塩素ガスを使ったダンジョン攻略

「おしっ! 皆来たな」


 沢田の声かけで沢田を含め男子四人、麻衣を含め女子二人の高校生が集まってきた。

 それぞれモンスターが出たときの装備、サスマタに物干し竿の先に包丁を取り付けたものや害獣にトドメを刺すための槍を持ってきていた。

 麻衣も興味本位と、アクセ代に惹かれて付け爪を外し家にあった先端が開閉できるサスマタを持って参加してしまった。


「ここがダンジョンの跡だ」


 沢田の言ったダンジョンは住宅街の外れ、雑木林に少し入った場所にあった。

 一番近い住宅からでも木々が茂っていてダンジョンは見えない。

 おかげで周りに知られることなく、入る事が出来る。

 アイテムが足りないためか警告の書かれた三角コーンが置かれているだけで、簡単に入れそうだ。


「結構、深そうね」


 下に向かって行く真っ暗闇なダンジョンの通路の奥を見て、麻衣は呟く。


「奥まで行ったら大変だし、ゴブリンが何匹いるのか分からないでしょう」


 麻衣は沢田に言う。

 暗に不安だから止めようと言っている。

 確かに小遣いは欲しいが、改めて直にダンジョンを見てみると不気味だ。得体の知れない廃ダンジョンに入る気に麻衣はなれなかった。


「それにこのまえ入った馬鹿共は、武器も碌に使えなかったんだろう。俺たちの装備だって長すぎる」


 男子の一人が言う。

 モンスターに対抗する為の装備だが、屋外や学校の廊下での使用を想定している。

 狭い通路で使用するには、柄が長すぎて壁につっかえる。

 特に後ろから奇襲されたら、持ち替えることが出来ずお終いだ。


「大丈夫だ」


 だが沢田は自信満々だった。


「俺たちはトドメを刺すだけで良い」

「どうして?」


 自信満々なのが不思議な麻衣が尋ねた。


「こいつを使う」


 沢田はリュックからホームセンターで買ったボトル、塩素系漂白剤と酸性洗剤そしてペグと害獣対策用の網を取り出した。


「漂白剤と洗剤をダンジョンの奥へ入れるんだ。そして入り口を網でで覆って、塞いでゴブリン共を出られなくする。ガス中毒か入り口に逃げてきたところを仕留める」

「でもガスが入り口から漏れてきたらどうするの」

「塩素ガスは空気より重い。下の方へ流れるから心配ない」

「入り口にモンスターが逃げてきたらどうするんだ」

「網で塞ぐから大丈夫。網に絡まったところを槍でグサッとやる。ゴブリンが死んだ頃合いを見て、中に入ってドロップ品とかを回収する」

「塩素ガスが溜まっていて危険じゃないの」

「こいつがある」


 沢田はリュックから新たにガスマスクを取り出した。


「こいつを使えばガスが溜まっていても大丈夫。それに」


 さらに沢田は霧吹きを出した。


「塩素ガスは水に溶けるんだ。霧吹きを振りかけながら歩いて行けば、ガスは水に溶けて消えていく」

「本当なの?」

「ああ、家で誤って洗剤と漂白剤が混ざった時の対処法だ。ダンジョンでも同じようにやれば問題ない」


 どうだ完璧だろう、と言いたげに沢田は胸を張って答えた。


「さあ、準備をしよう」


 沢田がいうと、見込みがありそうなので皆手伝い始めた。

 キャンプ用のペグをダンジョンの周りに打ち付け網を半分ほど引っかける。


「じゃあ、行ってくるぜ」


 残された隙間から沢田はダンジョンに入り奥へ、二〇メートルほど下ったところでボトルの蓋を開き、二つとも奥へ放り投げていく。

 ボトルが坂を転がる音が鳴り止むと、ゴポゴポゴポという泡立つ音が通路に鳴り響く。

 やがて鼻をツンとした刺激臭がしてきて息の奥まで届くような、肺を浸していくような感覚がしてきた。


「よし、混ざり始めた」


 塩素ガスが発生したときの現象を確認した沢田は引き返して網の隙間から出て行く。

 沢田が出てくるとすぐに隙間を網で塞いだ。

 それから一分も満たない内に奥から何かが駆け上がってくる音がした。


「ゴブリンだ!」


 数体のゴブリンが目を血走らせて駆け上がってくる。


「ちょっ、数が多いんだけど!」


 麻衣は悲鳴を上げる。

 これまで出会ったのは一体だけ。それでも怖かった。

 複数のゴブリンを一度に見たことはない。

 迫ってくるのを見た麻衣は恐怖を感じ、後ずさりする。

 仲間も数人が恐怖を感じて下がる。


「びびるな!」


 だが沢田が声を上げて自信たっぷりに言う。


「上手くいく!」


 沢田は持ってきた槍を構えて待ち構える。

 そしてゴブリンは入り口へ、網が張られた場所まで、沢田達の目の前にやって来た。

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