フォースリーコン
「ありがとう。助かった」
少し発音がおかしいが、滑らかな日本語で相手は礼を言ってきた。
「あなた方は?」
「我々は合衆国海兵隊第四武装偵察中隊だ」
「フォースリーコンか」
フォースリーコンとは海兵隊の特殊部隊だ。シールズやデルタフォース並みの訓練を施され、同等の能力を持つとされる精鋭だ。
「ダンジョンに入らないよう注意書きを置いていた。他のパーティーが入っているときは同士討ちを防ぐため入らない事を沖縄の米軍に聞かなかったのか?」
ダイナはフォースリーコンの隊長に詰め寄る。
第四武装偵察中隊は沖縄の部隊ではなく、アメリカ本土カリフォルニアの部隊だ。
日本の第三海兵師団とその指揮下にいる第五武装偵察中隊とは協同で戦った事もある。
彼らは異世界と日本の微妙な関係をを理解しており、ちょっかいを、少なくとも連絡なしにダンジョンへ重武装で攻撃する事はない。
大方ディズニーランドイースト――ペンタゴンの連中が在日英軍の反対を受けて、手持ちの兵力を書類を読んだだけで立案して送り込んだ作戦を実行しているのだろう。
新門戦争時代も米軍との共同作戦の最中、ペンタゴンの連中の余計な指示で何度も混乱しウンザリした事をダイナとアイリは思い出し、再び同じ思いを抱いた。
「それは知らなかった。だが我々は命令で緊急事態につき遅滞なくダンジョンに入るよう命令されていた」
「緊急事態とは?」
だが隊長は悪びれた様子もなく答える。ダイナも追及せず彼らがどうして入ったのか尋ねる。
「ダンジョン内にアメリカ人が掠われたという情報を受けて救出の為にやってきた」
「そうですか」
ダイナは彼らの言い分を軽く受け流した。
捏造か、アメリカの工作員がわざとダンジョンに入り大義名分を作り出したと判断したからだ。
米軍は、個人ならば気の良い奴が多いが、全体としては強引だったり大雑把な事がある。
特に政治レベルでは、アメリカの利益のため、強引に介入しようとする。
それで戦場を滅茶苦茶にされた事も多くダイナは嫌な顔をした。
「この先はどうなっている? 情報が欲しいのだが」
「それならば陸上自衛隊を通じて得てください」
後ろで控えていたアイリが言う。
米軍にこれ以上、ダンジョンとはいえ日本国内で米軍に勝手な真似をされたくない。
今回密かにダンジョンを偵察していたのも他国の軍隊に引っかき回されたくないからだ。
「我々は司令部から命令を受けて行動している。諸君らには日米同盟に基づき、情報提供を求める」
「なっ」
ダンジョンのルールを破って平然としている。マナーを知らないといって開き直る若者と同じだ。
特殊訓練を受けている精鋭とはいえ、上官の命令遂行以外、何ら考えていない新品の兵隊、しかも合衆国が一番上だと思い込んでいる米軍兵士特有の病気だ。
しかもダンジョン内の地図を求めるなど、図々しいにも程がある。
「そんな身勝手な」
「良いですよ」
「ダイナ」
承諾するダイナに、抗議しようとしたアイリは声を荒げる。
「構わないよ」
穏やかに言うが、ダイナも怒っている。
だが、ここでこじれて際ア具戦闘になったらダメだ。
なら初めから情報を渡した方が良い。
アイリは不満そうだが、人数が違いすぎる。
余計な刺激を与えない方が良い。
「この先に大きな空間があって、ドラゴンがいる」
「ドラゴン」
ドラゴンという言葉に彼らに動揺が走る。
米軍も一応一緒に新門戦争を戦っているのでモンスターの情報は入っているハズだ。
「かなり強力だ。それに、ここには罠があるみたいで、入ったら通路が塞がれそうだ」
「……情報提供感謝する」
「危険だ。一度引き返して、態勢を整え直した方が良い」
「……いや、奥にアメリカ国民がいるかもしれない。調査しなければ」
「ダンジョンに入ったら助からないでしょう」
スケルトンでさえ一般人には脅威だ。
工作員かもしれないが、日本に密かに持ち込める武器などたかがしれている。
任務のために碌な武装を持たずにいるなら、ダンジョンに入って殺されるのがおちだ。
本当に一般人なら既に命はない。
「それに、あなた方も態勢は万全じゃないだろう」
フォースリーコンは米軍の中でも精鋭だが、今の彼らは疲れていた。
外とは違う、奥まで見通せない異様な内部空間。
ダイナ達は回避しながら動いたが、設置されている多数のトラップ。
人間とは全く違う度重なるモンスターの襲撃。
身体は緊張し消耗していく。
いくら、鍛え上げられているとはいえ精神的に参っている。
これでは戦えない。
「ドラゴンと戦うなら万全の態勢で臨んだ方が良い。今のあんたらじゃ無理だ」
「受けた命令は絶対だ」
疲れを振り払うように隊長はダイナに言い切った。
「我々は奥へ向かう。君らの協力感謝する」
「Go ahead!」と隊長が命じると彼らフォースリーコンは奥へ向かって進撃を再開した。
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