第121話 意外な特技と想定外

 その後、興奮しきった頭を冷やす為に一輝は数分間無心でひたすらプールで泳いでいると。


「えっと、一輝くん、お待たせしました」


 一輝がプールの端に辿り着くと、そう言って綾香がプールの上から話しかけて来たので。


「はあ、はあ……あっ、綾香さん、お待ちしていました」


 少し乱れた呼吸を整えながら綾香の水着姿からは目線を逸らして一輝がそう答えると。


「もう、そんなに恥ずかしがらないで下さい、何だか私まで恥ずかしくなるじゃないですか」


 綾香は顔を下に向けてそう呟いたので。


「えっ、あっ、そのすみません綾香さん」


 一輝はそう言って綾香の方へ振り向いた。すると、


「もう、一輝くん顔が赤くなっていますよ、私の水着姿くらい早く慣れて下さい」


 綾香は照れ臭そうに笑いながらそう言ったので。


「……分かりました、早く慣れるように頑張ります」


 一輝は内心絶対無理だろうと思いつつも何とかそう答えた。そして、


「それでは一輝くん、いつまでも話をしていないでそろそろ泳ぎましょうか?」


 綾香がそう言ったので。


「ええ、分かりました」


 一輝もそう答えて、二人は並んでプールを泳ぎ始めた。






 そして、二人は暫くの間黙ってプールの中を泳いでいたのだが。


「何と言いますか、少し意外でした」


 少し泳いでから足を止めた綾香が隣にいた一輝に向けてそう言ったので。


「意外って何がですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「えっと、その……失礼ですが私は一輝くんは泳ぐのはそんなに得意ではないと勝手にそう思っていたんです」


 綾香は少しだけ申し訳なさそうにそう言ったので。


「はは、まあそれは無理がないですね、少し前のマラソン対決で僕はあまり運動が得意では無い事は綾香さんにバレてしまいましたから」


 一輝が苦笑いを浮かべながらそう言った。そして、


「でも、そんなスポーツが苦手な僕でも一つだけ例外があって、それが水泳なんです、僕は小学生の頃に親に言われてスイミング教室に通っていたので水泳だけは人並み程度には泳げるようになったんです」


 一輝がそう説明をすると。


「そうですか、一輝くんの事がまた一つ知れて私も嬉しいですが、でも、少しだけ残念です」


 綾香がそんな事を言ったので。


「残念って何がですか?」


 一輝がそう説明をすると。


「だって一輝くんが泳ぐのが苦手なら私が手取り足取り一輝くんに泳ぎ方を教えて上げらると思っていたのですが、一輝くんが泳ぐのが上手なのでこの計画は駄目になってしまいました」


 綾香はそう答えると。


「えっと、それは何といいますか、すみませんでした」


 一輝が申し訳なさそうにそう言ったので。


「いえ、気にし名で下さい、私が勝手に一輝くんが泳ぐのが苦手だとそう思い込んでいただけですから、でも、そうですね、それならこうしてただ泳いでいるだけとデートをして味気ないですね……」


 綾香はそう言うと、室内を静かに見渡し始めた。そして、


「あっ、そうです」


 綾香はある一点を見ると何かを思い付いた様子でそう言った。そして、


「一輝くん、二人であれに挑戦しませんか?」


 綾香はそう言って少し離れた所にあるウォータースライダーを指さした。

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