ギルド
「それで? 成果はどうだった?」
ギルマスのエイブルは、大成の成果を尋ねた。
「コアを回収出来た。それと金とかレアメタルで出来たドロップ品も」
大成はダンジョンで見つけた小物や装備品、宝石をケースから取り出しカウンターの上に置く。
「中々良い品だなダンジョン産は」
一つ取り上げ鑑定したエイブルは言う。
ダンジョンは地下を掘り進めるとき、地面の土の中から僅かに含まれる金や貴金属を得たり、残土をコアで錬成して金や貴金属を作りアイテムにする。
餌となる魔力を持つ人間、冒険者が入ってくるよう、アイテムで釣り寄せるためだ。
冒険者のダンジョン攻略失敗、ダンジョンにとっては冒険者の死が栄養となるのだ。
「さすがにマジックエンチャントはないか」
「出来たばかりで有ったら困るよ」
ダンジョンが生まれてから時間が経つほど、規模が大きくなるほどアイテムの質も良くなる。
特に魔法が付与されたアイテムは見た目以上の性能を発揮するため高値で取引される。
同時に規模が大きくなる上、中にいるモンスターのレベルも上がるため攻略が難しくなる。
出来たダンジョンを早々に攻略する大成には、マジックアイテムなど縁遠い。
「まあ、これ自体も良いものだな」
ただ、魔法で作る為か金属の質が良く、魔法が付与されていなくてもアイテムの素材だけでも高額で買い取ってくれる。
一番高額なのはダンジョンコアだ。
勝手にダンジョンを作る厄介なものだが、魔力を放出するため使い方次第ではエネルギー源となる。
また異世界と繋がり発見された魔法の研究に巨額の投資がなされており、世界中がコアを欲しがっており高値で取引される。
当然、今回提出したドロップ品の中で一番高く買い取られたのはダンジョンコアだった。
エイブルはテーブルの上に載せられた大成のドロップ品を鑑定し終えると、鑑定額をメモ書きして提示した。
「それでいい。いつも通り定額は現金で、残りは預かっていてくれ」
「おうよ」
そういってエイブルは札束を二つ、カウンターに置き、大成は無言で受け取り仕舞う。
「それと5.56ミリNATO標準弾二〇〇発と9ミリパラベラム弾二〇〇発。あとクレイモア二つに手榴弾も。代金は預かり金から出してくれ」
「結構撃つな。お前は狙撃するように撃つから弾はこんなに使わないだろう」
新門戦争の頃から大成は、銃弾を無闇に撃たない。
弾の補充が殆ど行われないため、節約する癖が付いた。その癖は冒険者になっても変わっていない。
「ダンジョンの中で射撃練習をしているんだ。地上の射撃場で撃つのは面倒だ」
訓練用の射撃場はあるが、使用許可を得るのが面倒だ。
さらに細かいルール、薬莢の数と発砲回数が一致しないと帰してくれない、など面倒が多い。
だが射撃の腕を鈍らせるのはダンジョンでの活動に死を招く。
だからダイナはダンジョンの中で撃って練習している。
あと正しい姿勢で撃つこと、という射撃場のルールも大成は嫌だ。
狭いダンジョンでは不自然な射撃姿勢を強要される。それに身体を遮蔽物に隠し銃だけ突き出して撃つこともある。
その練習が出来ないのは、不自由すぎる。現実に沿った撃ち方が出来ず、練習出来ないのは危険だ。
だからダンジョン内で撃つことが多い。
「ここにも射撃場があるぞ」
エイブルは床を靴で叩いた。
このさらに下にも地下室があり射撃場となっている。
当局に内緒で作ったので面倒なルールはなし。周囲に音が洩れてバレると困るので防音も完璧な場所だ。
「狭いからね。ある程度狙撃が出来る距離が欲しいんだ」
ただ、店より大きく出来ないため狭い。
ダンジョンは規模によっては数百メートル見通せる部分があることもある。それに冒険者はダンジョンの中だけで活動する訳ではない。
モンスターがダンジョンから溢れたとき、モンスターを狩り出しに地上で活動する事もあるし、門の向こう側へ参戦する事もある。
野外で活動する時遠距離狙撃が、出来ていた方がモンスターに対して有利だ。
狙撃の腕を鈍らせないために日々練習、出来れば百メートル以上の距離で撃てる場所が欲しかった。
ダンジョンに潜ったとき上手い具合に良い場所を見つけると大成はコアを回収した後、狙撃の練習をしていることが多かった。
その時は弾薬を消費する。
「小銃の弾薬代は締めて八〇〇〇円だ。あとクレイモアは二つで六万、手榴弾は六個で二万」
「高くなったんじゃないか?」
「だったら自衛隊で買うか?」
「止しておく。安くなったとはいえ二発でジュースの値段なんて馬鹿馬鹿しい」
昔の自衛隊は小銃弾がジュース一本と同じ値段だったという。
諸外国が小銃弾一発十円程度で調達しているのと比べると、えらい高値だ。
少量しか生産していない、訓練の銃弾をケチって備蓄も少ないため調達数が少なく、どうしても一発当たりの値段が高くなる。
新門戦争で幾度も弾薬不足に陥ったため、苦しい戦いを強いられた大成達はそのことを知って、怒りを露わにしたものだ。
「相変わらずソロか」
「ああ、パーティーのスキルが無いから」
一緒に組むバディは互いに命を預ける同志だ。そのため意思疎通は確実に取れるようにするスキルいや信頼関係が必要だ。
最近も、エイブルの頼みで新人と組んだことがあるが、彼はダンジョンの中で脚を挫いた。
バディを組んだベテランである大成に遠慮して捻挫のことを話さずにいたためモンスターと遭遇したとき遅れを取り負傷、そのまま切り上げて病院へ送った。
互いに話せるようにしておかなければならなかったし、大成は新人の怪我に気が付かなかった。
無事に帰れたが、意思疎通が出来れば怪我はなかった。
「戦争の時の事もあるしね」
戦争中、単独の偵察兵として行動する事が多かったこともあり大成は、パーティーを組むことは少ない。そのためのスキルもない。
エイブルもその事を理解しており、無理強いはしなかった。
「それで、今夜も潜るのか」
エイブルがケースを大成に尋ねた。
「いや、冒険の翌日は休養日にして空けている。銃の手入れと調整を行ったら、ここで夕食を取ろうと思うんだが」
その時、店のドアが開いた。
入ってきたのは自衛隊の制服を着た長く明るい髪をした美少女だった。
芯の強い光を宿した大きな瞳に細い眉、温和な笑みを浮かべた美しい顔。
体つきは成長が著しく制服の上から分かるほど素晴らしいラインが浮き出てきており、美人になりつつある。
だが、更なる成長を期待させるような僅かな未熟さがある魅力的な少女だ。
そして大成を見つけると微笑んで言う。
「ダイナ君」
「アイリ」
自分の名前を呼んだ美少女、かつてのバディの名前を呼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます