武器の魔力

 小銃をはじめミリタリー関連の物品は少年の心をくすぐる。

 村上が提供した武器は山本達の心を奪った。

 プラスチックやメッキとは違う、本物が持つ重い黒光りを放つ銃の魔力に彼らは取り憑かれ、無言で手にとり、目をランランと輝かせ銃に魅入った。


「撃てるのか」

「撃てるぞ」


 半信半疑の山本に村上は一丁の小銃を手に取る。

 片手でマガジンを入れ槓桿を引き初弾を入れると通路の奥へ向かって銃口を向け、引き金を引いた。


 パパパンッ


 乾いた音が響いた。

 比較的小さな音だが、通路の中のため反響して大きく聞こえた。

 そして銃火の光が、壁に反射して山本とその不良仲間の視界と思考を真っ白にする。


「……すげえっ!」


 しばしの沈黙の後、山本と不良仲間は叫んだ。

 初めての銃の光と音は彼らの意識までも真っ白に染め上げ、代わりに興奮を与えた。

 それまで感じていた不安は消え去り、無敵の万能感が彼らを支配する。

 次々と山本とその不良仲間は村上を真似てマガジンを入れ、槓桿を引き、発砲する。

 軽い衝撃が銃床を伝って肩に響き、マズルフラッシュが再び彼らの精神を真っ新にした。


「うおおっっ」


 銃の反動が銃床を通じて彼らの肩を身体を叩き、衝撃は山本達の心身を揺さぶる。

 自分が銃を撃った事実が山本達を興奮させ、更に高揚させた。


「これで俺たち無敵だ!」

「最っ高っ!」


 初めて銃を撃った山本と佐脇が叫ぶと仲間達も口々に歓声を上げる。


「扱い方は大丈夫なようだな」

「バッチシさ!」


 村上の言葉に山本が答えた。動画で覚えた事が出来たからだ。

 彼らにはそれだけで十分だと本気で思っていた。

 ゲームのようにとりあえずスタートして、やってみていれば上手くいく、冒険は成功すると考えていた。


「なら、あとは、君達で出来るな」

「任せとけ」


 だから山本は村上の問いに自信満々に軽薄な笑みを浮かべて言う。

 そして残りの装備、ベストを着て、ヘルメットを被る。


「うっほうっ! スゲエッ! これでダンジョンも楽々クリアだ!」

「勇者みたいだ!」

「勇者は剣だけだろ。俺たちは銃を持っているんだぜ! 勇者以上だ!」

「来やがれモンスター! 蜂の巣にしてやる!」


 ズシリと重い本物を着込んで気分は更に高揚する。

 その様子を村上は見下すように見た後、薄ら笑いを一瞬浮かべると、山本達に言った。


「じゃあ、約束通り、俺は邪魔にならないようにここにいるから後は、自分達で楽しめ」

「おうよ!」


 昂揚した山本達は村上の表情に気付くこと無く、村上を置いて意気揚々と奥へ向かって行った。

 案内して装備を用意してくれたとはいえ、自分達だけダンジョンを楽しみたい、大人の手は借りたくない、という思春期特有の背伸びした考えからだ。

 最初からその約束で、ダンジョンの入り口まで案内する、武器は村上が提供する、渡したら後はダンジョン内を好きに歩く、という内容だった。

 そこに特に問題があるとは山本も佐脇も、他の不良仲間も感じてはいなかった。

 武器を持った興奮で、今は自分達が何でも出来るという全能感に酔いしれ、そのような不安も疑問も何も感じなくなっていた。


「さあ行くぜ」


 だから山本達は、景気づけに天井へ銃を放つとトリガーに指をかけたまま意気揚々とダンジョンの奥へ向かって歩いて行った。


「さあ、来やがれモンスター!」

「なあ、ダンジョンコアって高く売れるんだろう。幾らだよ」

「一千万くらいするそうだ、ものによっては一億以上」

「すげえ! 宝くじ並みじゃねえか! 俺たち大金持ちだ!」


 銃を手に入れた高揚感で既に攻略したような気分になって馬鹿話を始める。


「この銃も貰っちまって良いんだろう」

「そうだってさ」

「いいなこいつ。持って帰ろうぜ」

「なあ、ダンジョンの攻略を終えたら、あの喫茶店と木戸の奴を銃で穴だらけにしてやろうぜ」

「あ、それいいな」

「一緒に居た女は銃を突きつけて遊ぼうぜ」

「いっそ、あそこに銃口入れてみるか」

「撃ちだして、イクかどうか試してみようぜ」

「あははは、そりゃいい」


 トリガーに指をかけたまま、山本達は笑い声を上げつつ奥へ歩いて行った。

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