ゴブリンの襲撃

 突然背中を刺された沢田は何が起きたか分からなかった。

 背中が焼いた鉄を当てられたように熱いだけで、何をされているのか分からない。


「がはっ!」


 口から血を吐いてようやく自分が刺されている事に気がついた。

 そして背中に何かが取り付いていることにも。

 恐る恐る後ろを振り返ると濡れた緑色の肌をしたゴブリンのおぞましい顔が見えた。


「ぎゃぎゃっ」


 獲物を仕留めた興奮と喜びからかゴブリンが笑いながら声を沢田の耳元で上げていた。


「なっ……」


 その不気味な声の響きと、醜悪な顔を間近で見せられ、背中を冷たい水で濡らされていく感覚に沢田は恐怖する。


「は、はなれ、ろ……」


 振り払おうとしたが、ゴブリンはしがみついたまま更に二本目、三本目で刺す。


「ごふっ」


 何度も刺され出血多量で立っていられなくなった沢田は、床に倒れた。


「ぎゃっぎゃっ!」


 一人を仕留めたことにゴブリンは喜びの声を上げる。


「きゃあああああっっっっ」


 そこでようやく麻衣は悲鳴を上げた。


「ゴブリンだ!」


 仲間の男子達が声を上げ、沢田を殺したゴブリンをサスマタで押さえ槍を突き出し、仕留めようとする。


「ぎゃうっ! ぎゃっ!」


 ゴブリンを押さえると次々と槍を刺していく。


「死ね! クソゴブリン! 沢田の仇だ!」


 無我夢中で槍を刺していく男子達。

 ゴブリンが動かなくなってからようやく刺すのを止めた。


「畜生! ガスで死んでいろ! 死に損ないが、ぎゃあっ」


 吐き捨てていると突如、横から新たなゴブリンの襲撃を受けた。

 ガスマスクで視界が狭まっていたこともあり気がつくのが遅れた。


「まだ居たのか……って多い!」


 通路の奥を照らすと十数体のゴブリンが彼らに向かってきていた。


「さ、サスマタを!」


 彼らは急いでサスマタを前に突き出し防御しようとする。

 だがゴブリンの数は多すぎ、彼らの数は少なかった。

 サスマタの隙間をゴブリンはすり抜け、彼らに襲いかかった。


「ぎゃっ」

「うおわああっっ」

「おい! 大丈夫か! うわあっ」


 一人倒されると穴が広がり、そこから次々とゴブリンがやって来て襲いかかる。


「マスクが、くはっ」


 ゴブリンは彼らのマスクを剥がしていく。

 霧吹きで多少ガスが薄まっていたとはいえ、塩素ガスはまだ残っており、ガスの刺激臭と目の痛みに彼らは怯む。

 一方でガスが弱まり多少ガスに晒され耐性をつけたゴブリンは容赦なく襲う。


「ぎゃあっ」


 仲間達は次々とゴブリンに馬乗りにされ、ナイフで倒されていく。

 その光景を沢田は床に倒れながら見ていた。

 昨日まで馬鹿話をしていた友人が、ダンジョンに勇ましく入っていった仲間が次々と倒れていく。

 どうしてこのような事になったのか、自分の計画は完璧だったはずだ。

 実際上手くいっていた。

 ゴブリンが襲撃してくるまでは


「な……なん……で……」


 どうしてこのような事態になったのか、沢田は問いかけたが、誰からも答えを告げられない。

 沢田に気がついたゴブリンに見つかり、沢田はトドメを刺され、事切れた。


「うわあああっっっ」


 沢田が死んだ後もゴブリンの襲撃は続いた。


「この!」

「ぎゃっ!」


 男子の一人が襲いかかってきたゴブリンを一体仕留めた。素早く槍を突き返し、更に一体を葬る。


「どうだゴブリン! 弱いくせに襲いかかってくるな!」


 更に一体を仕留めて声を上げる。

 彼の言うとおりゴブリンは比較的弱いモンスターだ。

 人間の子供程度の大きさで力も知能も人間の子供と同じくらいだ。

 逆に言えばそれくらいの知恵は働くし、時に大人を振り回す力を見せつける。

 そして、一番の脅威はその数だ。


「うわあっ! 取り付かれた! ぎゃあっ!」


 複数のゴブリンが足下から忍びより足にしがみつく。

 動けなくなったところへナイフを持った一体が忍び寄り腹を刺す。

 強烈な痛みで、立っていられず倒れ込む。


「や、やめろっ! ぐはっ!」


 倒れた所へ複数のゴブリンがやってきて滅多刺しにして行く。


「がはっぐはっ」


 刺される度に悲鳴を上げるが、やがて声は途絶えた。


「ひ、ひいいいっ」


 目の前で繰り広げられる地獄絵図に舞は悲鳴を上げる。


「こぼっ」

「ひっ」


 麻衣の悲鳴を聞きつけたゴブリンが振り返り視線を向けると麻衣は小さな悲鳴を上げる。

 怯える麻衣を見てゴブリンの目に諧謔の光が宿り、ジリジリと麻衣に近づいていく。


「こ、来ないでっ! きゃっ」


 麻衣の嘆願を聞かずゴブリンは麻衣を引き倒すと馬乗りになる。


「や、やめて、うわっ、ごふっ、ごふっ」


 抵抗する麻衣のマスクを剥がし、ガスに怯んだところを他のゴブリンも集まり腕を伸ばす。

 ナイフは刺さない。

 男と違って、女には使い道が、大事な使い道があるからだ。


「ちょ、ちょっと止めって、きゃあっ」


 ゴブリンの手が麻衣の制服に手が伸び、引きちぎった。

 シャツの下から少し黒いが健康的な肌がブラジャーに包まれた手頃な大きさと形の胸が見える。

 健康そうな麻衣の身体を見てゴブリンは舌なめずりをする。

 思わず涎が出て滴が行ってき麻衣の身体に垂れた。


「ひっ」


 ゴブリンの生暖かい滴に悲鳴を上げる。やがて冷たくなっていく感覚に麻衣の心も凍り付く。

 ゴブリンの視線が下に向いていく。


「や、やめてっ!」


 視線の意味に麻衣は気が付き叫ぶ。

 ゴブリンは人間の女を掠い、強姦し子供を作り増える。

 そうして増えていくのだ。

 新門市の学校ではオブラートにだがゴブリンが何をするか教えている。

 そのことを思い出した麻衣は恐怖する。


「ひいっ」


 ゴブリンの手がスカートをちぎった。

 可愛らしいフリルの付いた下着が現れる。

 濡れ始めているのを見てゴブリン達は喜び笑うと、残り一枚の布に手を伸ばした。


「いやあああっっっ!」


 麻衣は力の限り声を上げた。

 その声に驚きゴブリンは一瞬躊躇する。

 だが、すぐに気を取り直し手を伸ばす。


「だ、誰か助けて!」


 麻衣が叫んだとき、床に金属の音が響いた。

 目を向けると穴だらけの筒が麻衣達の真ん中に転がってきて強烈な光と音を放った。

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