現代冒険者高校生
葉山 宗次郎
プロローグ
物音を立てないように静かに近づく。
いくらゴブリン相手でも慎重に行くのがソロの冒険者だと木戸大成は考え、甘い行動を戒めている。
幸いダンジョンの中は魔力のお陰で星明かり程度には明るく見通しがきく。
モンスターほどではないがキャンプ好きのせいか夜目が利く方なので、大成にとっては十分な明るさだ。
先ほど見つけたモンスターの巣、その手前の曲がり角まで向かう。
勿論、重要な箇所ではヘッドライトを点けるが、奇襲するにはない方が良い。
「ゴブリン一二、ホブゴブリン一、シャーマン一」
巣にいる魔物の数を確認し、優先順位――殺す順番を頭に思い浮かべ二〇式小銃改二の照準を合わせる。
ア・タ・レと刻まれた安全装置のレバー位置をアからタに切り替える。
雑賀鉄砲衆の教え、霜が降るが如く、人差し指でトリガーを絞り、一発を放つ。
「げはっ」
狙い通りに5.56ミリNATO弾が頭の真ん中に命中。
小さな射入口から脳を押し上げ、骨を砕き、頭蓋骨の反対側をクレーターにして吹き飛ばした。
衝撃でおかしな声を上げただけで、何が起きているのかも分からずシャーマンゴブリンは死んだ。
「ゴフッ」
異変に気付いたホブゴブリンが、こっちに顔を向け、視線が合う。
そのまま大成は右目に狙いを付け、一発放つ。
「ぐおおおっっ」
右目を貫かれホブゴブリンは悲鳴を上げ暴れ回る。
頭蓋骨が分厚いためか、弾は貫通しなかった。
激痛が走るのか、ホブゴブリンは片腕を振り回し、近くに居た運の悪いゴブリンを吹き飛ばした。
そして、再びこっちを見て残った左目で睨み付ける。
「上位種だとやっぱり頑丈だな」
今度は左目に向かって放つが、避けられた。
「しゃあない」
安全装置をタからレに切り替えて胴体を狙う。
スリーバーストで放たれた三発の弾丸がオークの胸に命中しズタズタにする。
「がはっっっ」
肺に当たったのか、口から血を出してホブゴブリンは、仰向けに倒れ絶命した。
「ぐおおおっっっ」
残ったゴブリンが突撃してきた。
レーザーポインタを作動させ一匹ずつレーザー光を当ててトリガーを引く。
「ぎゃふっ」
「げふっ」
三連射で三匹のゴブリンを始末したが八匹がなおも接近してくる。
一方的に銃殺出来るが、仕留めきれる保証はない。
残ったゴブリンに組み付かれ嬲り殺しにされる可能性がある。
「予定通り退却だ」
小さく呟くと、安全装置をかけ、距離がある内に立ち上がり元来た通路を駆け抜ける。
そして首にナイフが突き刺さったゴブリンの脇をすり抜け再び曲がり角を曲がり、コードの先端に脇に置いておいた発火装置を取り付ける。
取り付けると曲がり角をそっと覗き込む。
「六、七……八」
追いかけてきたゴブリンの数と一致したので発火装置を三回、念を入れて五回握り壁に張り付く。
コードの先に仕掛けてあったクレイモアが点火し、ゴブリン達に六〇〇個のボールベアリングの嵐が降り注ぐ。
その間に小銃の弾倉を交換し警戒する。足音がないのを確かめると角からゆっくり覗き込む。
爆煙が収まり、視界が開けると曲がり角から通路の様子を見る。
予想通りゴブリンは吹き飛ばされ、地面に転がっていた。
警戒しつつ近づき、穴だらけになったゴブリンに銃口の上に付いた銃剣を突き刺す。
「十二匹死亡確認」
残りの七匹も銃剣を突き刺し死んでいることを確認して進む。
そして巣に到着する。
巣の前には巨大な扉がありそこに近づいていく。
「ぎえええっっ」
物陰に隠れていたゴブリン、ホブゴブリンに殴打された不運なゴブリンが背後から襲いかかってきた。
銃口を向けても間に合わない。
グリップを握る右手で小銃の本体を握り、銃床をゴブリンに叩き付けた。
「げへっ」
飛びかかってきたこともあり、避ける事も出来ずゴブリンの顔面に銃床が命中。
後ろの壁まで吹き飛ばす。
再び銃を構え直すと叩き付けられた衝撃で自由のきかないゴブリンに一連射、三発の銃弾を浴びせる。
「ぐへっ」
最初の連射で絶命したため、最後の一発は身体を痙攣させただけだった。
「ゴブリン一三、ホブゴブリン一、シャーマン一。確認した数は片付けたな」
念のため周囲を見渡すが、隠れられる場所は扉の向こうしかない。
そのまま、扉に取り付き明ける。
小銃を構えた先にあるのは空中に浮かび青い輝きを放つ八面体のクリスタル――ダンジョンコアだ。
周囲を見回して脅威が無いことを確認するとダンジョンコアを掴み、魔術式の書かれたミスリルの箱に収めた。
「回収成功」
それまでほのかに明るかったダンジョンが暗くなり、闇になる。
ヘッドライトを点けて、周囲に残されているドロップ品、金や貴金属で出来た小物や装備品、宝石を得ると入ってきた通路を戻っていった。
「さて、着替えるか」
出口の近くに置いた楽器ケースを開き中から防水袋を取り出す。
ゴブリンの返り血の付いた装備をキッチンペーパーで適当に拭いジップロックへ入れ、匂いが洩れないよう念入りに閉じる。
汚れを落としたあとチョッキを外し、服とズボンを防水袋に入れると、通っている高校の制服を取り出し着替えた。
安全装置を確認し槓桿を引いて薬室に弾丸がないことを確認してから小銃をケースに収め閉じる。
「行くか」
忘れ物がないか確認を終えると、ダンジョンの外に出て行く。
人気が無い路地裏だが誰も居ないことを確認してから抜け出し、マジックアイテムである隠蔽の宝珠でダンジョンを隠す。
誰も入れないようになったのを確認して、表通りに出て行く。
日の暮れかけた一八時前のため、通りには帰宅する学生や会社員の姿が見える。
「腹減ったな」
歩いているとコンビニから美味い香りがしたので、自動ドアをくぐりレジでチキンを一つ買う。
買ったチキン頬張りながら大成は、この町、関東地方にある新門特別行政区――通称新門市に借りている自分の部屋に戻っていった。
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