第1話
アイドル業界は熾烈な世界だ。
僕自身、あまりアイドルに興味はないがテレビやSNSでどのグループが人気なのかは大まかにだがは知っている。
僕が知っていグループだと○元康が作ったヨンハチ系グループや、最近話題の日韓合同プロジェクトから生まれた水みたいな名前のグループなどは知っている。
ただこれらが日本のトレンドを射止めたのはわずか数年。
4~5年と長い期間において全盛期の人気を維持し続けると言うのはとても難しいことだ。
2013年頃に流行った恋するなんちゃらクッキーの歌も今となっては懐かしいが、それ以降そのグループが出した有名な曲をよく知らない。
おそらくだが今現在のアイドルもどんどん時代やトレンドに流され風化していってしまうのではないかと思う。
素人目の僕が勝手な偏見だけで言えば「アイドルというのは一発屋」ではないか?
河咲桜が僕、氷川雪斗の家に来た。
急に訪れたビックスター河咲さんは僕の幼なじみである黒瀬茜音に自分のアイドルグループに入るようにオファーしてきた。
「今日は時間がなくてあんまり長居できないの。とりあえずここに資料だけおいて置くから。また後日会えないかしら2人一緒にでいいから。」
そう言って彼女は机の上に資料だけをおいてすぐに去っていった。
画面越しで見ていた川咲さんはもっと冷静沈着で礼儀正しい人という印象が強かったが、そのイメージは一瞬で崩れ去った。
電話やメールでもやり取りできただろうに急に家に押し掛けるなんて。
その後、全くの情報が追いつかない僕と茜音は2人で机の上に置かれた資料に2人で目を通した。
『colors 新規アイドルプロジェクト』
このタイトルを見たとき河咲さんが宣伝していたアイドルプロジェクトが頭によぎった。
おそらくそのアイドルプロジェクトの企画書が目の前にあるのだろう。
概要はタレント事務所colors所属の女性タレント4名+黒瀬茜音で結成されたグループを売り出していこうというプロジェクトだ。
「茜音この話受けるの?」
「受けるも何も、なんで私が選ばれたのかわからないし」
ソファに座って2人で話していると自然と茜音が距離を縮めてきた。
肩に頭が乗り、茜音の体重が軽く僕に委ねられる。
「アイドルってどう思う?」
「あんまりいい印象はない。業界的に」
「昔本当か嘘かはわからないけど、いろいろ話は聞いたことがある。枕をやっている人がほとんどとか、会食などでは過度なボディタッチをされるとか。」
「そんな話聞いたらやりたくないよね。」
そっと肩に手を回した。
「だけどね。心のどこかにそろそろ動き出さなきゃっていう気持ちもあるの。」
「うん。」
「別に前みたいに芸能人としてめちゃくちゃテレビに出たり、映画やドラマに出て演技したりっていう方向性じゃなくてもいい。普通の高校生として高校生活をなり直すのでもいいから何かしらの行動に出るべきなんじゃないかって。」
彼女自身、過去にあった出来事以来、ずっと塞ぎ込んでしまい自分から人と関わることをやめ、僕の家の中だけを社会として生活してきていた。
ただそれでは人間として堕落しすぎている。
彼女は真面目な性格だ。堕落している生活にそろそろ終止符を打ち何かしらの形で社会復帰したいと思っていたのだろう。
「だから河咲さんの話を聞いてみたい。」
「わかった。その意思を尊重する。」
「うん。ありがとう。」
胸の中が少し痛んだ。
そうか。君は新しい環境に出る覚悟があるんだな。
僕はまだその勇気はないよ。
僕ら2人は似たもの同士だと思っていた。
どちらも辛い過去を背負って生きている。
その過去から逃げ、2人で依存しあって生活してきた期間があった。
でも君は僕のおいてどこかに行ってしまうのか。
同士だと思っていたのは僕だけだったんだな。
「もしもし」
「はい、colors取締役代表の河咲桜です。」
「どうも氷川雪斗という者です。」
「君か。どうしたんだい?」
「今お時間ありますか?」
「ああ移動中だから大丈夫だよ。」
「なんで茜音なんですか?」
「なんでと言われてすぐにいい答えが出てこないな。感覚に近いかもしれない。私の脳が心が叫んでいるんだ。私がプロデュースするアイドルグループには彼女が必要不可欠だと。だから彼女を選んだ。」
「随分と曖昧ですね。」
「言語化はあまり得意ではなくてね。」
「でも茜音が芸能界に抵抗があるのは知っていますよね?」
「もちろん。」
「茜音のその抵抗はまだ消え切っていません。その状態で茜音を芸能界に戻して彼女は元気に仕事ができる確証はあるですか?」
「それに関してはこちらでは随分配慮をしたんだ。安心してもらっていい。彼女に危害を加えようとする輩は一切近づけさせない。それだけは約束をしよう。」
「信頼できないです。」
「土下座でもしようか?」
「わかりました。大丈夫です。」
「今の話を聞くにあーちゃんはアイドルをやりたいとそう言っていると捉えていいのかな?」
「いえ。今はまだ悩んでいるみたいです。一度会ってお話ししたいと。」
「そうか。」
「最後に1ついいですか?」
「どうした?」
「アイドルって人気が出ないと生きていけない仕事だと思っています。どんなアイドルも人気が出ている瞬間しか稼いでいない。最終的にアイドルを引退して普通のタレントとして派生していくパターンがほとんどです。正直茨の道だと思っています。それは運営側も同じことだと思います。それでも今回のアイドルプロジェクトをやろうと思ったきっかけって何ですか?」
「君は多分、黒瀬茜音のことをこの世の中で誰よりも知っている人物だと思っている。だけどねそれは大きな間違いだ。君が知っているのは幼なじみとしての黒瀬茜音だけ。私が評価しているのは芸能人としての黒瀬茜音だ。正直そんじゃそこらのモデルやアイドルと同じにしないで欲しいぐらいには彼女のカリスマ性は飛び抜けている。」
「だから意地でもアイドルにしたいと?」
「ああ。あの子は絶対に売れる。人気になる。」
「その自身も天才の感覚がそう言っているんですか?」
「そうだ。」
「自信満々ですね。」
「そりゃあそうさ。だって私は彼女をNo.1アイドルにするつもりなんだから。」
「そりゃあまた大層な夢ですね。」
「できないとバカにするか?」
「いいえ」
「やっぱり君も私と同じ側の人間だ。」
「え?」
「雪斗君。実はこのアイドルプロジェクトまだマネージャーが決まっていなくてね。」
「君、アイドルのマネージャーやってみない?」
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