食事休憩
決して油断できないダンジョンの中だが、人間は休憩なしに動くことは出来ない。
長時間動いたあげく、ラスボスと遭遇し疲れて力が出ない、となったら、そこでデッドエンドだ。
ゲームと違ってリアルなのでリセットは不可能。
だから適宜休憩を取る。
一時間の内、五五分活動して五分休憩が理想的だ。
ダイナも、その原則に従って腰を下ろして休む。
勿論、周辺の安全は確認している。
「相変わらず結構大雑把ね」
「そう?」
ダイナの確認の仕方を見ていた愛理が言う。
「もう少し、よく見ると思うけど」
通路を戻り、休憩できる場所の周囲を確認してそれで終わりだ。
「休憩のために疲れたら本末転倒だよ。それにトラップ類はないことは確認している」
「けど、見落としがあったら?」
「その時はその時だよ。要はバランスさ」
疲れを取るために休憩は必要だが、その休憩の安全を確保するためにも作業が必要であり、疲れる。
そのバランスをどう取るかは個人の自由だが、ダイナの場合、思い切りが良い。
見落としてもそれは自分の腕のせい、自分が悪いと開き直っている。それで負傷したり死んだりしても仕方ないと考えていた。
「確かにそうね」
ダイナの考え方というか、死生観をよく理解している愛理は改めて確認し、愛理自身も開き直って食事の用意を始めた。
本来なら食事休憩は三時間に一度だが、夕食に近い時間なので食事休憩だ。
「はい、どうぞ」
パックから出したのはサンドウィッチだった。
タマゴサンドとBLTサンド、そして照り焼きサンドだった。
「うめえ」
頬張ったダイナは口に広がる旨味に驚きの声を上げる。
タマゴサンドはクリーム状になった黄身にほのかに甘みがあり、刻まれた白身がプニプニしていてアクセントになっている。
BLTサンドはレタスとトマトの間に厚切りベーコンが挟まれており、みずみずしいレタスが舌を覚醒させた後、ベーコンの旨味が舌を楽しませ、トマトの酸味が綺麗さっぱり味蕾を洗ってくれる。
そして一番嬉しかったのは、照り焼きサンドだ。
甘辛いタレで作られた鳥の照り焼きが挟まれており、パン生地にタレが染み込んでいて旨い。
鳥も弾力のある部分と皮の部分がほどよく切り取られ焼かれていて旨い。
「凄く旨い」
ダンジョンに潜るため行動食や休校日などに丸一日潜る時、昼食を食べるため、料理をする事のあるダイナには、その手間と腕がよく分かった。
「腕を上げたね」
「うふふ、ありがとう」
褒められた愛理は嬉しくて微笑んだ。
色々と用意周到にやってきたが、ありがと大使、普段から割の良いダンジョンを紹介してくれる。
多少嵌められても悪く言うことは出来ない。
「あ、タレがほっぺに付いているわよ」
「え? 本当?」
ダイナは無造作に手で拭おうとした。
「もう、そんなことしたら手が汚れるでしょう」
だがアイリはダイナの手を押さえて止める。
そして、手を伸ばしダイナの頬に付いたタレを指ですくい取ると自分の口に入れた。
「何時までも子供なんだから」
「わ、わるかったな」
口に指を咥える仕草を間近で見てダイナは顔を赤くする。
腹を一杯にしたあと魔法瓶から紅茶を入れて、食後の休憩をしているとダイナはアイリに尋ねた。
「さて、この後どうしようか」
「調査を止めるの? 一時間くらいしか潜っていないけど」
「襲撃の頻度が多すぎる。これ以上続けると弾薬が足りない」
マガジンも弾も重いので大量に持ち歩けない。運ぶだけで疲れてしまうし動きが鈍る。
一応予備があるが、帰りの分、帰りにも同じ頻度で、いや更に頻繁に襲われる可能性もダイナは考えていた。
さらなる連戦となると今の弾薬では心ともない。
ゲームのようにボスを攻略してクリア、モンスターが現れなくなる、などということはない。
帰りのことも考慮するべきだ。
「ここで、帰るべきだね。この通路の先の方に比較的大きな空間があるけど」
「そうなの?」
「ああ、噴水か、滝があるのか水が流れ落ちる音がする。反響音が大きいから広い空間なんだろう。それに」
「それに?」
「出てきたのがスケルトンだけ、というのがおかしい」
ダンジョンの規模によって出てくるモンスターの種類は違う。
大きなダンジョンほど、強力なモンスターが出てくる。
だが、このダンジョンは規模に比べて今まで出てきたのがスケルトンだけというのはおかしい。
大量に出てくるが、それでも規模に比べて低い。
「奥に大物がいる可能性が高い」
スケルトンで余ったリソースを強力なモンスターにつぎ込んでいる可能性が高い。
たった二人では、現代兵器で対応出来ないくらい強力なモンスターが。
「そうね」
通常ならここで引き返すのが定石だろう。
少人数なのに弾薬などの不安がある状況で無理はするべきではない。
ダンジョンコアのありそうな巨大な空間がある状況証拠を掴んだだけでも十分な成果であり報酬が貰える。
「……ちょっと見ていかない?」
「そうだね」
だが、十代後半の二人の好奇心が勝った。
二人は紅茶を飲み干すと、装備を整え、奥へ向かった。
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