ダンジョンボス

「やっぱり何かいそうだ」

「そうね」


 偵察を再開して歩き始めたダイナとアイリはすぐに確信した。

 先ほどまで襲撃してきたスケルトンが全く襲撃してこない。

 そして一歩ずつ踏み出す度に肌がピリピリしてくる。

 全身の細胞が沸き立つような感覚がこみ上げ、五感が鋭敏になる。

 元から勘の鋭いダイナはもちろん、アイリもダンジョンの隅々まで把握し、身体の動きも良くなり、落ちている岩やトラップなどを普段より無意識に避けて進む事が出来た。

 そして、前方に居るであろう大物。ダンジョンコアを守るダンジョンボスと冒険者達が呼ぶ強力な守護モンスター。それも別格と言えるくらい強力な奴の存在を感じていた。


「あの先ね」


 先ほどから聞こえてきた水音が響く空間が見えてきた。

 狭い通路の片隅から見るだけでも広いドーム状の広間である事が分かる。

 そして、何か巨大なモンスターが動いている雰囲気、モンスターの吐息や身じろぎが、離れたところから感じるほど巨大であることを伝えていた。

 アイリは緊張しつつも広間に入ろうとした。

 だがダイナは肩を掴んで止めた。


「中に入らないで、多分、そこがトラップになっていて入ると扉が落ちて閉じ込められる」


 壁の色と隙間の位置からどんな罠かダイナは想像出来る。そして外れることは少ない。

 アイリは頷くと入らないよう足の位置を確認し、動かさないようにすると、そっと中を覗いた。

 ダイナもアイリの近くで、中を覗き込む。


 フウウウッッッッ


 巨大で荒い鼻息が響いた。

 流れ落ちる滝の先、五段ほど上がった広い台座のう上に鱗を纏った巨大なモンスターがいた。


 ドラゴン


 誰もが知る巨大なモンスターだ。

 古より物語で語り継がれた空想上の生き物有ったが異世界には現実に存在した。

 ドラゴンの中にも色々な種類がいるが、アレはブレス――炎を吐くタイプだ。

 狭いダンジョン内なので碌に飛べないだろうが、堅い鱗の防御と巨体による攻撃は恐ろしい。

 鱗は小銃弾は勿論、時に対戦車兵器さえ効かない。爪の攻撃は防弾チョッキに包まれた身体を両断し、巨体がのしかかってくれば潰される。

 歴戦のダイナとアイリは何度もドラゴンと対戦しているが、部隊で戦ったからだ。

 とても今の二人で勝てる相手ではない。

 勝てないことを分かっている二人は恐怖した。

 そして、そのドラゴンの視線が覗き込む二人に向けられた。


「ひっ」


 ドラゴンの視線を受けたダイナとアイリは悲鳴を同時に上げた。

 そして、ドラゴンが顔を二人に向けようとしたとき、二人はダッシュで元来た道を駆け戻った。

 狭い通路をドラゴンが通れるはずもない。

 だがブレスが奥まで届く可能性もある。

 二人はドラゴンを恐れて必死に通路を駆け抜ける。


「はあっはあっはあっ」


 ようやく足を止めて二人は肩を並べてしゃがみ込む。


「驚いたわね」

「うん」


 アイリの言葉にダイナは頷く。

 何度か新門戦争で戦った事があるが、これなんて無理ゲー、と思ったものだ。

 装甲車のような堅い防御に、火炎放射、しかもヘリのように空を飛ぶことが可能。

 戦車一個中隊が丸焼きにされたことさえあった。

 スティンガーなどの個人携帯対空ミサイルでは、堅い鱗を貫けず、火力と工夫で何とようやく撃ち落とせる相手。

 それだけドラゴンは恐ろしい。

 そのドラゴンを久しぶりに見て二人は恐怖と、逃げる時の全力疾走で心臓がバクバクと激しく鼓動していた。


「拙いわね。あんな大物がいたなんて」

「応援呼ばないと絶対に勝てない。ただ、奥に扉があった。あそこにダンジョンコアがあると思う。ドラゴンはダンジョンボスだな」


 ダンジョンはコアを守る為、一番強力なモンスターをコアの前に置いて守らせることが多い。

 ダンジョンに潜ることのおおい隊員や冒険者は、これらのモンスターをダンジョンボスと名付けていた。


「これだけでも十分な情報ね」

「分岐が多くて全て見る事は出来なかったけど、ドラゴンの存在だけで十分だろう」

「ええ、大まかな脅威度は分かったわ。スケルトンを作っていたのはドラゴンのために」


 多分、ダンジョンコアはドラゴンを作る為に低コストなスケルトンを大量に作り警備させ、残りのソースをすべてドラゴンにつぎ込んだのだ。

 そうであれば、規模に比べて歪なモンスターの構成も説明出来る。


「「あっ」」


 そこでようやく二人は、互いの顔が近いことに気がついた。

 話し込んでいる内に、自然と顔が近づいてしまったのだ。

 互いに視線を逸らそうとするが出来ない。逸らしたくない。

 お互い、相手の瞳に吸い込まれていた。

 心臓の鼓動は収まりつつあったが、ドキドキと鼓動の種類が変わり、早くなる。

 先ほどまでの会話はなくなり、二人は無言のまま見つめ合い、自然と顔を近づけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る