混乱
「畜生! 弾が出ない! クソ銃が」
トリガーを引いても弾が出ないことに苛立った仲間が小銃を床にたたきつけた。
暴発と乱射は、マガジンの弾が無くなるまで続いた。
「痛えよおっ」
「助けてくれっ!」
「畜生!」
山本達の阿鼻叫喚がダンジョン内に響く。
だが助ける者は誰もいない。
怒りを吐き出した後は、力なく呻くだけだった。
「なあ、どうすんだよ。三人も死んじまったし殆ど、怪我している」
仲間の一人が恐怖で怯えながら言う。
学校だと怪我を負わせるのはやり過ぎとされ、後で問題となる。そのことを普段から知っているため追及されるのを怖がっていた。
銃による怪我など警察沙汰になりかねない。
まして死人まで出たら、隠しようもない。
「うるせえ!」
山本は叫んだ。
乱射の最中、躓いて倒れた山本は再び頭を打ち、一時気絶した。結果的に乱射に巻き込まれずに済み、ほぼ身体は無傷だった。
だが、心は違った。
「一寸黙ってろ」
「お前が最初に撃ったんだろう」
「うるせえ!」
仲間の非難を山本は怒鳴って黙らせ、反論出来ないようたたみかける。
「勝手に死んだのが悪いんだ!」
勝手な言い草だったが、山本も自分が撃ったからだと理解していた。
だが、認めたくないので自分に責任が、失敗したという恥ずかしい事を受け入れたくないので、決して認めようとせず、責任転嫁しようとして、仲間をなじった。
「けっ、つまんねえ。俺は帰る」
苛立ちが募った山本は勝手に帰ろうと来た道を戻ろうとした。
「おい、こいつらはどうするんだ」
仲間の一人が、死んだ仲間と、怪我で呻いている仲間を指して言う。
「自分で何とかしろよ! 自己責任だろう!」
一刻も早くこの場を去りたい山本は、切り捨てるように言った。
けが人を担ぐという重労働などしたくない。
死体を運ぶなんてことはもっと嫌だ。
それにこいつらは自分を見下し始めた。助けようなど思わない。
「とにかく、俺は帰るからな。動けねえなら、自分で何とかしろ」
山本は勝手に歩いて帰ろうとした。
「おい待てよ山本!」
「うるせえ!」
なおも止めようとする仲間に罵声を浴びせる山本、更に言おうとしたが、突然腹部を刺され声が出なかった。
「なっ」
激痛が走る中、振り返ると、ゴブリンが自分の身体を刺していた。
「どうして」
何故入り口の方向からモンスターが現れたのか分からず山本は混乱した。
暗い中、懐中電灯だけで進んだため、突起物の裏の横穴に気がつかず、通り過ぎ、そこからゴブリンが出てきて襲いかかったなど、山本は知るよしもない。
ゴブリンはナイフを引き抜くと、山本は地面に倒れた。
「ゴブリンだ!」
ゴブリンの群れに襲われた彼らは、銃を構え引き金を引く。
だが弾が出ない。
「畜生! 弾が出ない!」
「肝心な時に弾が出ないなんてこの欠陥品1」
何度も引き金を引いても弾が出ず叫ぶ。
「マガジンを交換しろ!」
多少知識のある仲間が叫ぶと、無造作にポケットに突っ込んでいたマガジンを取り出し、銃に入れようとする。
だが、銃にマガジンを入れても固定されず、手を離すと、すっぽり抜けてしまう。
「何だよ! どうして抜けるんだよ!」
落ちたマガジンを拾って装填口を見ると一部が欠けていた。
不用意にポケットに突っ込んだため、突き出た装填口が先ほどの手榴弾の爆発で破片が直撃、あるいは倒れた衝撃で装填不能になるほどマガジンを変形させたのだ。
お陰で彼は命が助かったが、その幸運はゴブリンの登場により尽きようとしていた。
「無事なマガジン! 無事なマガジンは! うわっ」
他のマガジンへの交換に手間取っているとゴブリンがやって来て襲いかかった。
小銃でナイフの攻撃を受け止めるが、数が多い。
「くたばれゴブリン!」
一人が手榴弾のピンを引き抜き、ゴブリンに向かって投げつけた。
空中でバーが外れてハンマーが点火薬を叩き、導火線に火を付けシューと音を立てる。
だが、手榴弾は爆発せずゴブリンが空中で手榴弾をキャッチした。
「どうして! 不良品かよ!」
驚いているとゴブリンは掴んだ手榴弾を投げ返し、山本達の真ん中で爆発した。
「ぎゃあっ」
キチンと正常に爆発した手榴弾は、正常に内部の破片をまき散らし、山本達を傷つけていく。
「うううっ」
最早、満足に動ける者はおらず、ゴブリンの群れに蹂躙されようとしていた。
ゴブリンも無傷では無く二体ほど爆発に巻き込まれて死んでいたが、数が多いので気にしていなかったし、大勢に影響はなかった。
「うわああああっっっっ」
「た、助けてくれ!」
「死にたくねえよ」
「リセットだ! リセット! ゲームのようにリセットすれば」
「運営は何処だ! こんなクソゲーム作りやがって!」
口々に悪態を吐くが、助ける者は誰も居なかった。
徐々にゴブリンは近づいてくる。
もうダメだと思ったとき、ゴブリンの群れの真ん中で爆発が起こった。
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