二〇式小銃シリーズ
「二〇式改が?」
アイリの言葉にダイナは驚き尋ね返した。
「ええ、新門市で大量に出回っているみたい」
「何で今更、二〇式改が。まあ、お世話になったけど」
新門戦争初期、自衛隊が予想外のモンスターによる攻撃を受け大量の損失を出して敗退した際、装備品を多く失った。
そのため自衛隊は深刻な武器不足となった。
特に前線で使われる小銃の不足は深刻で、一世代前の八九式小銃どころか六四式小銃まで武器庫から出され、支給される始末だった。
「米軍のM16も良いけど部品の補充やメンテナンスが大変だもんね」
「L85なんて渡された時は銃剣突撃しろってことかよ、と思ったよ」
「AKが一番使いやすいけど弾薬が違うから困ったわね」
「AK101がNATO弾使えるから良いけど、ロシア製だから少数だしね」
海外からの緊急輸入も行われたが、太平洋戦争で三八式小銃と九九式小銃が平行して使用され混乱した歴史が証明するように、前線の小銃が多数乱立するのは作戦面でも補給面でも良くない。
また、供給する国の事情もあり途絶えることも考えると依存出来ない。
そこで、射程や連射性、耐久性などの一部低下を甘受してでも短期間に大量生産する事を目的に二〇式改の生産が計画された。
二〇式の部品点数を少なくし、一部を簡略化することで生産性を向上。
部品点数を少なくすることで新兵、現地で募集した志願者、銃を触ったことの無いド素人でも使えるようにした。
当然古参隊員を中心に一部から反発があり、性能向上を求められた。
だが、開発期間の短縮の為もあって一切の要求を受け入れず、開発陣は当初の予定通り設計。
改の開発は驚異的なスピードで進められわずか二週間で設計を終了し更に二週間後には試作品が完成。
同時に生産ラインを先行して確保することにより、試作と性能試験と並行して直ちに大量生産を開始。
小規模な変更はあったものの驚異的なスケジュールで開発、配備は進み、開発開始から僅か二月で前線に供給され始めた。
当然、古参自衛隊員を中心に性能低下および初期不良に対する反発があった。
だが一人二丁とはいかなくても各隊員に確実に供給された上、壊れてもすぐに新品が供給される量産性。前線で相互に部品を交換出来る互換性。
そして使いやすさから新隊員を中心に圧倒的多数に支持された。
「改を渡されたときは嬉しかったな」
「大変だったものね」
戦争中を思い出しながらアイリは言う。
「六四式を渡されたけど部品点数が多くて整備大変だったわ。弾も7.62ミリで少なかったから戦場で遺棄された八九式持ち帰ったり、モンスターに壊された二〇式の部品集めてダイナが完品を作り上げたりしたものね」
「改が出来て工場直送の新品が使えるのは本当にありがたいよ。無茶な戦いをしてもすぐに補充できた」
二〇式の採用と大量配備により諸問題、特に前線の武器不足を解消した功績は大きく、日本側の反攻の礎を作ったと言って過言ではない。
性能的には世界の正式小銃の中でイマイチな二〇式改だ。
だが、必要とされる時期に開発され、必要とされるだけ提供されたという点で評価されている。その点で歴史に名が残る名兵器であることに間違いはない。
「それでも今は改二を使っているけど」
だが、戦争での戦訓や不良箇所を改良し性能が向上した改二が戦後に完成、配備されてからは、新機種が好まれるスマホのように改は改二に取って代わられた。
「自衛隊は勿論、冒険者の間でも改二が出回っているだろう」
細部はともかく改二は改とほぼ同じでありラインをそのまま転用できることもあり、大量生産された。
戦後になってもライン維持、ライン要員の雇用維持のためもあり、今も大量生産している。
殆どは、再度の戦争とその時の部隊拡張に備えて予備兵器として自衛隊の倉庫に保管されている。だが、大量に生産されているため、倉庫に入りきらないくらいだ。
そのため海外への輸出も捨て値、原価どころか補助金を出してでも売ることを検討、交渉も行われているという話もある。
結果、二〇式改は急速に過去の銃になりつつある。
歴史になるには浅く、後継機が出たため新品でもない中途半端な状況だ。
しかも、他にも問題が出ている。
「改なんてそこらの戦場跡に行けば手に入るだろう」
大量に配備されたため戦場で遺棄されることがある。
装備していた隊員が戦死して戦場に置き去りにされたのが一般人やマニア、犯罪者に回収され流通している。
また一部の不届きな隊員、戦争で採用基準が甘くなったり、現地で入隊する隊員が増え、質が低下。
役得、ボーナス代わりに銃を横流しする事態も出ていた。
「前から流通はあったけど、どうも新門市の中で起きているみたい」
「大量に作られたから、出回っていても不思議じゃないだろう」
「改二が手に入るのに、わざわざ改を使う?」
「確かに」
改二は改に比べて高価だが、大量生産されているため冒険者の間でギルド経由で購入出来る。
型落ちの改をわざわざ購入する冒険者などいない。
「それなのに出回っている。何処か大量購入している?」
「していないな」
ダイナの周りでも改を大量購入したという話は聞いていない。
そんな奇特な人間などいない。
戦場を歩けば、未だに見つかるレベルで落ちている。
ドロップ品の外れ枠に近い。
「新門市の外に出ていないの?」
「それも考えたけど、外に出た形跡はなく、内部で使われているみたい。それが余計に変なの」
「新米が予算をケチって購入しているとか?」
「冒険者はそんなに増えていないわよ」
ダンジョンが儲かるという話が外に出回って、やってくる人間はいる。
だが、現実を、ダンジョンの内部が、あまりにも危険すぎる事を――大量のゴブリン、致死性のトラップ、狭く暗い空間という悪条件で少人数で入るなど自殺行為だ。
命を惜しんで辞める人間が殆どだ。
それに冒険者を続ける者も大概はギルドに所属して銃の講習を受けるか、自衛隊からの除隊者だ。
彼らは銃についての知識があるため、改二を求める。
改を求めることはない。
「それなのに改を使うなんて、ド素人といったところよ」
「流れているのは改だけ? 他の装備品は?」
「そこも集めているみたい。やっぱり型落ち品ね。ただ、そこそこ有名な放出された装備ばかり。新米みたいね。手榴弾とかもあるけど、殆ど手に入るものばかりね」
アイリは肩をすくめていった。
だが、ダイナは考え込んでいた。
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