喫茶店
二人が入ったのは駅前広場を見渡せる喫茶店だった。
この手の店のことを知らないダイナがネットで調べたり、ギルドマスターのエイブルに相談して決めた店だ。
ロケーションの良さとメニューが豊富なことで十代から二十代に人気の店だ。
特にクリーム山盛りのパフェが人気で、映える上に美味しいと評判だ。
ダイナは緊張しながら、アイリが気に入ってくれるか心配しつつ喫茶店に入る。
店内は柱が黒く壁が白いクラシックなインテリアで落ち着いた感じに整っている。
けばけばしい内装、色とりどりの彩色が苦手なダイナにとっては落ち着ける空間でホッとする。
「いらっしゃいませ」
入ってきた二人に三十代くらいのマスターがカウンターから挨拶をした。
鍛えているのか背筋がまっすぐで、お辞儀の姿勢も綺麗で表情も明るい、好印象の方だ。
だが妙に隙が無く、二人の全身を、全てを品定めされているような気分になった。
「ご予約でしょうか」
「ええ、木戸で予約しています」
マスターに尋ねられ、ダイナは緊張しつつ答えた。
「此方へ」
案内される間も、行動を見られているような違和感をダイナは感じた。
いや、違う、敵に偵察されているか、偶然戦場で出会った味方に能力を判定されている時の気分と同じだ。
「中々良さそうな店ね」
マスターの視線にダイナが緊張しているとアイリが声をかけてきて、ダイナは、はっとする。
今はアイリを連れてきている。彼女の事を考えないと。
ダイナはマスターの事は気にしないことにした。
「此方でございます」
マスターの案内で予約をしていた窓に近い席に二人は座る。
下がっていくマスターの姿を見ても隙が無い。此方を警戒している、それに足運びが何があっても対応出来るような、すり足しかも足音が無い。
かなりの手練れだとダイナは思った。
だが、マスターへの意識はすぐに途切れる。
「ふふんっ、結構良いじゃない」
席に座ったアイリが声をかけてきたからだ。
露骨なほど明るい声でアイリは、この店を予約したことを褒めちぎる。
唯我独尊、気ままなダイナがここまで用意するのは余程のことだ。自分が気に入られていることの証明だった。
気分を良くしたアイリは人気のパフェを頼む。
ダイナはケーキセットを頼む。
意外だがダイナは甘い物が好きで自分でも作るし、外でも食べる。
ただ、パフェは量が多いので頼まない。
持ってこられたパフェをみて、アイリは食べきれるのか心配になるほどだ。
だが、すぐに心配は消え去る。
「美味しい」
一口目を食べて、笑みを浮かべるアイリの顔を見て安堵した。
凄い勢いで食べてゆき、既にパフェの半分くらいは消えている。
甘い物は別腹、とか女子は言うが本当だったのだ、とダイナは改めて思う。
ただ、何処か人を信じ切れないところがあるダイナは、アイリが自分に気を遣って作り笑いをしているのではないかと思ってしまう。
アイリとは親しいだけに、好意を持っているだけにダイナの不安は余計に大きくなる。
「連れてきてくれてありがとうね」
ダイナの心を見透かしアイリは感謝の言葉を述べる。
「ああ、美味しそうで何よりだ」
「本当に美味しいのよ」
「そう」
アイリがそう言って安堵するが、まだ少し不安がダイナには残る。
戦争中からダイナと濃密な時間を過ごしているアイリは、ダイナの不安をすぐに感じ取り、呆れると共に悪戯心を芽生えさせた。
「そんなに不安なら食べてみなさいよ」
アイリはスプーンでパフェを掬ってダイナの前に差し出した。
「えっ?」
突然アイリが目の前に差し出したスプーンに、いわゆる「あーん」にダイナは驚く。
「はい、あーんっ」
戸惑うダイナを見て楽しそうにアイリが口にする。
周りの視線が集まり恥ずかしい。
アイリは食べさせたくて笑顔のままだ。
食べないと、あとが怖い。
アイリは怒ると怖いのだ。理不尽な事で怒ることはないが礼儀などでは厳しい。
遠慮すれば、あとで確実に怒る。
それ以上に、ダイナは食べてみたかった。
好きな異性が自分にしてくれる「あーん」を。
思春期特有の恥ずかしさで抑えていたが、やはり異性から「あーん」とされるのは夢だ。
そのチャンスを逃してはならないという思いがダイナの中で急激に広がる。
「あーん」
ダイナは口を広げ、アイリが差し出したパフェを食べようと身を乗り出した。
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