ダイナを心配するアイリ
今にも泣きそうな顔でアイリはダイナを叱る。
「ドラゴンのブレスに正面から立ち向かうなんて無茶よ」
「ビーム系じゃなくて燃料系だから大丈夫だと思って」
「でも焼け焦げたらどうするつもりだったのよ」
改めてアイリはダイナの身体を隅々まで、怪我がないか見渡す。
「君はいつも無茶をするんだから」
新門戦争の時からダイナはモンスター相手に無茶な戦い方をしてきた。
側で見ていたアイリはいつもハラハラして見てきたものだ。
「心配したんだからね」
「仕方ないよ、あの状況だとああするしか、他に方法はなかったんだ」
「嘘、そういう状況だと嬉々として飛び込むくせに」
「……」
アイリに図星を言われてダイナは反論出来なかった。
正直言って、厳しい状況ほど身体が興奮し、前に出ようとしてしまう。
小中学校では、いじられたり、虐められても萎縮するだけで反撃しなかった大人しい性格だった。
だがモンスターを前にすると何故かやる気が、いや闘志が湧いてくる。
スポーツを楽しむ、と言うより、生存本能がアドレナリンを噴出させ、身体が興奮するのだ。
その時は何故か生き生きとしている。
死の淵に立たされてようやくやる気が出るのが、ダイナだった。
自分でも異常だと思うが、戦っている間は興奮に身を任せている、いや、楽しんでいる。
戦っている最中と言うこともあり、止められない。
終わったあと、異常性に気がついて、自己嫌悪になる事もあるが、またモンスターと戦っていると、いやダンジョンに潜り込むと興奮し楽しんでいる。
最早、自分の本質だとさえ思っている。
「分かっているよ。だけど……」
そのことはアイリにも戦争時代に話したこともある。
彼女も知っているはずだ。
改めて話そうと思った。本当の理由に気がつく前に。
「知っているよ。ダイナが私の為に戦った事」
ダイナは見抜かれて驚いた。
「私がホールの中に押し入れちゃったから閉じ込められて、戦う事になったから」
「竜牙兵に襲われたから仕方ないよ」
アイリのいていることは事実だ。
だが、もしアイリが突き飛ばしてくれなかったら、竜牙兵にダイナは刺し殺されていただろう。
その点はアイリに感謝しているし怨んではいない。
ドラゴンと戦う事になったが仕方のないことだ。
「でも、私が中に入れちゃったから戦いに行ったんでしょう」
だが、アイリは気にして泣いてしまっている。
ドラゴンに突き進んでいったのはダイナだが、きっかけを作ったのは自分だと思い込んでいた。
アイリは黙り込んだが目に涙を浮かべている。
こういうとき、どうすれば良いかダイナには分からなかった。
対人関係が希薄で戦場以外でのコミュニケーションスキルが殆ど無いダイナに気の利いた事など言えない、
むしろ、テンプレートで言うかけ声の偽善を知っているので、励ましの言葉一つ出せない。
困って周りを見ているとコンビニが見えた。
ダイナはアイリを連れてコンビニへ向かった。
そして店内でタマゴと青ネギ、焼き肉のタレ、食パンを購入すると外に出てケース、背嚢の奥底に入れていたすじ肉を取り出す。
上手い具合に底の方で潰されたおかげで柔らかくなっている。
適当なプレートにサランラップを巻き付けまな板代わりにすると、すじ肉を出して、細かく切る。
そこへ黄身と焼き肉のタレ、青ネギを加えて混ぜると食パンに挟んでアリサに渡した。
「はい、ドラゴンのタルタルステーキ」
元は騎馬民族が馬の固い肉を馬の背中と鞍の間に入れて一日中走って柔らかくして作った料理だ。
ダイナは真似して、作ってみた。
アイリは宇土、小さな口を開き、一口ずつ、食べていく。
そして徐々に食べる量が増えていく。
固い肉だが、適度な一で切り刻まれているのと背嚢の底で叩かれたおかげで柔らかくなっている。
甘辛い焼き肉のタレが舌を刺激し、青ネギの香りが鼻孔に広がると共に臭みを消してくれる。
そしてタマゴの黄身がまろやかな味にしてくれる。
美味しくて、泣いた疲れもあってアイリは全て平らげて仕舞った。
「ありがとう、ごちそうさま」
「良かった、気に入って貰えて」
ダイナはほっとした。
「ゴメンねこんなことまでして貰って」
「サンドウィッチのお礼だよ」
お腹が満たされれば、少しは落ち着くと目論んだが、サンドウィッチのお礼がしたいと思ったのも事実だ。
これでアイリが満足してくれたようでダイナは安心した。
しかし、突然ダイナは後ろからアイリに抱きつかれた。
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