第127話 二人きりのお昼ご飯

 そして、一輝に続いて綾香も自分の家へ入り玄関の鍵を閉めたのだが。


「……今日はコタロウの出迎えは無いみたいですね」


 物音一つしない家の中の様子を見て、一輝がそう答えると。


「……もしかしたらお昼寝をしているのかもしれません、コタロウはああ見えても良い歳をしたお爺ちゃんですから」


 一瞬間を置いた後、綾香はそんな事を言ったので。


「それならコタロウを起こさないように静かにしないといけませんね」


 一輝がそう答えると。


「そうですね、それで私は今から台所でお昼ご飯を作りますが、一輝くんは何処で待っていますか?」


 綾香はそんな事を聞いて来たので、一輝は少し考えてから。


「綾香さんが許してくれるのなら僕は台所の隣の部屋に居たいです、今日は綾香さんの料理をしている姿を観ていたいので」


 一輝がそう答えると。


「私の料理姿ですか? 別にそれは構いませんが料理をしている私の姿を観ていても一輝くんは何も面白く無いと思いますよ?」


 綾香はそんな事を言ったので。


「そんな事は無いです、えっと、急にこんな事を言ったらキモいと思われるかもしれませんが、もし綾香さんと結婚したらこんな景色が毎日見られるのかと思うと、僕はそれだけで幸せですから」


 一輝が少しだけ恥ずかしそうな様子でそう言うと、その言葉を聞いた綾香は一瞬動きを止めた後、少し頬を赤く染めてから。


「もう、急に何を言っているんですか、そんな事を言っても私は何もしませんよ……でも、そういう事なら今日は特別に私の料理姿を観ていても良いですよ」


 綾香は割と照れた様子でそう言ったので、そんな綾香の姿を観て一輝も余計に恥ずかしくなってから。


「……分かりました、それなら僕は邪魔をしない様に静かに綾香さんの料理姿を観ています」


 綾香から少し目を逸らして一輝もそう答えると。


「ええ、分かりました、一輝くんに観られていると思うと私は少しだけ緊張してしまいますが、一輝くんの期待に応えられるように頑張ってお昼ご飯を作ります」


 綾香は嬉しさと恥ずかしさが混ざった様な複雑そうな笑みを浮かべてそう言った。






 その後、二人は台所に向かい一輝は台所の隣の部屋にある長机の前に置いてある椅子に座ると綾香は台所の奥へと向かって行ってから。


「一輝くん、何か食べたいモノはありますか?」


 冷蔵庫の中を確認しながら綾香はそんな事を聞いて来たので、一輝は少しだけ考えを巡らせたが。


「何でも良いですよ、僕が希望を出しても材料が揃っているかは分かりませんし、それに綾香さんの作った料理ならきっと何でも美味しいと思いますから」


 最終的に一輝はそう結論付けて綾香に向けてそう言った。すると、


「……そうですか、分かりました、それなら今ある食材を使って私が思う一輝くんが好きそうな食べ物を作りますね」


 綾香はそう答えたので。


「ええ、それでお願いします」


 一輝はそう答えると、綾香は冷蔵庫の中から材料を取り出して、相変わらず慣れた手つきで料理を始めたので、一輝はそんな綾香の姿を目で追いながら。


(……やっぱり綾香さんは将来いいお嫁さんになりそうですね、もしその相手が僕ならこれ以上の幸せは無いんだけど、今の僕じゃあ綾香さんにはとても釣り合わないからな……)


 声には出さず心の中でそんな事を思いながら、一輝は綾香の料理をしている姿を静かに見つめていた。






 その後、20分くらい時間が経ってから。


「一輝くん、出来ました!!」


 綾香は笑顔でそう言うと、彼女は二人分の料理が乗った皿を持って一輝が座っている席の傍に歩いて来て一輝の前の席にその皿を置いた。


 そして、一輝は綾香が持って来た皿の中を見て、


「スパゲティミートソースですか、良いですね僕は大好きです!!」


 一輝がテンションを高くしてそう言うと。


「ふふ、そんなに喜んでくれたのならこれを作って良かったです」


 そんな一輝の様子を見て、綾香は嬉しそうに微笑みながらそう言った。そして、


「それでは早速お昼ご飯を食べましょうか、なるべく急いで作りましたがもう大分お昼ご飯を食べるのが遅くなってしまいましたから」


 綾香がそう言ったので。


「ええ、そうしましょう」


 一輝もそう返事をすると、フォークを持って頂きますと言ってから、フォークに麺を巻いてからスパゲティを口に含んだ。


 そして、麺をゆっくり味わった後、一輝がそれを飲み込むと。


「綾香さん、すごく美味しいです!!」


 一輝が笑顔を浮かべてそう言うと。


「そうですか、少し急いで作ったので上手く出来ているのか不安だったのですが、そう思って貰えたのなら良かったです、それとお代わりもあるので、もし足りないようなら遠慮せず私に言って下さい」


 綾香は嬉しそうな笑みを浮かべてそう言ったので。


「ええ、分かりました、それなら遠慮せずに頂きます!!」


 一輝はそう言うと、かなりお腹が空いていたからか、普段よりも速いペースでスパゲティを食べ始めたのだが。


 一方の綾香は直ぐには自分のフォークに手を付けず。


「……そんなに夢中になって食べてくれるなんて、相変わらず一輝くんは可愛いです」


 綾香は小声でそう呟くと、夢中になってスパゲティを食べている一輝の姿を少しうっとりとした表情で見つめていた。

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