第一話 現代日本のダンジョン
新門戦争
木戸大成が、ダンジョンに入った翌日、彼は毎日通っている新設されたばかりで建材の匂いがまだ新しい校舎の公立新門高校へ登校した。
大成は比較的真面目な生徒で一時限目から授業を受ける。もっとも居眠りが多い。
ダンジョンに潜った翌日は特に。
最初は教師も注意していたが、やがて諦めて放置することにした。
それでも一応は真面目に授業を受ける気はあるらしく課題物や宿題はキチンと提出しているので赤点は免れている。
授業が終わると大成は、帰宅部のため、すぐに下校した。
同級生と一緒に帰ることはなく、まっすぐ自分の下宿にしているアパートの部屋へ向かう。
部屋に戻るとケースを担いで地下鉄へ行き、電車に乗ると最寄りのターミナル駅で降りる。
そのまま地上へ行きたかったが、駅構内で迷ってしまった。
「また工事中か」
先日まで通れた仮設通路が工事のために閉鎖されてしまっていた。
迂回路が書かれていたが、地図が簡略化されすぎて、動線のみ表示されており目的地が何処か分からない。
「復興しているのは良いんだけどな」
急速に作られた都市のため各所で建設工事が行われており、工事で通行止めなど日常茶飯事だ。
「ダンジョンより厄介だな」
半年前に終わった戦争の事を思い出して大成は苦笑する。
あのとき、前線に立っていたことに比べれば楽なことなのに、煩わしく感じる。
二年前、関東の某海岸に突如、島と共に門――異世界への通じる次元通路が現れた。
門から現れたのは正真正銘の魔物、ゴブリンやオーク、オーガ、スケルトン、はてはベヒモスに、ドラゴンさえいるモンスター軍団だった。
干潮時は陸続きとなるほど浅い浜を難なく突破したモンスター達は日本有数の人口密集地帯を襲撃し蹂躙した。
自衛隊が出動したが、初期はモンスターへの対処方法が分からず、被害が続出し全滅状態になる。
兵力が枯渇し、モンスターの大群を抑えきれなくなった自衛隊と政府は苦肉の策として、戦場一帯での民間人の加入、隊員として部隊に編入し兵力を補った。
大成も運悪く戦闘に巻き込まれ、身を守るために銃をとり、自衛隊の一員として参加した。
そして、一年前、反撃に成功しゲートの向こう側へモンスターの大部分を押し返すことに成功。
魔王を倒し半年後には今では新門戦争と呼ばれる戦争を終わらせる事が出来た。
だが、問題はまだ残っている。
門の向こう側にモンスターが残っており、自衛隊の戦力が張り付いていることがクローズアップされるが、他にも問題は起きていた。
「ここもだいぶ復興したな」
おおよその位置と方角、使える階段の位置の見当を付け、通行止めを迂回し遠回りしつつ何とか地上に大成は出た。
駅前の自動車が進入禁止となっている広場を突き抜け、歓楽街へ。
大通りを歩き、いくつか先の路地へ入り込み、少し暗い雑居ビルの地下へ降りていった。
そして数字がランダム表示されるタッチパネル式の電子ロックに、予め教えられている暗証番号を打ち込み、部屋に入る。
中はバー風の店内でカウンターの他、テーブルと椅子が並んでいる。
カウンターの奥には棚があり、酒が並んでいる。
一見、普通のバーに見えるが、壁に飾られる装飾品が動物の牙だとか槍や剣、盾などのファンタジーかゲームに出てくる建物の中といった感じだ。
しかも剣呑な感じでバーとは言えない、殺伐とした雰囲気が漂う店だった。
「おう、来たかダイナ」
カウンターの奥に居た人物が、大成の新門戦争時代のコールサインを、はげ頭で褐色の肌を持つギルドマスター、ミスリルバレットの店主に言われて大成は恥ずかしがる。
「大成(たいせい)だ。マスター、いやエイブル」
「よせよ。悪かった」
日本生まれのハーフの黒人店主ボブ・ロビンソンはコールサインを呼ばれて悶えた。
「それで、またダンジョンに潜ったのか?」
「ああ、情報を貰ったからね。生まれたばかりのダンジョンだと単独でもやっていける。それに」
「それに?」
「早い内に攻略して破壊しておいた方が良い」
「全くだ」
新門戦争を思い出した二人は頷きあった。
共に同じ部隊で死線をくぐり抜けた間柄でありモンスター、そしてダンジョンの厄介さを理解している。
「そんなにダンジョンに潜りたいなら自衛隊に残っていたら良かっただろう」
「もう、人に命令されるのは嫌だよ」
命令されて動くなどダイナもう散々だ、という気分だ。
自衛隊で嫌になったわけではなく、その前の中学受験のあたりから嫌になっていた。
特に魅力を感じない偏差値だけが高い学校に入るよう言われる生活。
与えられた問題をただただ解いて提出し、間違えるとしかられ、正解しても褒められず、むしろ出来て当然、解くが遅いと言われ、次の問題を与えられる。
無事に中学に入っても、次は高校、その次は大学だと言われたことで、ダイナは遂に燃え尽きた。
不登校になり、引きこもりになった。
かつて気晴らしにと言われて連れていって貰ったアウトドアの楽しさを、山登り漫画で思い出し、外に出るまで家の中に引きこもっていた。
それで運悪く、新門戦争に巻き込まれたが、無事に生き残った後、前の生活。
自分で自分の事を選べる状況を捨てたくなかった。
自立するためにも、自分の選択肢を持つためにも、収入を得られる冒険者を、単独で潜ることを選んだ。
「しかし、ペースが速くないか? 二日に一度は入っている様だが」
「それだけダンジョンが見つかることが多いんだ」
疲れたような声で大成は言った。
戦争が終わって問題となっているのが、日本側にダンジョンが生まれていることだ。
ダンジョンは、ダンジョンコアが周囲の魔力を取り入れて、作り上げる迷宮だ。
大きなダンジョンになると、守備のモンスターを生み出し始める。
そして一定の大きさになると、より大きな魔力――物質などに干渉する力を持つ生物などの中に流れるエネルギーを求める。
大地にも魔力はあるが、厄介なことに魔力が一番豊富なのは人間であり、新門戦争で魔物やモンスターが来たのは人間の魔力を得るため、食料のように魔力の供給源として得るためだった。
外にモンスターが出るようなると周囲は危険地帯となる。
本来なら警察や自衛隊の専門部隊に任せるべきだが、数が足りない。
そのため、苦肉の策として民間人を――特に新門戦争で自衛隊と共に戦った経験者を中心に駆除させていた。
彼らは何時しかゲームの職業、冒険者と人々に呼ばれるようになり、各地のダンジョンに入っていた。
大成もソロで活動する冒険者であり、戦争の経験もあって腕は良かった。
だが、全てを単独で終えることは出来ない。
特にダンジョンの外、武器弾薬の補給や情報支援の面でソロで完結する事は不可能だ。
そのため大半はギルド、冒険者達の互助組織に属している。
大成はエイブルが経営するミスリルバレットに所属し支援を受けていた。
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