訓練されていない高校生の行動
「……重っ……」
歩き始めてから数分後、山本達は、不平不満を漏らした。
装備に触った最初の興奮はすぐに萎み、現実が身体に食い込む。
「装備が重いぞ」
八八式軍帽――自衛隊のヘルメットで重量は1.5キロ。
タクティカルベストは防弾板が入っている上に、予備のマガジンや手榴弾が入っている。
そして二〇式改小銃は軽量化が行われていたが3.5キロはある。銃を腕だけで抱えるだけでも大変だ。
全部合わせると十キロ以上くらいの重量を彼らは背負っている。
普段、買い物さえしない高校生に耐えられる重さではない。
「置いてこうぜ」
「そうだな」
山本達は重い荷物を、タクティカルベストやヘルメットを地面に置き始めた。
流石に銃は手放さなかったが、殆どの装備を置いていく。
ベストに入っていた予備のマガジンを無造作に弾が見える部分が突き出たままポケットの中に入れたり、ケースに入っていた手榴弾はポケットの裾などに引っかける。
「おい、誰か懐中電灯付けろよ」
ヘルメットに付けていたヘッドライトで灯りをとっていた。
だがヘルメットを外したため灯りが無い。
「山本、お前が持てよ」
佐脇が山本に言いつける。
「何でだよ」
「お前が一番何もしていないじゃないか」
「……けっ」
佐脇の話し方は、いちいち苛立つ。
だが、この話を持ってきたのは佐脇だ。
それに、先ほどの件、弄り対象の木戸に反撃されて一方的にやられたこともあり山本のメンバー内での格は下がっている。
周りも山本を見下すような視線を浴びせてきている。
もとより彼らは面倒な懐中電灯を持つ気は無い。
むしろ懐中電灯を保つのは格下の役目と言った雰囲気だ。
懐中電灯を持たせるのは、虐めショー、格下である事を強いるためのイベントになっていた。
「持てば良いんだろ」
山本は懐中電灯をひったくると、木戸のせいだ、帰ったら銃でぶっ殺す、と心で言いつつ、灯りを付けた。
右手に銃、左手に懐中電灯と両手を塞がれ動きにくい。
しかも、三キロ以上ある小銃を右手だけで、トリガーに指をかけたまま保持するのは、苦痛だ。
そのせいで足下を照らす懐中電灯の光が左右に振れる。
「もっとよく照らせよ」
足下の光が揺れるのに苛立った佐脇が山本に文句を言う。
「足下がよく見えねえだろう」
「うるせえぞ佐脇」
ダイナのこともあって苛立っている山本は、佐脇を睨み付け、銃口を向けて言う。
「てめえ、あんまし調子に乗ってんじゃねえぞ」
「はあ、何言ってんだよ。俺がいないとここに来れなかったくせに」
「で、来てみたらどうだ。重たいもん持って歩いてんのにゴブリンもスライムも出てこねえぞ」
ゲームのようにダンジョンに入ればモンスターにすぐ遭遇すると思っていただけに、遭遇しないのは肩透かしを食らったような思いだ。
ほんの数分でも重装備で歩き続けさせられた彼らには退屈を越して苛立ちが生まれた。
「俺に文句言わないでくださーい」
「うるせえ、モンスターを撃ちまくれると誘ったのはお前だろう。お前らも調子に乗ってんじゃねえぞ。うおっと」
突起に足を引っかけた山本は転びかけた。すんでの所で足を伸ばし、転倒を回避する。
「だっさっ」
「新体操でもやってんのか」
「うるせえ!」
何とか態勢を立て直す山本だが、躓いても仕方なかった。
でこぼこの床は足場が悪いため余計に疲れる。しかも慣れない重装備を背負っているので体力を使っているため、足がもつれやすかった。
特に左手に懐中電灯、右手に小銃を持ち、足下を照らさなければならない山本は、一度に多数のことをしなければならない状態をずっと続けていたため、余計に疲れていた。
程度は低くても仲間も疲れに苦しむのは同じで疲れを紛らわしたくて山本の醜態を見て笑った。
「お前らも笑うな!」
怒りを込めて仲間にも言った山本だったが、返ってきたのは仲間の嘲笑、格下が粋がっているのを嘲笑う笑みだった。
彼らにとって山本はダイナに代わる新しい玩具、いじりの対象になりつつあった。
そのことをプライドだけは高いだけに敏感に感じ取った山本は、歩きながら後ろの仲間を睨み付ける。
「きゃはははっ 転びかけて受ける」
「おい調子にのんじゃねえぞ」
苛立った山本は、笑って煽る佐脇に向かってトリガーに指がかかったまま銃口を向けて脅した。
だが、彼らには山本が精一杯粋がっているようで、滑稽にしか見えない。
それに起こるであろう次の展開、笑いの場面を期待していた。
山本のすぐ先に出っ張りがあり、よそ見したままだとそのままぶつかる。
そのぶつかって痛がる滑稽な姿を、お笑い番組の芸人を見る様な気分で仲間は、笑いながら待った。
「何笑ってんだっ! いてっ」
予想通り、出っ張りに山本は頭をぶつけ、間抜けな声を上げた。
だが、笑い声は起きなかった。
山本が、ぶつかった驚きと痛みで身体を強ばらせ、トリガーにかかったままの指に力が入り発砲。
マズルフラッシュと銃声、直後の惨劇の衝撃に凍り付いたからだ。
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