ダイナの推測
「奴ら、山本達が改を持ってダンジョンに入るかもしれない」
喫茶店から山本達が出て行った後、アイリの話を聞いてダイナは静かに自分の考えを纏めるとアイリに言った。
「まさか、外の人間でしょう。ダンジョンを探し当てるなんて無理でしょう」
アイリはダイナの推測を否定する。
門を開いたのは魔族たちだ。
彼らは地球侵略の拠点として自動で作り上げられるダンジョンコアをばらまき、各所に作り上げ、いや産み落とした。
戦争が終わっても、ばらまかれたダンジョンコアは自己複製し、新門市を中心に各所にダンジョンが出来ている。
だが、入り口は魔法で巧妙に隠されており、見つける事は難しい。
外の人間には尚更だ。
もし、入り口が開いているのなら、モンスターが溢れ始めた大規模なダンジョンであり、その時点で発見され警察や自衛隊が動く。
通常は専門のマジックアイテム――探知機を持った人間がパトロールして見つける。
そして、自衛隊か警察が処理、若しくは冒険者に依頼される。
ただ、どこも人手不足のため、冒険者に回される事が多い。ダイナにも偵察が中心とはいえ依頼が回ってくるのは、そういう理由だ。
ダンジョンの依頼が無いときは、ダイナも町中を歩き回って見つける事もある。その時も探知機は必要だ。
つまり素人にダンジョンの入り口を見つける事など不可能なのだ。
それはダイナも先刻承知だ。
「もし、ダンジョンの知識がある新門市か戦争経験者が手引きしたとしたら?」
ダイナの言葉にアイリは、考え込んだが否定した。
「でも、そんな素人を使ってもダンジョン攻略出来ないでしょう。武器を持っていても扱えるわけないもの」
武器を使うには知識が必要だし正しい扱い方を身につけなければならない。
身につけないとモンスターを倒すどころか、自身を傷つける。
まして一般人はダンジョン攻略の知識など無きに等しい。
ゲームでお馴染みかもしれないダンジョン攻略のシチュエーションだが、現実のダンジョンは違う。
一般人が入れば、討伐どころかモンスターに襲われて返り討ちに遭い死ぬだろう。
例え、二〇式改などの武器を持っていても使えず、いや使い方を誤り自滅するのがオチだ。
「勧誘した奴は攻略させる気なんて無いだろう」
「じゃあどうしてダンジョンに武器を与えて入れるのよ」
「モンスターをおびき寄せる囮だ」
ダイナの言葉にアイリは戦慄した。
ダンジョンは防御のために巡回するモンスターを生み出す。そのモンスターがダンジョン攻略の障壁の一つだ。
そのモンスターに奇襲されて、狭いダンジョンで挟み撃ちにされる危険がある。
特に侵入者めがけて集まる性質がモンスターにはある
これが多数でパーティーを組んで攻略する理由であり絶対条件だ。
前後を守り、モンスターに囲まれても互いに防御し合いながら攻略するためだ。
ダイナは例外だが、これは持ち前の才能と勘、経験からモンスターの行動を把握、挟み撃ちにされる前に各個撃破出来るためだ。
「囮に釣られてきたところを一網打尽にすれば問題ない」
「……確かに」
アイリはダイナの意見に同意した。
辻褄があうからだ。
碌に武器に詳しくない新門市外の人間なら改も改二の区別も付かない。
武器を持った興奮で喜び、ご機嫌にダンジョンの中に入っていくだろう。
モンスターの手強さとダンジョンの恐ろしさを知らずに。
知ったときは命が失われる直前だ。
「万一攻略されたときはどうするの? それに生き残って出てくるかも。あとで通報されるかもしれないでしょう」
「その時は彼らの真ん中に手榴弾を投げ込んだり、帰り道にクレイモアでも仕掛けて一網打尽さ」
冷酷に計画を喋るダイナ。
十代後半だが戦争で様々な手段を見てきたし、対応しなければならなかったため、この手の計画を思い浮かべやすい。
「まあ推測だけど」
「そうね」
だが、ここまではダイナの状況証拠からの推測でしかない。
「でも、調べる価値はありそうね」
アイリはハッキリと言った。
ダイナは普段ボーッとしているが時折鋭いところがある。断片的な情報を組み立てて真実を暴くことがある。そして、その勘に助けられたことがアイリは多い。
時に妄想の暴走で見当違いの事を言い出すことがあるが、年々精度を増している。
説得力もあるし信じる価値は十分にある。
他に武器のルートの手がかりがない、というのもあるが、調べる価値は十分ある、とアイリは考えた。
「山本達の位置を監視カメラで探ってくれ。僕は装備を取ってくる」
「わかった」
二人は料理を持ってきたマスターに謝り横をすり抜け喫茶店を出ると、それぞれ準備を始めた。
「もしもし、新門方面隊司令部? アイリです。緊急事態です。<天の目>の使用許可を。えええ、緊急事態です。外の高校生が勝手に無許可でダンジョンに入る可能性があります。経験者の手引きによって。はい、直ちに申請を」
新門市にはモンスター出現に備えると言う名目で多数の公共監視カメラが設置されており、<天の目>というネットワークで繋がっている。
そして、必要な情報、単語や映像を入力すると蓄積された膨大な記録から関連すると思われる画像を取り出すことが出来る。
「はい、ターミナル駅近くの喫茶店から出てきた数人の門外から来た高校生です。時間と特徴は」
アイリが言うと、司令部のオペレーターが付近の監視カメラの記録から時間と場所、人数から該当する集団を見つけ出した。
彼らの顔をサンプルとして取り出し、顔認証プログラムを走らせ、検索を開始。山本達の足取りを追跡する。
喫茶店を出た後、駅へ行き、列車に乗りこむのを確認。車内カメラから乗りこんだ駅と降りた駅を特定。降りた駅の監視カメラで足取りを追跡。
そして、住宅街の一角で消えたことを確認した。
「ありがとうございます。直ちに急行します。足の手配を。場所が分かったわよ」
「すぐに向かおう」
十数分後、場所を特定。道具をピックアップしたダイナと合流し向かう。
山本達の特徴を知らせると共に移動手段と応援を要請したアイリは、小機動車――荷台の付いた軽バンも呼び寄せ、ダイナと共に向かう。
該当箇所付近を捜索し入り口を見つけたダイナは緊急を要すると判断し、内部へアイリと共に入っていった。
そして、村上が襲われているところに遭遇したのだ。
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