リビングアーマー

「がっ」


 ダンジョンの中に悲鳴が響いた。


「畜生! 誰だ!」


 だが、それは山本ではなく、村上の悲鳴だった。

 腕に突き刺さった太短い矢を見て、村上はダンジョンの奥の方へ目を向ける。

 暗い通路の奥からはフルプレートの騎士のような集団が来ていた。

 そのうちの一体がクロスボウを構えており、村上を狙って放ったのだ。

 村上に命中したのを確認すると、次発を装填しようと、先端の掛けがねに足を入れて弦を引っ張り上げる。

 だが、その仕草は人間ではなかった。

 人間と同じ動作だが、何処かロボットのようで人間的なものを感じなかった。

 それは、騎士の集団にも言えることだった。


「リビングアーマーか!」


 新門戦争で現地徴集とはいえ自衛隊員として戦った事のある村上だ。

 モンスターに対する知識が多少あった。


「こいつは拙い」


 リビングアーマーはプレートの鎧が魔力で動くモンスターだ。

 銃で貫通するが、上手く当たればの話。上手く当てないと、表面を滑って弾かれる。止まった相手を撃つのは好きな村上だが、離れた場所から隙間を狙って当てる技術はなく相性が悪い。

 しかも、生き物ではないから心臓など致命的な場所が少なく、腕を欠落させても痛みなど感じず攻め寄せてくる。

 おまけに数が多い。


「くっ」


 村上は手元の銃を放ったが、リビングアーマーが持つ金属の歪曲した盾の表面を弾が滑り、やはり貫通しない。


「いったん退却だ」


 自分で対処出来ないと瞬時に判断した村上は、背を向けて逃げ出した。

 山本達を殺し損なったがリビングアーマーが片付けてくれるだろう。


「むしろ、片付ける手間が省けた。がはっ」


 汚い笑みを浮かべていると突如、腹部に痛みが走った。

 視線を落とすと、ゴブリンが自分の腹にナイフを、黒曜石のような鋭い尖りを持つ石のナイフをベストの隙間から腹部に突き刺していた。


「何しやがる! がはっ」


 銃床でゴブリンの顎を強打するが、次の瞬間には頭部に強烈な打撃が加わり、村上は地面に倒れた。


「もう一体いたか」


 自分を叩きのめしたゴブリンを憎々しげに睨み付けるが、村上は勘違いしていた。

 ゴブリンは二体ではなく、数体いたのだ。

 横穴から続々と、現れ村上を囲む。


「よせっ! 止めろ! ゴブリン風情が俺に近寄るな! ぎゃあっ!」


 まくし立てる村上にゴブリン達は棍棒で殴り、ナイフを突き立てる。


「この」


 村上はゴブリンに小銃を向けて放った。二発の銃弾が飛び出し目の前のゴブリンに命中し絶命させる。

 仕留めたのを確認し、もう一体に銃口を向けるが、カチンと金属音を出すだけだった。


「弾切れか!」


 排莢口から弾のないマガジンが見えて村上は焦る。

 乱射最中、撃っている途中で流れ弾が当たり絶命した奴の銃だったので、何発かマガジンに残っていた。

 だが、マガジンに残っていたのは六発だけ。

 先ほど村上自身が不良に一発、リビングアーマーに三発、そして今、残り二発をゴブリンに向けて撃ったため、それでマガジンは空になった。

 線条痕で撃ち殺したのがバレるのを防ぐため同士討ちと思わせるよう山本達に渡した銃を拾ったのが徒になった。


「畜生! 無駄撃ちしやがって無能なガキ共!」


 死んだ不良に悪態を吐くと、村上は自分の銃に手を伸ばそうとしたが、ゴブリンが素早く奪った。


「待て! そいつは俺の銃だ! ぎゃあっ」


 取り戻そうとしたがゴブリンの棍棒が村上の右手を叩き、村上は悲鳴を上げる。


「退きやがれゴブリン共! ぐあっ!」


 睨み付けるが、村上の悪態を真に受けるようなゴブリンではない。

 よってたかって殴り、叩き、刺す。


「や、止めてくれ! 助けて! ぎゃああっ」


 遂にゴブリンに泣き寝入りをして助けてくれと懇願するが、ゴブリンは嘲笑うだけで村上への暴行を止めない。


「だ、誰か……誰か……助けて……」


 息も絶え絶えになり、助けを求めた時、穴だらけの円筒形の物体がゴブリン達の脇に転がってきた。


「?」


 甲高い金属音を聞いてゴブリン達は、その金属の筒に注目する。

 そこで金属の筒が弾けた。


 パアンッ


「ぎゃあっ」


 強烈な光と音に、ゴブリンは溜まらず目を瞑り、耳を両手で塞ぐ。

 使われたのは音響閃光弾。

 殺傷力はなく、強烈な光と音で相手を麻痺させる武器だ。

 人質救出など標的と非殺傷対象が混在している状況で使う。

 激痛が走るほどの音と光に耐えられず目と耳を覆うためゴブリンは武器を手放した。

 そこへ多数の銃弾がゴブリンに降り注ぐ。

 撃たれたゴブリンは、衝撃で村上から離れる。


「モンスターに襲われている人物を確認」


 銃を撃った人物が抑揚のない声で言う。

 その声の主はダイナだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る