最終章 彼女の家で

第125話 悩ましい2択

 その後、一輝たちが乗っていたバスは駅のすぐ近くにあるバス駅へ辿り着いて、一輝たち四人は料金を払いバスから降りた。すると、


「綾香先輩、今日は私たちもプールに連れて行ってくれてありがとうございました」


 そう言って、心愛は綾香に向けて頭を下げたので。


「いえ、気にしないで下さい、心愛ちゃんたちのお役に立てたのなら私も嬉しいです」


 綾香は笑顔を浮かべて心愛に向けてそう言った。すると、


「そうですか、でも、私が感謝をしているのは本当なので今後佐藤先輩との事で何か困った事があればいつでも私に相談して下さい、私は出来る限り綾香先輩の力になりますから」


 心愛はそう言ったので、綾香は自分の隣に立っている一輝の姿をチラリと観ると。


「分かりました、もしそんな事があれば遠慮せずに心愛ちゃんに相談させて貰います、でも心配しなくても私と一輝くんはとても仲が良いので多分大丈夫ですよ」


 綾香はそう言うと、荷物を持っていない一輝の左手にゆっくりと抱き着いて来たので。


「えっ、綾香さん!?」


 その行動に驚いて、一輝がそう呟いたのだが。


「どうかしましたか、一輝くん? 私たちは恋人同士なのでこれくらい何の問題もないですよね?」


 綾香は上目遣いでそんな事を言ったので。


「……まあ、それはそうですが」


 一輝は綾香から目を逸らしてそう呟くと。


「確かにその様子だと今は何の心配もなさそうですね、どうやら佐藤先輩は完璧に綾香先輩の尻に敷かれているみたいですから」


 二人の様子を見て心愛はそんな事を言うと。


「まあでも二人の今の関係は結構理想的だと思うぞ、立花さんもよく分かっているだろうけど、一輝は本当に決断力のないヘタレな男だから、立花さんの尻に敷かれるくらいの関係が丁度いいだろうしな、だから立花さん、大変だろうけどこれからも一輝の事を見捨てないでやってくれ」


 颯太は綾香に向けてそんな事を言うと。


「ええ、勿論です、それと斎藤くん」


「ん、何だ?」


 そう言って颯太が返事をすると、


「斎藤くんは心愛ちゃんの事をよろしくお願いします、まだ知り合って短い期間ですが心愛ちゃんは私の大切な友達なので心愛ちゃんが悲しむ姿を私は観たくないですから」


 綾香は颯太に向けてそう言った。すると、


「……ああ、分かっているよ」


 少し面倒くさそうな様子で自分の頭をかきながらも颯太はそう返事をした。そして、二人が会話を終えると、


「ところで綾香先輩、私と颯太先輩は今からここら辺にあるお店でお昼ご飯を食べようと思っているのですが……」


 心愛は唐突にそんな事を言ったのだが。


「はあ? いや心愛、俺はそんな事は今初めて聞いたぞ」


 その言葉を聞いた颯太は少し驚いた様子でそう言ったが。


「今言ったんですから当然です、後、折角ここまで来たんですから颯太先輩は今日一日私に付き合って下さい」


 何でもない様子で心愛は颯太に向けてそう言った。すると、その言葉を聞いた颯太は少しだけ考えてから。


「はあ、分かったよ、立花さんにもお前を悲しませるなと言われたし、仕方が無いから今日は一日お前の我儘に付き合ってやるよ」


 諦めた様子で颯太はそう言うと。


「ありがとうございます、颯太先輩、という訳で私たちは今からお昼ご飯を食べますが、先輩たちは今から何をする予定ですか?」


 心愛は改めてそんな事を聞いて来た。すると、その言葉を聞いた綾香は一瞬一輝の方を見て、その後、改めて心愛の事を見ると。


「そうですね、私たちはまだ今後の予定を決めていないので、今から一輝くんと話し合ってこの後の流れを決めようと思います」


 綾香はそう言ったので、その言葉を聞いた心愛は、


「そうですか、それなら今日はここで解散としませんか? 後は仲のいいカップル同士自由に過ごしましょう」


 綾香に向けてそんな提案をして来たので、綾香は少し考えてから。


「えっと、心愛ちゃんはそう言っていますが、一輝くんはどう思いますか?」


 一輝の方を見てそう質問をして来たので。


「別にいいと思いますよ、颯太もそれで問題はないだろ?」


 そう言って、一輝が颯太に向けてそう質問をすると。


「まあ、そうだな」


 颯太もそう言って納得したので。


「そうですか、それじゃあお二人とも、今日は本当にありがとうございました!! さあ颯太先輩、早速お昼を食べに行きましょう!!」


 心愛は満面の笑みで綾香と一輝にお礼を言うと、その後、隣に居た颯太の手を掴んで、繁華街の方へ引っ張りながらそう言ったので。


「ああ、分かったよ、それじゃあまたな、一輝、立花さん」


 颯太はそう言うと、そのまま心愛に手を引かれて繁華街の方へと歩き始めた。


 そして、人混みにまみれて二人の姿が完全に見えなくなると。


「一輝くんは私のお尻に敷かれているって言われていましたが、あの様子だと将来斎藤くんも心愛ちゃんのお尻に敷かれてそうですね」


 綾香は口元に手を当てて少し笑みを浮かべながらそんな事を言ったので。


「確かにそうですね、颯太にはそんなイメージは無かったけど、意外とそういう所は僕と似たタイプなのかもしれませんね」


 一輝は正直に思った事を口にした。そして、その言葉を聞いた綾香は、


「そうですね、ところで一輝くん、この後私たちは何をして過ごしますか?」


 一輝に向けてそう質問をしたので。


「そうですね、取りあえず僕たちも何処かでお昼ご飯を食べませんか? 長い時間プールで遊んでいて結構お腹が空いたので」


 一輝がそう答えると。


「ええ、私もそれが良いと思います……ところで一輝くんはどっちが良いですか?」


 綾香が唐突にそんな事を聞いて来たが、その言葉の意味は一輝はよく分からなかったので。


「どっちって何がですか?」


 一輝が正直にそう質問をすると。


「昼ご飯をどうするのかです、心愛ちゃん達みたいにお店で食べるのも良いですが、少し時間は遅くなりますがもし私の家に来てくれるのなら私が一輝くんの為に手料理を作ってあげても良いですよ」


 綾香はそんな悩ましい2択を一輝に突き付けて来た。

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