第二話 エピローグ
処置を終えたとき数人の人影がやって来た。
合図を送ると決められたとおりの返事。
ダンジョンに入る前に、アイリが呼んでおいた応援だ。
彼らは村上と山本達を収容する。
「いたっ! おい! 丁重に扱え!」
「助けられてやっているんだぞ!」
「下手に扱ったら上に文句を言ってやる」
助けられても感謝の言葉は無く、山本達は文句を言うばかりだ。せっかく来てくれた応援が気の毒でダイナは同情する。
だが彼らはプロであり、悪態を吐かれようと任務を果たした。
幸いダイナによって応急処置がなされたため、四肢の切断はあっても助けた生存者に死者は出なかった。
いずれ保護者に引き渡され新門市から出て行くだろう。
だが、村上は武器の密売および未成年誘拐などの容疑で拘束され、連行された。
こいつにも処分が下るだろう。
ダンジョンの外に出て引き継ぎを終えると、アイリはベストの襟元を上半分を開き溜息を吐く。
「ふう」
ベストで締め付けていた胸元が緩み、詰まっていた息が解放され安堵する。
ダンジョンに潜る緊張から張り詰めていた神経が緩み、脱力する。
同時に、余裕が出来たため色々と考え事をしてしまう。
「なんか嫌だな」
肩を下ろし形の良い眉を寄せててアイリは呟いた。
山本達に見せたダイナの態度。まるで山本みたいな表情と言動だった。
諧謔に満ちた笑みを浮かべ、見下し嘲笑うような言葉を浴びせる。
見ているだけでも不愉快だった。
戦争前に虐められていたのだから仕返ししたいのは分かる。
しかし、ダイナが山本と同類になるのをアイリは見たくなかった。
どうも嫌な気分、会いたくない気持ちが芽生えてしまう。
「アイリ……」
なのでダイナに声をかけられたとき、不良につきまとわれた時のように、アイリは身体を震わせた。
恐る恐るアイリが振り向くと、弱々しく顔を俯かせ、声を出すダイナがいた。
「だ、ダイナ、うわっ」
突然ダイナはアイリに抱き付く。
先ほどとは違う意味でアイリは驚いた。
「え、えっ、ちょっと、ダイナ」
突然の事に驚くアイリだが、ダイナは強くしかし縋るように抱き寄せて来たため放せない。
無言のまま抱きついたダイナは、暫くしてようやく話し始めた。
「ゴメン、なんか抱きしめたくなっちゃって」
驚きで声をかけられないアイリにダイナは話す。
「虐められいたときの仕返しに山本達のように弄ってみたんだ。スカッとしたけど、やったあと、なんかかっこ悪いなって思っちゃって。なんか嫌な気分になって、それで抱きしめたくなったって」
気持ちが落ち着いたダイナは、ようやくアイリから離れた。
「ご、ごめん」
離れてようやく自分がアイリに、とんでもないことをしたことにダイナは気が付いた。
「いきなり抱き付かれて嫌だったよね。怒ってない? ……って、アイリ?」
謝っていると突如アイリは上のベストのファスナーを全て下ろして脱いだ。
「アイリ、何をして、うわっ」
白いインナーのみになるとアイリはダイナの頭を抱えるように抱きしめた。
「あ、アイリ」
今度はダイナの方が戸惑うが、柔らかい温もり力が抜けていく。
ささくれだったダイナの心を包み鎮めていく。
「ダイナはそれでいいのよ。あんな連中と一緒でいる必要なんてないんだから」
皆仲良く、年上には従え、などという言葉が無意味なのは知っている。
何処にでも碌でもない人間、同世代、年上、問わずいるのだから。
そんな連中から距離を取りたくてダイナは距離を取っていた。
だが一人では生きていけない、生きていくための支え、命綱としてアイリはダイナの元にいた。
「……ありがとう」
照れくさかったが礼を言わなければならない。
恥ずかしそうにダイナは言った。
だがその後もしばらくアイリはダイナを離さなかった。
注文の途中で喫茶店を抜け出してしまったことを思い出し、装備類を片付けて着替えてからまたターミナル駅の喫茶店に戻った。
「注文途中で出ていくなんて酷いな」
喫茶店に戻るとマスターが二人を怒った。
申し訳ないと思っていたので二人は平謝りし、事の次第を話す。
「なんてこった。そりゃ一大事だ。行って当然だ。だがとんだ結末だな」
「全くで」
ダイナとアイリ、マスターは笑った。
「疲れて腹減っているだろう。一寸喰っていけ」
そう言って出したのは生ハムだった。
ネギやアスパラなどの野菜を巻いたもので肉と野菜の質が良いのですんなり食べられる。塩も良く、スモークされているのか香りが食欲を引き立たせ知らず知らずのうちに手が伸びる。
終わると、メインがやってきた。
今回も生ハムだったが、ひと味違う。
生ハムとマッシュルームの芯、それにニンニクを一緒に刻み込み餡を作る。
それを芯を抜いたマッシュルームに詰めて熱したフライパンに敷き詰め上からオリーブオイルとワインを垂らし蓋をして蒸す。
十分から十五分ほど蒸し上げると完成だ。
「旨い」
マッシュルームと生ハムの旨味が舌に広がる。ニンニクとオリーブ、ワインの香りが食欲を増進させる。
「うん、美味しい」
アイリも喜んでいた。
「結構良いお肉だけど、何の肉を使っているのかな」
「いいだろう。実はこれドラゴンの肉なんだ」
マスターが悪戯を告白するような子供のような笑みで言う。
「最近ダンジョンが多いだろう。そこで駆除されたモンスターを生かせないかという話がでていてね。手っ取り早く食材に使っているんだよ」
「大丈夫なんですか?」
「毒とかはなさそうだ。実見で安全性も確認されている者しか下ろされていない」
「確かに」
補給が不足していたとき倒したモンスターの肉を使って食事を作ったことがあった。
そのことを考えると別におかしくはない。
「何か珍しい食材があったら下ろしてくれないか?」
「今日のダンジョンはゴブリンとリビングアーマーしかいなかったけど」
「流石に可食部分がないと料理できないよ」
「確かに」
三人は互いに笑い合った。
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