網に掛かるゴブリン
「ぐおうっ!」
ダンジョンの奥からゴブリンが勢いよく外に向かって、沢田達に 走ってくる。
沢田達にゴブリンも気がつくがガスの苦しさから逃れるために気にせず体当たりいするつもりで突進する。
「ぐあうっ!」
だがゴブリンは入り口に張られた沢田達の網に引っかかり勢いは止まる。
突進の勢いで破ろうとして網が千切れそうなくらい大きく膨らむ。
しかし入り口の周りに複数のペグを網に深く打ち込んでいる上、網も頑丈だったため破られることはなかった。
「ゴブッ! ゴブッ!」
何とか外へ出ようとするが、網を破ることが出来ずゴブリンは網に絡め取られていく。
「貰った!」
好機とばかりに沢田は手にした槍をゴブリンに突き刺す。
「ゴブッ!」
網に絡め取られたゴブリンは、避ける事も出来ず沢田の槍を胸に受けた。
「ガハッ」
肺を貫通され口から血を吐くゴブリン。
暫くは、抵抗しようと身体を動かしたが、やがて動かなくなった。
力が抜けるが網に絡め取られたままのため、地面にあおれることはなく宙づりのままだった。
「あ……」
動かなくなったゴブリンを見て麻衣は、哀れに思った。
先ほどは血走った目が怖かったが、網に絡め取られたゴブリンの目にあったのは恐怖と苦痛、そこから逃れようとする必死さだった。
ガスをまかれそこから逃れようとしていたのだ。
倒しに来たとはいえ、自分達がしでかしたことに麻衣は罪悪感を感じた。
「や、やったぜ!」
対照的に沢田は興奮した声で叫んだ。
自分が倒したゴブリンが動かなくなったのを見て、仕留めたという実感が、やり遂げた達成感から叫んだ。
勿論、麻衣と同じような罪悪感を感じる。だがそれを上回る興奮が叫ばせた。
「さあ、次行くぞ! ふふふっ」
槍を引き抜き、新たなゴブリンを突き刺す。
今度は腹を突き刺したため、死ぬのに時間がかかった。
だが二体目を仕留めたという興奮が湧き上がる。
「やったぜっ! 二体目だ! あっ、槍が抜けねえ」
おらっ、という掛け声と共に蹴りを入れて引き抜く。
「どうだ! 簡単だろう! ひゃっほうっ!」
三体目を仕留めようとする。
そこで残りの仲間、特に男子が興奮して加わった。
簡単に仕留められるのなら自分達も、という思いで、まるで珍しい昆虫かレアカードを手に入れた小学生のような笑みを浮かべて仕留めていく。
「クソ! こいつすばしっこい! それに絡まった奴が邪魔だ」
何体が仕留めたが奥に何体か残っている。
少し離れているし、動いているため槍が当たらない。
「おい! サスマタを持っている奴! 抑えろ!」
沢田が麻衣を見て指示した。
「わ、わたし?!」
「そうだよ。他にいないだろう。すばしっこいから抑えてくれ」
「で、でも」
ゴブリンが怖いのもあるがガスにいぶり出され嬲り殺し日慣れているのが哀れで麻衣は気が引けた。
「早くしろって言ってんだ!」
「わ、わかった」
だが、沢田が強く言ったため麻衣は渋々向かう。
怒鳴られたのも怖いが、沢田の目が、獲物を狩り取った興奮に酔う目に睨まれたのが怖かった。
言うことを聞かなければ次はお前、言うことを聞かなければゴブリンと同じだ。
と沢田が言っているようで怖かった。
「え、えいっ」
麻衣は網の隙間からサスマタを、先端を閉じて入れ、再び開きゴブリンを捕まえようとする。
最初こそ離れていたゴブリンだったが苦しさに耐えられず、入り口に近づいたところをサスマタで捕らえた。
「ぎひっ」
「ひっ」
麻衣が渾身の力を込めても抑えられないっようなゴブリンの激しい動きは永遠に続くかと思われた。
だが、徐々に慣れてきた。
最初こそ無我夢中で抑えていたが、押さえつけるとゴブリンがもがき苦しむ動きがサスマタを通じて腕に、恐怖と苦痛がダイレクトに麻衣に伝わってくる。
「よくやった麻衣」
そこへ沢田の槍がゴブリンに刺さった。
「ぎゃひっ」
致命傷を受けたゴブリンは一瞬身体を跳ね上げた。
「うっ」
凄まじい力で跳ね飛ばされそうになりながらも麻衣はゴブリンを抑え続けると徐々に力が弱まってくる。
「たあっ」
「ぐふっ」
「おりゃ!」
「死ねゴブリン!」
「ぐぎゃっ」
沢田達が次々と槍を刺していくとゴブリンの力は弱まり、やがて力尽きた。
「死んだみたいだな。離して良いぞ麻衣」
「あ」
無我夢中だったためゴブリンは死んでからも麻衣は押さえ続けていた。
「さっさとサスマタをどかせよ。入れっぱなしじゃ、網をどけられねえだろうが」
興奮状態の沢田は言う。
入り口にやってきたゴブリンは全滅させた。
他にゴブリンが来る様子はなく、残りはガスで死んだと考えていた。
あとは網を外して中に入り込みドロップ品を得れば終わり、楽しいボーナスタイムだ。
「早くどかせって」
だから動きが遅く見える麻衣に声を荒らげた。
「ご、ゴメン」
放心状態の麻衣は、震える腕を動かして先を折りたたみサスマタを引き抜いた。
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