案内人 村上

「畜生、木戸の奴、舐めやがって」


 喫茶店から追い出された山本は悪態を吐く。


「くふふっ、うける」


 山本の仲間である佐脇が笑う。

 格下の木戸、ダイナに喧嘩を売って反撃され負けた。

 これで山本の仲間内ランクは下がった。それが面白いのだ。

 山本が睨むが、眼力は弱い。山本自身も自身のランクダウンを無意識に悟っていた。

 仲間内での居心地が悪くなる。

 それもこれも全てはダイナのせいだ、と心の中で悪態を吐く。


「んな事より。本当にダンジョンに入れるのかよ佐脇」


 話題転換しようと山本は声を荒げて佐脇に言う。


「大丈夫大丈夫、キチンと入れるよ。段取りは出来ている」

「本当に大丈夫なんだろうな。ダンジョンに入ってモンスターとか退治してがっぽり儲けようって言うのは」


 今回の話を持ってきたのは佐脇だ。

 新門市に観光に行くことは決めていたが、それだけではつまんないとダンジョンに行くことにした。


「大丈夫でーす。公務員の父親の友人に元自衛隊員で冒険者やっている人が装備とか提供してくれるってさ。割の良いダンジョンもあるってさ」


 偶然にも佐脇の知り合いに新門市の人間がいてダンジョンへ連れて行ってくれる上に攻略させてくれるという。

 外の人間ながら新聞やテレビがモンスター退治、ダンジョン攻略で大金持ちになった人間の報道をしていたので、ダンジョン攻略して金が欲しい、そして冒険がしたいと思っていた山本達には渡りに船だ。

 その手はずを整えているのは、佐脇と話を持ち込んだ人間だ。


「他の冒険者に漁られているんじゃ無いのか?」

「見つけたばかりで入られていないよ。僕にだけ秘密で教えてくれるってさ」

「嘘だったら承知しねえぞ」

「木戸に負けるような奴に言われたくありませーん」

「うるせえ!」


 山本は佐脇の頭を叩いた。


「いってえな、殴らないでくださーい。止めてくださーい」

「うるせえよ。黙れ」

「止めないと連れて行かねーよ」

「ふんっ」


 山本は黙った。

 佐脇は口先だけの奴だが今回の計画の繋ぎ役だ。

 こいつがいないとダンジョンに入れないし武器も手に入れられない。

 彼らは佐脇の案内で新門市の郊外へ電車で向かう。

 郊外の真新しい住宅街を歩いていると、彼らに声をかけてくる人物がいた。


「こんにちは佐脇君」


 出てきたのは黒縁眼鏡をかけた中年の男だった。

 頭頂部がはげ上がっているが、笑みを浮かべていて愛想が良さそうだ。


「あ、村上さん。どうも」

「やあ佐脇君、待っていたよ。こちらは?」

「今回一緒にダンジョンに入る仲間です」

「皆さん、初めまして村上一三です」


 村上と名乗った中年男は、丁寧に佐脇に挨拶をした。


「これで全員ですか?」

「ええ、みんなダンジョン攻略に乗り気ですよ。降りるような連中はいないですよ」

「そっちも準備は出来ていますか」

「ああ、準備万端で待っていたよ」


 今回佐脇を通じて提案してきた人物であり、ダンジョンまでの案内と装備の用意をしてくれる約束だった。


「それより、仲間の他には誰にも、親にもダンジョンに行くとは話していないよね」

「勿論ですよ。こんな美味しい話を他にしませんって」


 佐脇は頷き山本達も頷いた。


「そうか」


 彼らが本心から肯定しているのを見て村上は安堵した。

 本当はダイナの前でダンジョンに行くと言っていた。

 だが、ダイナのことを人間扱いしていない彼らは、ダイナをカウントしていなかった。言ったところで問題ないと考えていた。

 だから、本心から誰にも言っていないと断言した。


「ダンジョンはすぐそこだ。準備も整っている」


 付いてきてくれ、と言うと案内人である村上は山本達を案内した。

 そして住宅街の一角、にたどり着くと、マジックアイテムを掲げ、呪文を唱えるとアイテムが光り出した。

 徐々に目の前の風景が歪み、目の前にダンジョンの入り口が現れた。


「おおっ」

「すっげー」


 突然現れたダンジョンの入り口に山本達は興奮する。

 まんま、ゲームの世界のようで、自分がゲームの主人公になったような気になり、これからの冒険に対する期待感が高まる。


「ここだ。早く入ってくれ」


 村上は山本達を入れるとアイテムを使って入り口を閉じた。


「何で閉めるんだ」

「他に入ってくる人が来ないようにするためだ」

「俺たちも出られないじゃねえか」


 外の風景が消えて山本は不安になり尋ねた。


「見つかると色々拙いんだよ」


 互いに秘密だよ、とでも言いたそうに目を細めて村上は言う。


「秘密にしないとすぐに冒険者や行政が入り込んで攻略されてアイテムとか奪われてしまう。ダンジョンに入る事は誰にも言っていないか? 家族にも」

「言ってねえよ」


 念を押す村上に、山本も佐脇も、仲間も頷く。

 今回は徹底した秘密で行うよう村上は念押ししていた。

 山本達も同意していた。

 家族に言ったら反対されるだろうし、小遣いが欲しかった。


「なら良い。幸い、このダンジョンの中はゴブリンしかいない。これでイチコロだ」


 と言って村上は予め運び込んでいたケースを開ける。


「おおっ」


 中に入っていた小銃やベスト、ヘルメットを見て、山本達は感嘆の声を上げた。

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