応急処置

「クリア!」

「クリア!」


 バラバラになって動かなくなったリビングアーマーを確認し、ダイナとアイリはようやく警戒を解く。

 そして、接近するモンスターがいないのを確認すると、一度村上の元まで下がった。


「うっ」


 ダイナは懐中電灯を点け村上の顔を照らした。


「た、助けに来てくれたのか、ぐあっ」


 村上は笑みを浮かべるがダイナは村上の腕を持ち上げると締め上げ手錠を嵌める。


「な、何を」


 更にうつ伏せにするともう片方の手に手錠を嵌める。


「おい! 俺は何も悪いことはしていないぞ! 不当拘束だっ! ぐはっ」

「黙っていろ」


 ダイナは銃口を村上の後頭部に突き付け黙らせた。


「悪いことをしていないと言っているが違うだろう」

「何を証拠に」

「小銃を密かに購入して持ち込んだんだろう」

「悪いことか! 許可を得ているぞ」

「無許可の小銃も多いだろう。ネタは挙がっているんだ。しかもダンジョンを通報していない。これは立派な犯罪だ。カメラで確認している」

「だが」


 村上が何かを言おうとした瞬間ダイナは銃口を脇に逸らし銃を撃った。


「ひっ」

「五月蠅い、黙っていろ」


 銃声と床の破片を顔に浴びて村上は悲鳴を上げる。


「因みにこの中には実弾が詰めてある。先ほどのゴム弾じゃない」


 ゴブリン相手にはゴム弾を撃っていたが何発か村上に当たっていた。

 死にはしないが骨が軋むような痛みがあった。


「変な動きをしたら、下手に喋ったら容赦なく撃ち込むぞ」

「ゴム弾にしろ。命を守れよ」

「構わないが、ゴム弾の数が少ない。弾の値段が高いからなお前に使うには勿体ない。それにリビングアーマーには効かない。現れたらお前を置いて逃げるからな」

「……」


 ダイナの脅しに村上は黙り込んだ。


「よろしい」

「ぐへっ」


 黙った様子を見て満足するとダイナは村上の顔を踏みしめた後、山本達に近づいた。


「手ひどく自滅したな。新兵の方がまだマシだ」


 怪我と遺体の損傷具合を見て、何が起きたかダイナとアイリは把握した。

 二人とも新門戦争を駆け抜けたベテランであり、自分の使った武器、小銃や手榴弾が人体をどのように損傷させるか知り抜いている。

 ゴブリンが奪った武器を使った様子は無かったので――使っていたら先ほどダイナ達に使っているはず、なので山本達が自分たちの武器で自滅したとしか考えられなかった。


「武器や道具は使いこなしてこそだぞ」


 ダイナは警戒しながら山本の元へ行き吐き捨てる。


「うるせえ、調子にのんな」

「あ、助けは要らないのか」

「馬鹿助けろ」

「何で罵声を浴びせる奴に?」

「お前のせいだろうが!」

「……何でだ?」

「お前が早く助けに来れば、こんな目には遭わなかったんだ!」


 山本は声を荒げて言う。

 無茶苦茶な論理にダイナは目を点にしたが、自然と笑いがこみ上げ諧謔に満ちた笑みを浮かべる。


「ほう、俺をあてにしていたのか。見下していた俺に助けを求めるほど落ちぶれたのか山本」

「てめえ、調子のんな」

「ああ、調子に乗っているな。お前も俺に助けられると格が下がるだろうから放っといてやる」

「ま、待てよ」


 立ち去ろうとするダイナを山本は止めた。


「何だ助けて欲しいのか」

「助けさせてやるよ」

「何処まで偉そうなんだ。やることがあるだろう。お願いしますはどうした」

「……お願いしまーす」


 渋々、ふてくされたような声で山本は言った。


「イヤイヤなら止めておこうか」

「お願いします! 助けてください!」

「よろしい。アイリ援護を」


 アイリに援護して貰ったダイナはようやく山本に近づき、怪我の応急処置をする。

 一通り見て、怪我の様子を確認する。

 足の裂傷と腕の怪我――多分、被弾して骨がボロボロになっている箇所が酷いようだ。


「ベストを脱いでいるのかよ」


 途中で落とされたベスト、応急救命キットも入っていたのに捨てていったのを確認しておりダイナは呆れる。

 怪我をすることなど考えていない、一方的に虐める虐め側にいると思い込んでいる。

 全く禄でもない奴らだ、とダイナは思った。


「仕方ない」


 ダイナは自分のキットを取り出す。

 本来なら持っている奴のキットを使う。

 傷のない自分のキットを使った後、今度は自分が怪我をしてしまった時、手元にキットがないのを防ぐためだ。

 だが、山本が持っていないのなら仕方ない。

 ダイナは止血バンドを取り出すと肩近く、腕の付け根を締め上げた。


「おい、怪我の近くにやってくれよ。途中から壊死したらどうする」

「止血バンドは骨を使って固定する。バラバラになった骨を締め付けても意味はない」

「いてっ」


 ダイナはバンドをキツく閉めた上、それを引っ張り山本は悲鳴を上げた。

 だがバンドが緩いと出血が止まらないので強く締める必要がある。

 締め終わると次は、足の裂傷にかかった。

 キットからガーゼを取り出し、傷口に突っ込む。


「いたたたたっ! おいっ傷口に手を突っ込むな触るな!」

「傷が深すぎる。表面を押さえても血は止まらない。血液凝固成分の入ったガーゼを入れて押さえる」


 傷口を止血すると上からクリップ付きの包帯を巻き付け処置を終えた。

 山本が終わると、他の不良の元へも治療に向かい処置をした。

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