番外編 夏祭り
第1話 待ち合わせ
夏休みが終わる少し前の日の夕方、佐藤一輝は自分の父親が運転している車の後部座席に座り夏祭りが行われている川辺へと向かっていた。
そして、車を走らせること数十分、一輝の父が駐車場に車を停めると。
「着いたぞ、一輝」
そんな風に後部座席に居る一輝に声を掛けたので。
「ああ、ありがとう、父さん」
そう言って、一輝は車から降りた。そして、
「それじゃあ、父さん、帰る頃になったらまた連絡するから、悪いけどその時は迎えをよろしく」
自分の父親にそう声を掛けると。
「ああ、分かっているよ、それと一輝」
「何、父さん」
一輝がそう聞き返すと、一輝の父は優しく微笑みながら。
「隣に居るのが立花さんみたいな美人さんだと色々大変だと思うけど、今日のデートは目一杯楽しむんだぞ」
自分の息子に対してそんな事を言ったので。
「ああ、分かっているよ」
一輝はそう返事をして、そのまま車から離れていった。そして、
「……綾香さんはもう来ているのかな?」
一輝はそう呟くと、左手に持っていた手提げ鞄の中からスマホを取り出して、綾香に向けて電話を掛けてみた。
そして、数コール経った後、
「……はい、もしもし」
そう言って、綾香が電話に出たので。
「あっ、もしもし、綾香さん、僕はもう駐車場に付いたんですが、綾香さんはどうですか?」
一輝がそんな風に綾香に向けて質問をすると。
「はい、私ももう駐車場に来ています、ただ今はお父さんの車の中に居るので、申し訳ありませんが迎えに来てもらえませんか?」
綾香はそんな事を言ったので、その言葉を聞いた一輝は彼女の父親と話すことになるかもしれないと少し緊張しつつも。
「……ええ、分かりました、それで車はどの辺りに停まっていますか?」
一輝がそう質問をすると。
「入り口から観て一番左奥の手前に泊めています」
綾香はそんな風に場所を教えてくれたので。
「分かりました、直ぐに迎えに行きます」
一輝はそう言って、綾香に伝えられた場所を目指して歩き始めた。
そして、駐車場の一番左奥に辿り着くと、そこに一台、全身黒色の如何にも高そうな車があり。
この車は彼女の家の駐車場で何度か見たことがあるので、一輝は改めて綾香に電話を掛けると。
「綾香さん、僕は今車の前に居るので、車から降りて来て下さい」
電話越しで綾香に向けてそう言うと。
「ええ、分かりました」
綾香はそう言うと電話を切ってそれからゆっくりと目の前にある車のドアが開き、一人の女性が車内から出て来た。そして……
「こんばんは、一輝くん、今日は夏祭りデートに誘ってくれてありがとうございます」
可愛らしく微笑みながら綾香はそんな風に一輝に向けてお礼を言ったのだが。
「……あっ、いえ、こちらこそわざわざ来てくれてありがとうございます!!」
そんな綾香から目を逸らしながら一輝はそう言った。
何故、今更これだけの事で一輝が目を泳がせているのかというと理由は明白で、夏祭りという事で、今日の綾香は浴衣姿だったのだが、そんな彼女は一輝が今まで観て来た中で一番美しく見えて。
一瞬で綾香に見惚れてしまった一輝は、そんな彼女から目を逸らし、何とか自分の心を落ち着かせようとしているのだった。
すると、そんな一輝の姿を観た綾香は、
「あっ、一輝くんも今日は浴衣で来てくれたんですね」
嬉しそうに微笑みながら綾香はそんな事を言ったので。
「えっ……あっ、はい、そうです、折角綾香さんが浴衣で来てくれると言っていたのに僕だけ私服というのはさすがにどうかと思ったので……あの、綾香さん」
「はい、何ですか?」
そう言うと、一輝は何とか視線を真っ直ぐ綾香に向けて、浴衣姿の彼女を一通り見た後。
「……その、浴衣姿の綾香さんは凄く綺麗です……あっ、勿論いつもの綾香さんも凄く素敵で誰よりも可愛いのですが、今の綾香さんはそれにプラスして美しさも足されたと言うか……とにかく、いつも以上に素敵です!!」
女性を褒め慣れていない一輝だが、それでもこんな綺麗なモノを見せてもらって何も言わないわけにはいかないと思い、一輝は頭に浮かんだ言葉をそのまま必死に口にした。すると、その言葉を聞いた綾香は、
「……ありがとうございます、一輝くん、そこまで言って貰えるのなら、わざわざ浴衣を着て来たかいがありました」
少し頬を赤く染めて嬉しそうに微笑みながら綾香はそう言った。そして、
「その、一輝くんの浴衣姿もとても似合っていますよ、何といいますか、いつも以上に可愛いです!!」
綾香はそんな風に一輝の事を褒めたのだが、その言葉を聞いた一輝は、
「……やっぱり、かっこいいではなく可愛いなんですね」
少し苦笑いを浮かべながらそう言うと。
「ええ、そうです、一輝くんからしたらこう言われるのは少し不満なのかもしれませんが、一輝くんにはかっこいいよりも可愛いの方が似合うと思いますし、私はそんな可愛らしい一輝くんの事が大好きですから!!」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、綾香はそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます