第二話 素人集団
待ち合わせ
異性とのデートは思春期にとって一大イベントだ。
相手にために、どんな事をすれば良いか、デート先、服装など考えるが一杯だ。
楽しんで貰えるか、何処かでミスして嫌われないか、心配が高まる。
同時に一緒に行けると楽しみにしている。
この二つの心の揺れ動きがドキドキさせ、期待と増していくのだ。
「大丈夫かな」
その点ダイナも同じだった。
この前のお礼にアイリを楽しませたい。約束を果たすためにパフェの美味しい店を探し当て、新門市ターミナル駅の近くに店を発見した。
待ち合わせの場所を駅前広場に設定して待ち合わせしている。
「喜んでくれると良いけど」
アイリとは戦争中からの付き合いであり、楽しんで貰いたい。
いや、そんなのは建前だった。
戦争中からバディとして以上の好意を、異性としてアイリをダイナは意識していた。
嫌われたくないし、一緒にいたい。
ただ、その感情が異性への恋と気がつくにはダイナは精神的に未熟だった。
モンスター退治では凄腕でも、思春期に入った少年、戦争で青春時代を止められていたため高校生に入っても恋に意識を向ける事は少なかった。
唯一意識を向けるのがアイリであり、余計にドキドキしていた。
「床屋に行っておくべきだったか」
二、三ヶ月に一度、髪がうっとうしくなったら床屋に行く程度だ。
戦争中は仲間に切って貰っていた。
アイリがやたらと切りたがるので、恥ずかしくて自分のナイフで切り落としていたが、止めなさいと言って結局捕まり切られていた。
さすがにそんな事は出来ない。だが、床屋に行く時間はもうない。
「服も、これしかないんだよな」
戦争が終わってからもダンジョンに入るダイナは、ダンジョン用の服、動きやすく地味な色合いで、汚れても構わない服しか持っていない。
よそ行きの服などほんの少しだ。
白いシャツに生地の良い黒い服に、スラリとした黒のズボン。
これが精一杯だ。
他はダンジョン用でつや消しのブラックや防水加工でゴワゴワした服しかない。
「これじゃみっともないかな」
今からでも服屋に入ってマシな服を選んで貰うべきか、と思ったが手遅れだった。
「お待たせ」
やって来たアイリが声をかけてきた。
「仕事が少し長引いちゃって。遅れちゃった?」
「いや今来たところ」
照れながらダイナは答えた。
仕事帰りと言いながら、整った髪に、うっすらと化粧がしてあり、いつもより綺麗だ。
服装も白いワンピース、それも上に行くほどピッタリしていて身体のラインが分かってしまう。
赤いジャケットを羽織っているが、ゆったりしている上に前が開いているので、風に揺れて開くと身体のラインが所々確認出来てしまう。
しかも胸のあたりも開いていて谷間が見えてしまう。
ガン見した後、失礼と思ってよそ見するダイナだが、視線をついつい戻してしまう。
「どう?」
「凄く綺麗だよ」
「うふふ、ありがとう」
言葉は少なかったが、普段こういうことに慣れておらず、ダイナは黙り込んでしまうことをアイリは知っている。
綺麗だと言わせただけで語彙力のダイナには最上級の賛辞である事を知っているだけに自然と笑みがこぼれる。
自分に向き合ってくれると思うと共に、何処か不安そうな子犬のようで可愛いのだ。
「さあ、行こう。パフェ楽しみにしていたんだから」
「あ、ああ」
さりげなく腕を上げる、腕を組んで引いて欲しいアイリだった。
だがダイナは手を取るのを躊躇した。
昔から人に、特に好意を持った相手に自分の意志をぶつけることが苦手なのだ。
戦争前は虐めと教育虐待に遭っており、人に物事を強要する事を嫌がる。
人の命に関わる事は別で、モンスターに襲われたときなどは突き飛ばしたり、抱き上げて安全なところまで運ぶことはある。
だが、危機が迫ったときだけだ。
普段は、奥手なほど引っ込み思案だ。
戦場での即断、ドラゴンのブレスに向かって行くなど想像出来ないくらい躊躇し手を取るべきか悩んでいる。
そんな戦場での荒々しさと普段のシャイなところのギャップもダイナの魅力であり眺めていたい。
しかし何時までも見ていては時間が過ぎて仕舞う。
「ほら、行きましょう」
アイリはダイナの手を握り引っ張った。
「!」
ダイナはアイリに手を握られて驚くが、温かかく柔らかい感触を逃したくなくて手を離すことなど出来なかった。
「ねえ、どこに連れて行ってくれるの?」
「……この先の喫茶店だよ」
ようやく悩みを振り切ったダイナはエスコートするために前に出てアイリをリードし始めた。
怯える子犬のようなダイナの姿も良いが、いつものように前に進むダイナの方がらしくてアイリは好きだった。
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