第129話 ワガママな嘘

 そして、そんな綾香の言葉を聞いた一輝は一瞬何を言われているのか分からず言葉を詰まらせたが、その後、少し時間が経って綾香の言葉を正確に理解すると。


「……えっと、綾香さん、どうしてそんな嘘を付いたのですか?」


 かなり緊張した様子で一輝が綾香に向けてそう質問をすると。


「それに関してはごめんなさい、一輝くん、本当はこんな嘘を付くつもりは無かったんです、でも、もし今日は家に誰も居ないけど私の家に来ませんかと言うと、もしかしたら一輝くんに断られてしまうかもしれないと思ったんで、ついそんな嘘を付いてしまったんです」


 綾香は少しだけ申し訳なさそうな様子でそう言ったので、一輝は少し考えてから。


「えっと、という事はもしかして、綾香さんは僕と二人きりになりたかったから嘘を付いたという事であっていますか?」


 一輝は綾香に向けてそう質問をすると。


「ええ、そうです、ただ、もしかして一輝くんは私にこんな嘘を付かれて怒ってしまいましたか?」


 綾香は一輝に対してそんな事を聞いて来たので。


「いえ、別に怒っては無いです、僕も夏休みに綾香さんと2人きりで過ごせるのはとても嬉しいですから、ただ、突然そんな事を言われたので、今はちょっと気持ちが落ち着いていないだけです」


 一輝が正直にそう答えると。


「そうですか、それは一輝くんに対して申し訳ない事をしてしまいました、それなら一輝くんは先に私の部屋に行ってのんびり過ごしていて下さい、私は後片付けを済ませてから部屋に行くので、それまでに頑張って気分を落ち着かせて置いて下さい、この後も一緒に過ごすのに一輝くんが緊張したままだと一輝くんの心が持たないと思いますから」


 綾香はそんな事を言ったので、


「……ええ、分かりました、綾香さん申し訳ありませんが僕の分の皿洗いもお願いします」


 一輝はそう返事をするとゆっくりと席から立ち上がり、リビングを出てから階段を昇り、綾香の部屋の中へ入った。


 そして、綾香の部屋に入った一輝は特に何かをする事もなく、そのまま床の上に正座で座ったのだが。


(綾香さんには落ち着いておいてと言われましたが、そんなの普通に無理でしょう!!)


 一輝は心の中で力強くそう叫んだ。


 何故なら一輝と綾香の二人は付き合って4ヶ月経つカップルで、今まで色々な事もあり何度か別れるかもしれない危機もあったのだが、その度に2人は頑張ってその壁を乗り越えて来て、今では自他ともに認めるラブラブのカップルになっていて。


 そんなカップルが夏休みに彼女の家、その上彼女の家族も居なくて2人きりとなると、この後どんな展開が待っているのかなど、これが初めての恋愛経験である一輝でも容易に想像できた。しかし、


(いやいや落ち着け!! 変な想像をするな!! それに綾香さんも僕と2人きりになりたかっただけで、そんな事を望んでいるとは限らないだろ!!)


 一輝は自分の頭の中に浮かんで来た邪な妄想を何とか振り払おうとその場で激しく頭を振った。すると、


「……あの一輝くん、大丈夫ですか?」


 一輝の背後から少し心配そうな口調で綾香がそう話しかけて来た。

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