任せ、水たまりの先の事を伝えて引き継ぎを行った。

 直ちにポンプが運び込まれ、水が抜かれる。

 流石にポンプは大きすぎるし重いのでダイナモ運べないためいつもずぶ濡れになるのを承知で水たまりに入るが、大人数の彼らは易々と入る。

 水が抜かれると滴が垂れる以外に濡れることもなく、隊員達が突入していく。

 奥から銃声とゴブリンの叫び声が聞こえる。中の掃討は順調に進んでいるようだ。


「彼らは?」


 外に出たダイナは先に出ていたアイリに救出された彼らの事を尋ねた。


「一人は手遅れだったけど、残りは助かりそうよ」


 救急車の隊員から容態を聞いていたアイリが答えた。


「それは良かった」


 誰も助からなかったとか救助に来てそれは止めて欲しい。


「お手柄ね」


 アイリは笑顔でダイナに言う。


「まさか、洗剤を近くのホームセンターに買いに行ったら同じ高校の同級生が買ったと聞いて怪しんで周辺の廃ダンジョンがないか尋ねて見つけるなんて、ダイナにしかできないわ」


 ズゴゴゴゴッッという効果音が響いてきそうな迫力でアイリはダイナに迫った。


「……怒っている?」

「まさか、約束より人命の方が大事じゃない」

「めちゃくちゃ怒っているじゃないか」

「人の命には代えられないでしょう」


 アイリがの圧が更に強くなるダイナは逃げられず必死にどうするべきか考える。


「……また、明日改めていく?」

「うん」


 ようやくアイリの圧がなくなり天使のような明るい笑みをダイナに与えた。

 ダイナはほっとすると共に、ダンジョンに潜った疲れが癒やされていった

 

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