暴発事故
銃のみならず道具を扱う人間は、その正しい使い方を教わる。
便利な道具でも、人を、自分を傷つける危険があるからだ。
美味しい料理を作る包丁でも、いや、切れ味が良いからこそ素材を綺麗に切れるので、人の身体に傷を付けてしまう。
動物や人を撃つための道具である銃など特に注意が必要だ。
自衛隊員でも警察官でも銃を扱うには訓練を受ける。
暴発を防ぐため、安全装置をかけ、トリガーから指を離し、銃口を決して他人に向けない。
万が一暴発しても人を傷つけないようにするためだ。
ヘルメットもそうだ。
銃弾が飛んできても頭を守る為の装備と思われているが、それが一番の目的ではない。勿論敵弾を弾くことが出来れば良いが、戦闘など滅多にない。
本来の目的は頭部の保護、ふとしたとき頭をぶつけたときダメージを受けないようにするためだ。
意外だが、単独で突起物などに頭部をぶつける事故は多い。
特に山岳地帯や密林、狭い空間、ダンジョンなど、突起物が多い場所は特に多い。それに万が一戦闘になった時、地面に伏せるため倒れ込み、頭を打ち付ける事がある。
頭をぶつければ痛いし、気が遠くなったり、最悪失神する事もある。
戦闘中、この状態は危険なので、失神を回避するためにもヘルメットを被る。
またぶつけた衝撃で誤った操作、銃の引き金を引かないようにするためだ。
この時、山本もヘルメットを被っていれば、痛みで身体を強ばらせ、指にかけていたトリガーを引き暴発させる事故は回避出来た。
そもそも安全装置をかけ、トリガーから指を外しておけば良かった。
銃口を指を差すように佐脇に向けていたのも事態を悪化させた。
暴発して飛び出した銃弾は佐脇の身体に命中。
佐脇が防弾ベストを脱いだため、障害のない銃弾は体内へ易々と侵入し肺を貫通した。
「なにすんだ」
と佐脇は叫ぼうとしたが、肺に穴が空いた上、血液が溜まり、気管を塞いだため声はでなかった。
「がはっ」
言葉の代わりに血を吐き出した佐脇は、山本を睨み付けた。
「ち、違う! 勝手に弾が出ただけで」
睨まれた山本は狼狽し責任転嫁しようとする。
その態度が気に入らず佐脇は問い詰めようとしたが、身体から急激に力が抜け、意識も遠くなり、倒れ込んだ。
倒れた衝撃で指に力が入り、安全装置がかけられていない小銃のトリガーを引いた。
パパパッ
「うわっ」
佐脇の銃が暴発し、山本達に襲いかかる。
悲鳴を和えて山本達は飛び退いたり、床に転がったりして避ける。
「痛てて……何してんだよ佐脇の間抜けは……」
弾を避けるため床にスライディングした仲間が起き上がって、仲間である佐脇に悪態を吐く。
いや、元仲間だ。
こんなヘマをした奴なんざ、仲間ではなく山本同様、弄りの対象だ。
「山本も佐脇も何やってんだボケッ!」
銃を暴発させた山本と佐脇に、もはや見下す態度を隠そうともせず大きな声で罵声を浴びせ、更に追い打ちをかけようとした。
だが、出来なかった。
手元にシューと音を立てる何かが転がってきた。
「うん?」
何かと思って下を見ると安全ピンが抜け、安全バーも外れ点火した手榴弾だった。
「え?」
手榴弾が何故転がっているのか分からず、彼は戸惑った。
事実は手榴弾を見た彼が地面にスライディングした瞬間、シャツのの裾に引っかけていた手榴弾のピンが、地面の突起物に引っかかって抜けた。ピンで止まっていた手榴弾の安全バーが外れ、転がると共に点火したのだ。
手榴弾について勉強していない者にとっては、どうしてこうなったのか理解出来なかったし、次の瞬間どうなるか分からない。
だから四秒の遅延を終えて手榴弾が爆発するまで彼は手榴弾を眺め続けた。
ボンッ
「ぎゃあっ」
彼らの真ん中で手榴弾の爆発が起きて更に混乱が起こった。
「トラップか!」
「畜生!」
何が起きたのか分からず、彼らは闇雲に銃を乱射する。
「畜生! おらっ! おらっ!」
乱射防止の為に三点バースト、連射に切り替えても三発撃ったら止まる構造になっているが、トリガーを何度も引いては意味がなかった。
「モンスターが撃ってくるのか!」
「死んでたまるか!」
「くたばれっ!」
恐怖が伝染し、彼らは引き金を引きまくり、ひたすら撃ちまくる。
「よせ! 撃つな! ぎゃあっ」
止めようとした仲間もいたが、流れ弾に当たって絶命した。
彼らを止める者はおらず、弾切れになるまで続いた。
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